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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第40回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。

蕹也六の十七~十九

蕹也六の十七

『子曰、誰能出不由戸。何莫由斯道也。』

孔子曰く、「誰かが外へ出るとき、戸口を通らない者はいない。それなのに、どうしてこの道をとおる者がいないのだろうか。」

(現代中国的解釈)

中国メディアのスタートアップ関連記事には“野蛮な成長”というワードが頻出する。新しい市場は、成長するままに任せておく。正しい道などはない。仕入れ先や顧客、社会とのあつれきが明らかになったところで、はじめて規制に入る。起業家にとっては、日本よりはるかに自由な環境だ。しかし、調子に乗っていると、必ず責任をとらされる。最近はそうしたニュースが特に多い。

(サブストーリー)

例えばフードデリバリーである。同業界はスマホの普及とともに、猛烈な勢いで社会インフラに成長した。業界最大の問題は、「外売員」とよばれる配達員たちとのあつれきだった。彼らは配達遅延のペナルティーなど、きついプレッシャーを受けている。筆者はかつて注文を出したとき、配達員からメールが入った。指定時間に2~3分遅れそうだが、マイナス評価を付けないで欲しい、という依頼である。こうした評価が収入に直結するからだ。それが事故につながり、死亡率最高の職業の1つと評されている。某メディア記事によれば、上海では、2.5日に1人の配達員が“死傷”しているという。労働条件は明らかに劣悪だ。そこへ当局のメスがに入った。

業界2トップの1社、餓了蘑(アリババ系)は9月下旬、「当社は、新たに雇用した配達員に、個人事業主になるよう転向させたり、強制したりすることは禁じている。これに関連する国内法規を遵守する。」と表明した。いや、されられた。雇用主としての責任を回避するために、こうした行為が横行していたのだ。またモデル地区において、関連部門の指導のもと、新型傷害保険の加入を推進している。同時に、配達員の保護、ケアプログラムが実施されるという。餓了蘑にとっては大幅なコストアップ要因だ。しかし、配達員にとっては、ようやくまともな労働環境が整備されつつある。

蕹也六の十八

『子曰、質勝文則野。文野質則史。文質彬彬、然後君子。』

孔子曰く、「実質が文より勝れば野人である。文が実質に勝れば、それは事務屋にすぎない。文と実質は両立してはじめて君子といえる。」

(現代中国的解釈)

シェアエコノミーは中国社会を変えた。急速な浸透ぶりは、野人が疾走しているようなだった。その代表はシェアサイクルと、ライドシェア、つまり自転車と自動車のシェアである。ただこの2つには、大きな違いがあった。自動車は、登録ドライバーのマイカー、つまり余剰リソースを利用する、アイドルエコノミーとして成立した。一方、シェアサイクルは、運営企業が自転車を準備しなければならない。そのため資金調達合戦となり、そのことが後の“被害”を拡大さることになった。

(サブストーリー)

参入企業はした多かったが、先行したofo (小黄車)とMobike(摩拜単車)の2社による2トップ体制となった。とくに劇的な展開を見せたofoをみよう。

ofoは、北京大学修士課程にいた戴威ら4人の若者が、学内の移動問題を解決のため、2014年に創業した。まず2000台からのスタートだった。翌々年2016年にブレーク、5月に累計利用は200万回を突破。翌6月には累計500万回、9月には1000万回、12月には、早くも海外に進出。この年だけで4回の巨額資金調達に成功している。彼らは大学生起業家として、大いにもてはやされた。

しかし2018年末には、はやくも保証金の取付け騒ぎを起こし、実質的な破綻を迎える。わずか3年間の栄華だった。後には廃棄自転車の山と債権者の海を残した。2021年初頭の段階でも、1000万人以上の保証金未返還ユーザーが残っている。1人平均99元、10億元(170億円)もか必要なため、回収は絶望だ。

ofoも資金を提供した投資機構も、勢いだけで走り、簡単に底が抜けた。ベンチャー投資の行き過ぎ事例として、歴史に残るだろう。頭を使わない野人の過ちそのものである。

蕹也也六の十九

『子曰、人之生也直。罔之生也、幸而免。』

孔子曰く、人が生きていくには正直であるべきだ。これ無しに生きているのは罰を免れているに過ぎない。」

(現代中国的解釈)

現代の民間企業は、利益に対して正直というべきだろう。それに対し国有企業は、正直ではなく、裏技を多用する。数年前、国務院が国有企業に対し、乱脈な貸付けを禁ずる旨の通達を出していた。むやみに取引先へ貸付け、高い金利をとるのをやめよ、というのである。実際に融資を行ったかどうか、極めて怪しい。要は決算対策で、金をむしり取っているのである。地方に本拠を置く国有企業は、地方政府と一体だ。地域の総意でゾンビ企業を守っている。やがて調整は避けられない。

(サブストーリー)

民間の粉飾決算は、もっとストレートである。一世を風靡した、瑞幸珈琲(ラッキンコーヒー)はその典型だ。2017年11月、北京に1号店をオープン、半年後の2018年5月には525店舗を達成した。客席を持たず、デリバリーに特化した新しいコーヒーチェーンモデルの誕生だった。2018年末には2000店を達成、翌2019年1月には、一気に2500店をオープン、4500店となってスターバックス中国を抜き去った。そのままの勢いで2019年5月米国ナスダック市場へ上場を果たした。設立17ヵ月、史上最速だった。

しかし2020年1月、粉飾疑惑が持ち上がる。瑞幸は4月になってそれを認めた。架空取引の計上は22億元に上った。5月、経営幹部が責任をとって辞任、株価は持ち直したが、6月に上場廃止となった。まったく嵐のような騒々しい4年間だった。その後は、まじめに経営再建につとめたようで、2021年9月、最後の問題だった米国との集団訴訟が和解した。賠償金額は1億8750万ドルだった。また2025年までに期日を迎える4億6000万ドルの転換社債の扱いにもメドを付けた。同社の“血流”は復活した。正直に非を認め、処罰されてよかったのだ。

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