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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第84回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
先進十一の十三~十五
 
先進十一の十三
 
『魯人為長府。閔子鶱曰、仍舊貫如之何。何必改作。子曰、夫人不言。言必有中。』
 
魯国の人が大きな倉庫を作った。閔子鶱曰く、「元の倉庫を改築すればよい。何も新築する必要はない。」孔子それを聞いて曰く、「彼の言葉は必ず、本質をつく。」
 
(現代中国的解釈)
 
毎日優鮮という会社が、苦境に陥った。2016年2月、アリババは「盒馬鮮生」をスタート指せた。指定地域内に30分以内で配達する、オフライン、オンライン融合型の新型スーパーだ。同年末、アリババのジャック・マー会長は、盒馬の成功を追い風に、「新零售」を高らかに謳いあげた。新零售とは、ネット辞書に、「インターネットに依拠し、ビッグデータ、AIなど先進技術を用いて、商品生産、流通、販売プロセスをアップグレード、業態エコシステムを再構成する。オフライン体験とオンラインサービスを融合した小売り新モデル」とある。
 
(サブストーリー)
 
新零售の要は即配にある。その途を極めるなら、盒馬鮮生のように、店舗を構える必要はないはずだ。その考えを具現化した、倉庫から直送する業態が表れた。その代表選手が、毎日優鮮だった。
 
毎日優鮮は2014年創業、「精選2000SKUを最短1時間でお届け。全世界から産地直送、品質は安心安全。2000万人による共同選択。」が売りだった。店舗は持たず“前置倉庫(コミュニティ倉庫)”と呼ばれる倉庫からの直デリバリーにより急成長した。2018年には、全国100都市のデリバリーセンター、1万ヶ所の前置倉庫の建設。2021年のGMV(一定期間の契約総額)は1000億元を目標に掲げていた。
 
この目標は達成されたのだろうか。2021年6月、米国ナスダックに上場したばかりなのにまだ、2021年3Qまでの決算しか出ていない。その2021年3Qの決算では、プラットフォームに関わる収入が207億8200万元とある。これを4倍すれば800億元になり、目標を8割方、達成したともいえる。しかし前置倉庫は2019年の1500から今年は631に減った。1万カ所は夢物語だったのだ。2021年3Qには9.74億円の赤字を計上し、4年間の赤字は100億元に達するという。
 
2022年7月末、毎日優鮮は、30分以内の配達を、翌日配達にするという、サービス内容の根本的変更を通知した。その後、株価暴落、人員カットなどのニュースが駆け巡っている。当初のビジネスモデルは崩壊した。本質からずれていたのだ。
 
先進十一の十四
 
『子曰、由之瑟、奚為於丘之門。門人不敬子路。子曰、由也升堂矣。未入於室也。』
 
孔子曰く、「子路の琴は、私の家で弾くようなレベルではない。」それを聞いた門人たちが子路を軽んじるようになった。孔子はそれをたしなめ、「彼は表舞台には上がったが、極意には達していない、ということだ。」
 
(現代中国的解釈)
 
滴滴出行は、配車アプリという大きな表舞台を築き上げ、その頂点に君臨した。当局との折衝や、タクシー業界の対立、事件事故の処理など、新産業立上げに関わる障害処理を、パイオニアとしてすべて引き受けていた。ノウハウは極限に達し、業界地位は盤石と思われた。しかし、次々にライバルが登場してくる。その上昨年7月、セキュリティー保護に問題ありとして、新規ダウンロード禁止処分を受け、今年7月末には、80億2600万元の巨額罰金を課された。
 
(サブストーリー)
 
この間も配車アプリ市場は拡大を続け、ライバルたちは体制を強化した。「曹操出行」「T3出行」「如棋出行」などが融資を獲得し、大量のクーポン発行、つまり値下げ競争の原資を得た。さらに、テンセントとファーウエイという巨頭2社まで乗り出してきた。
 
テンセントは微信(Wechat)上に、配車アプリの比較サイトをアップロードした。目的地までの見積もりを比較する。価格ドットコムのようなものだ。ただし初出というわけではなく、アリババ系の「高徳打車」が先行していて、それを追いかける形だ。
 
ファーウエイは、正面から市場へ挑む。「Petal出行」というアプリをアップロード、北京、深圳、南京から展開を始める。配車市場の“表舞台”は思いのほか広く、大きかった。寡占できる市場ではなかったのだ。
 
先進十一の十五
 
『子貢問、師与商也孰賢。子曰、師也過。商也不及。曰、然則師愈与。子曰、過猶不及也。』
 
子貢が孔子に問うた。「子張(師)と子夏(商)は、どちらが優れていますか。」孔子曰く、「子張は、やりすぎ、子夏は不足。」子貢「では子張が優っているのですか。孔子「過ぎたるは猶及ばざるが如し。」
 
(現代中国的解釈)
 
中国ネット通販市場では、かつてアリババのライバルだった「易趣」に続き、専門通販「蜜芽」も、市場から撤退することになった。

 (サブストーリー)
 
蜜芽は、2011年、全職媽媽(専業主婦)創業者・劉楠が設立した、ベビー・マタニティーの専門通販である。ブランド品を中心に、本物保証、安全で楽しいショッピング体験の提供を目指した。期間、数量限定セールを看板に、業容は順調に拡大していった。2015年には、北京、寧波、重慶に保全倉庫を開設、百度や京東から人員をスカウト、投資も順調に集まり、国内最大の、ベビー・マタニティー専門通販となる。2019年には、胡潤「2019世界ユニコーン企業ランキング」で224位に選出され、企業価値は15億ドルとされた。
 
それが、2022年9月2日をもって、通販アプリを閉鎖すると発表した。今後はこれまでのサプライチェーンの運用経験と、つちかった芽摘の信用力を生かし、“兎頭媽媽”というブランドのアパレル企業に転身するという。今年5月段階で、芽摘の損益は“平衡”を維持している。余力のあるうちに転換を試みる。劉楠は、「垂直型専門通販は失敗したかも知れないが、中国のネット通販の発展には、総合通販とともに大きな貢献をした。」と述べた。その総合通販も、アリババが4~6月期、史上初の赤字を計上した。業界全体が、転換期を迎えているようだ。
 
 
 

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