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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第85回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
先進十一の十六~十八
 
先進十一の十六
 
『季氏富於周公。而求也為之聚斂而附益之。子曰、非吾徒也。少子鳴鼓而攻之、可也。」
 
季氏は周公より富んでいた。それにも関わらず冉求は、季氏のために増税し、財産を増やした。孔子曰く、「私の同志ではない。職君、太鼓を鳴らしてこの者を責め立ててよい。」
 
(現代中国的解釈)
 
アリババは長年、ソフトバンクGの金の生る木だった。日本企業が30%近くの株式を所持していたため、ネット上では、「アリババはどこの国の企業か?」という議論が常について回った。またこの外国人持ち株比率の高さによって、アリババ本体では、決済業務を扱えなかった。アリババが、フィンテック子会社、アント・フィナンシャル(現アント・グループ)を独立させた理由の1つだ。
 
(サブストーリー)
 
ソフトバンクGは、中国のハイテク、ベンチャー企業に幅広く投資している。中国人ビジネスマンの関心も極めて高く、同社の2022年4~6月期、巨額損失も詳しく報道された。そのソフトバンクGは8月10日、アリババ株を使用した資金調達の返済に、現金の代わりにアリババADR(米国預託証券)を差出した。これにより持ち株比率23.7%は、14.6%に下がり、関連会社扱いではなくなった。2020年、孫正義氏がアリババ取締役を、ジャック・マー氏がソフトバンク取締役をそれぞれ退任して以来の、大きな離間ベクトルが働いたということだろうか。
 
そのアリババも2022年4~6月期では、創業以来初の赤字を計上した。ソフトバンクGは2四半期連続、合計5兆円強の赤字を出した。日中IT界の象徴的存在、ソフトバンク-アリババのパートナーシップが、意味を成さなくなってきた。ソフトバンクは、トヨタに滴滴出行(DiDi)を紹介したように、日本企業の海外提携に注力すべきだろう。
 
先進十一の十七
 
『柴也愚、参也魯、師也群、由也喭。』
 
高柴は愚か、曽参は鈍く、子張は見栄っ張り、子路は荒い。
 
(現代中国的解釈)
 
自動運転技術は、どこまで進んでいるのだろうか。素人には評価が難しく、実際のところはわかりにくい。特に中国は、見た目重視の文化で、立派な外観にこだわる。子張と同じである。これは大きなパワーとなりえる。
 
(サブストーリー)
 
中国では、自動運転の見栄えが整ってきた。自動運転のトップランナー百度は、「蘿蔔快跑(ニンジン快速」)という無人ロボタクシーを立ち上げた。2020年の北京から始まり、上海、広州、深圳、武漢などに展開、2025年までに65都市へ拡大する予定という。
 
そして2022年8月上旬には、武漢市と重慶市が、全国初となる完全無人自動運転の運営許可証を発行した。武漢市は「武漢市智能網聯汽車道路測試和示範応用管理実施細則」を、重慶市は「重慶市永川区智能網聯汽車政策先行区道路測試与応用管理試行辯法」を制定、自動運転企業を指導、サポートする。申請には有人から無人へ、段階的に行う路上テストを必要とするが、百度はこれをクリアしている。同社の走行テストは3200万キロに及び、また北京など各都市におけるロボタクシー「蘿蔔快跑」の賃走回数は、100万回を超えた。
 
武漢、重慶では、年内には、人のいない完全自動運転を始める体制が整った。どのような結果が待っているのだろうか。
 
先進十一の十八
 
『子曰、回也其庶乎。屢空。賜附受命而貨殖焉。億則屢中。』
 
顔回は、理想に近いが、しばしば貧窮した。子貢は、天命に命じられずとも、財産を増やす。相場を張れば、かなりの確率で的中する。
 
(現代中国的解釈)
 
中国人は、みな相場師、バクチ打ちといって間違いではない。賭けに負けても、風水のせいにするなどして、すぐに立ち直る。かつて話題をふりまいた「名創優品」が苦境に陥った。創業もかけなら、危機脱出もまた賭けである。
 
(サブストーリー)
 
名創優品(MINISO)創業者の葉國富氏は、日本旅行時にこの業態の発想を得、2013年、広東省広州市で創業した。日本人デザイナー、三宅順也氏との共同創業という形だが、三宅氏は日本ネットでは、世界の最も有名な無名デザイナーなどとされ、実像ははっきりしない。
 
当初、名創優品のイメージは、日本もどきの安物商品だった。それが2020年にはニューヨーク市場へ上場するまでになる。ブランディングの精緻化に成功し、コスメを中心に“映える空間”を提供した。ハローキティやディズニー等、有力な17ブランドと提携、店頭は若い女性客で賑わった。イメージは好転し100以上の国と地域に5000店舗以上を展開するまでになった。
 
それが、ここへきてメディアにたたかれ、迷走をしているのだ。スペインのSNS企業アカウントで、チャイナドレスを「日本の芸者」と誤訳してしまう。その後、店内で中国の歌を流すのは禁止、調印式で日本国旗が掲げられていた、などの件も暴露され、名創優品は謝罪に追い込まれる。中国のネット民は納得せず「名創優品」は、日本企業なのか中国企業なのか、の議論が再び巻き起こる。
 
名創優品は、かつて日本もどきアプローチの成功で、成長したのは間違いない。他の10元店などの安売り店はがすでに消えているのが、その傍証になる。しかし、ここへ来てその日本もどきの振舞いが、プラスからマイナスへ転じた。この2~3年、“国潮”ブームが高まっていた。名創優品もこのトレンドに乗り、北京故宮博物院、河南博物院と共同ブランドを立ち上げた。商品のモチーフは、唐王朝時代の文化から、現代の宇宙開発まで、カバーした。
 
しかし、これらの努力では、日本もどきを脱することはできず、今回は手痛いしっぺ返しを食らった。この件が明らかになると、株価は2日で10%下落、1年半前の最高値からは、80%下落しているという。ただし忌避されたのは、日本もどきであり、日本製品そのものではない。

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