「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第157回
本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
陽貨十七の二十五~二十六
陽貨十七の二十五
『子曰、唯女子与小人、為難養也。近之、則不孫、遠之、則怨。』
孔子曰く、「女と小人だけは扱いにくい。近付ければ思い上がる。遠ざければ怨む。
(現代中国的解釈)
中国の新エネルギー車業界は、刻々と変化している。息つくヒマもないが、気まぐれな女性や小人たちの愛憎劇を見ているようで、とても面白い。BYD、テスラは、急成長を遂げ、2トップの地位を確立した。さらに“造車新勢力”として脚光を浴びた新興メーカー群がある。蔚来汽車、小鵬汽車、理想汽車という3社である。キャラの濃い創業者たちは、実績を伴わない段階からスター経営者扱いを受けた。中国工業テクノロジーの象徴のようにもてはやされたのである。
(サブストーリー)
しかしここへきて、それら“蔚・小・理”にはっきり格差が付き始めた。理想汽車が抜け出した。2023年11月の月販は、4万1030台、小鵬汽車、2万41台、蔚来汽車1万5059台と、2倍以上の差を付けた。この結果、2023年第三四半期の売上は、346億8000万元、前年同期比271、2%増、純利益28億1000万元だった。これで4四半期連続で黒字達成、年間通期でも黒字はもうまちがいなく、これは新興勢力初の快挙である。
これに対し、小鵬は今年第1~第3四半期で販売台数8万1443台に対し、90億2800万元の欠損を出している。1台販売するごとに11万元(約218万円)の損失が出る計算だ。同じく蔚来汽車は、同じく10万9993台に対し、153億5200万元の欠損で、13万9000(約276万円)の損失を出している。
この差はどこで生したのか。中国メディアは、小鵬と蔚来は、2023年1月から本格化した価格競争を挙げている。蔚来は原則値下げは行なわないと宣言しながら、売上が落ちるとあわてて値下するなど、対応が後手に回った。小鵬は新型車G9が消費者クレームを受けるなどマーケティングに失敗、消費者信頼感指数を下げた。
これに対し、理想は高級車が多く、値下げ競争に巻き込まれなかったこと、航続距離の延伸という消費者ニーズによく応えたことなどが有利に働いたという。どうやら理想は生死の境を超えたようだ。しかし、創業経営者はどうしても、思い上がりが出やすい。ちょっとしたことでも、命取りになりかねない。
陽貨十七の二十六
『子曰、年四十而見悪焉、終也已。』
孔子曰く、「年が四十にもなって、憎まれるようではお終いだな。」
(現代中国的解釈)
設立40年以上、という民営大企業は、ほとんどない。IT大手、アリババ、テンセント、百度でも、やっと四半世紀の社歴である。TikTokのバイトダンスは11年、時価総額でアリババを上回った拼多多は、たった8年に過ぎない。これら巨大IT企業では、35歳以上の程序員(プログラマー)は、年齢のカベに苦しむという。
(サブストーリー)
35歳以上のプログラマーたちは、技術の向上を求め、転職を繰り返した人が多い。彼らはその過程でビジネススキルも得たが、それについての研究は深めようとしない。技術開発とビジネスの両方を理解し、いわゆるプロダクトマネージャーに適した人材は少ない。それだけに重宝される。
アリババは2023年を通して、組織変更、人事調整を続けた。12月末、アリババ集団CEO・呉泳銘は、グループの中核、ネット通販事業を担う淘天集団CEOの兼任となった。さっそく組織を変更、これまでの、中小企業発展センター、ブランド業務発展センター、スーパー業務発展センター、コンテンツ独立技術部門に加え、新成長アパレル、ビジネスイノベーションの2つの部門を加えた、6部門制とした。この下に各事業部があり、その責任者も発令された。
ユーザープラットフォーム事業部は、1985年生まれの呉嘉氏、アパレル開発事業部は、1987年生まれの汪庭祥氏、M2C事業部の劉一曼氏は女性。他の3事業部は男性で、年齢の記載はないが、写真を見るかぎり、みな若そうだ。プ今回の変更は。若返りも重要なテーマだ。ロダクトマネージャーと見込んだ人材を、早めに要職に抜擢したのだ。
かつて、アリババ創業者、ジャック・マーは、「日本企業の取締役会は、ゴマ塩アタマの中年男ばかりだ。」と語っていた。アリババグループの取締役は、男女を問わずみな若く、女性取締役比率は30%を超えている。淘宝集団では、それでも危機感を覚え、若い血を注入し続けている。
それに対し日本は、ジャパンアズナンバーワンといわれた1980年代から時間が止まっている。同じ企業文化で育ち、得意は社内政治だけという中年男ばかりで、どうやって、多様な価値観を経営に反映しようというのか。このような旧来型取締役会に、有能な若手のプロダクトマネージャーなど無用の長物だった。むしろ迷惑な存在だったのである。現代でも40歳は節目であるのに変わりない。偉大な創業者や科学者は、ほとんど40歳までに主要な業績を挙げている。ここに日本の失われた30年の本質が表れている。
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