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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第100回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
子路十三の六~八
 
子路十三の六
 
『子曰、其身正、不令而行。其身不正、雖令不従。』
 
子曰く、上に立つものが身辺を正しくすれば、いちいち命令しなくても、正しい道は実行される。その身辺がよこしまならば、命令しても、誰も従わない。
 
(現代中国的解釈)
 
命令されたら従わざるを得ない。それがいやなら、自ら事業を起こし、人を使う立場になるしかない。実際に多くの人がその夢を見ている。現代中国では、身辺の行ないは、ビジネスに関係がない。実際、筆者は、貿易の商談で複数の前科者と出会っている。本人も周囲も何とも思ってない様子である。多少やりすぎただけ、との認識だろう。
 
(サブストーリー)
 
不動産大手、恒大集団は、銀行融資にたより資産拡大に走った。多少どころではなく、盛大にやりすぎた。借入ができなくなり本業の不動産業では、資産縮小を余儀なくなれた。ところが、2017年から新規参入したEV車製造事業は、再建の柱として、継続された。普通ならまっさきに淘汰されそうなものだ。
 
その事業は、最終段階へ入っている。3月発売、とアナウンスしていた中型SUVの「恒馳5(17万9000元)」、6月、9月と延期を繰り返したが、11月下旬、ついに最初の100台が納車された。量産体制の構築に手間取ったという。しかし、評判はさんざんだ。某ユーザーは、公称航続距離602キロを確かめるべく、走行していた。しかし470キロ辺りで突然フリーズ、充電ステーションまで押す羽目になった。また別のユーザーが気温0度、高速道7対一般道3の条件下で走行したところ、341キロしか走らなかった。L2級の運転サポート機能が付くものの、全く機能しなかった。今後データを集めて修正していくつもりのようだが、しかし、これではユーザーではなくモニターであり、半完成品と言わざるを得ない。創業者、朱家印は、これらのすべてを主導した。未だに誰も逆らえない。
 
子路十三の七
 
『子曰、魯衛の政、兄弟也。』
 
魯国と衛国の政治は、兄弟のようである。
 
(現代中国的解釈)
 
政治が行き届いていたときも、廃れたときも、この2国はよく似ていた、ということのようである。
 
(サブストーリー)
 
現代中国の兄弟会社といえば、思い浮かぶのはスマホ大手OPPOとVIVOである。中国国内市場、9月のシェアは、1位Apple、2位 Honor(ファーウェイから分離)、3位 OPPO、4位 VIVO、5位 Xiaomi(小米)の順だった。順位の変動は頻繁ても、ここ2~3年、このメンバーで安定している。あとは、その他である。
 
OPPO創業者・陳明永とVIVO創業者・瀋煒は、共に段永平の創業した「歩歩高」に所属していた。OPPOは、歩歩高の投資を得る形で分離独立、VIVOは新事業部を立ち上げる形でスマホへ進出した。歩歩高としては、どちらかがうまくいけば良い、と思っていたのかも知れない。それが2社とも大成功を治めた。同じ遺伝子を持ち、オフライン店舗では隣同士出店していることが多いため、中国人ユーザーからは、そっくりに映る。
 
製品ポジショニングは、双方とも若者向けスタイリッシュ路線からスタートした。その後の戦略も、折畳み式や、ハイエンドに進出など、その時期までよく似ている。サプライチェーンもしかりで、どちらもコアプロセッサはQualcomm Snapdragonを基本に据え、そしてチップの自社開発を志向している。
 
あえて違いを強調するとすれば、OPPOは、写真の美顔修正機能と急速充電に、VIVOは撮影全般と音楽性能に注力しているという。いずれにしろ大した差がないまま、ともに世界大手となった。この先、どこでどのように分岐点を迎えるのか、注目したい。
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子路十三の八
 
『子謂衛公子荊。善居室。始有曰、荀合矣。少有曰、荀合矣、富有曰、荀美矣。』
 
孔子は衛国の公子、荊について論評した。「うまく資産を保有している。初めて資産を持ったとき、『なんとか間に合う。』少し蓄えができたとき、『これで十分間に合う。』豊かになったとき『華美になりすぎた。』と言った。」
 
(現代中国的解釈)
 
現代中国の暮らしぶりは、何とか間に合うから、十分間に合うほど豊かになってきた。中「国統計年鑑2022」という資料に、全国31省市の、年間平均賃金が載っている。それが都市部における非私営単位と私営単位に分かれているのが、何とも中国らしい。非私営単位とは、地方政府を含む公的機関と国有企業だろう。(非私営単位 / 私営単位)
 
北 京  19万4651元 10万0011元
上 海  19万1844元 9万6011元
チベット 14万0355元 6万6311元
天 津  12万3528元 6万5272元
浙江省  12万2309元 6万9228元
広東省  11万8133元 7万3231元
 
チベットが高給なのは、誰も行きたがらないからに違いない。民営企業が大きく劣るのも驚きだ。やはり国有企業は、親方日の丸で、恵まれている。北京・上海では400万円に近い。
 
(サブストーリー)
 
ところが同じ民営企業でも、IT巨頭になれば話は全くちがう。大手の平均月収データがある。

アリババ…3万3500元
貝殻找房…3万3300元 オンライン不動産
字節跳動…3万2800元 バイトダンス
螞蟻集団…3万2300元 アント・フィナンシャル
騰  訊…3万0800元 テンセント
快  手…3万0500元
百  度…3万0100元
滴滴出行…2万7500元
美  団…2万7300元
小  米…2万5000元 シャオミ
 
上位社は平均月収60万円以上になる。これならある程度、華美な暮らしもできる水準だ。貧富の差は拡がるばかりだ。
 

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