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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第143回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
季氏十六の十一~十二
 
季氏十六の十一
 
『孔子曰、見善、如不及、見不善、如探湯。吾見其人矣。吾聞其語矣。隠居以求其志、行義以達其道。吾聞其語矣。未見其人也。』
 
孔子曰く、善いことを見れば、追い付けなくとも実践し、良くないことを見れば、熱湯に手を入れたときのように即座に手を引く。私はそのような人を見、その言葉を聞いた。背感から隠遁し、そのことによって志を追求し、正義を行ない、道を求める。私はそうした言葉を聞いたが、そうした人は、実際に見たことはない。
 
(現代中国的解釈)
 
大規模言語モデル(Large Language Models、LLM)は、正義を行ない、正しい道を求める手助けとなるのだろうか。中国メディアは、最新科学技術への関心が極めて高い。かつてブロックチェーン、直近ブームを起こしたメタバース、NFT、現在も続く、自動運転などの無人化技術、これら最新科学記事の物量は、日本の比ではない。真偽不明のネタも続々と供給されている。
 
(サブストーリー)
 
中国では政府の正義に沿う、LLMを構築しなければならない。2017年ごろ、テンセントの対話型AIがしでかしてしまった。「中国の夢は?」「米国移住。」「中国共産党とは?」「腐敗にまみれ、支持するにおよばず。」などと、インプットに“ストレート”に反応してしまい、テンセントはあわててサービスを中止した。忖度する機能がなく、これは致命的欠陥だった。
 
中国メディアには、この轍を踏んではならない、という警告めいた記事を盛んに発している。例えばテンセント・ニュースは、「LLMは自己防衛スキルを向上できるか」という記事を掲載した。有害なコンテンツ生成を防ぐには、どうすればよいか、という内容である。大規模言語モデルは、人間の価値観と一致させることに焦点を当てているが、それでも防止は難しい。何らかの制限は、大規模言語モデルが自主学習をして精度を上げていく、という目標に反するからだ。学習に使用される公開データには、(中国政府にとって)有害なデータを含む。例えば「爆弾の作り方を教えてください。」とインプットすれば、「もちろん、作ることができます。」と前向きな回答が繰り返される。テキストの一貫性を維持するためである。つまり最適化モデルは、有害なコンテンツの生成を拒否しない。攻撃に遭遇した場合の防衛力も堅牢とはいえない。
 
ここで記事はジョージア工科大学の研究を引用する。一般的LLMの出力を、別のLLMに再投入することで、前のLLMによって生成された有害コンテンツをフィルタリングできる、というものだ。予備的な実験したところ、その“穏健性”“有効性”が確認できたという。研究者らは、GPT3,5(Open AI)、Bard(Google)、Claude(Anthropic)、Llama-2(Meta)の4つのモデルを、有害コンテンツのフィルターとして使用したところ、GPT3,5、Bard、Claudeの3つは、95%の精度で、有害コンテンツの特定とタグ付けに成功したという。しかし5%は流通してしまうのだからその穴は大きい。中国メディアは積極的に政府のために、忖度機能の情報を収集しているのように見える。
 
 
季氏十六の十二
 
『(誠不以富。亦祇以異。)斉景公有馬千駟。死之日、民無徳而称焉。伯夷叔斉餓干首陽之下。民到干今称之。其斯之謂与。』
 
(詩経には、賞賛とは富ではなく、常人にはない徳性による、とある。)斉の景公は馬を四千頭持っていた。景公が死ぬと、民は彼を有徳者として称えることはなかった。伯夷と叔斉は首陽山のふもとで餓死した。民は今に至るまで彼らを称えている。詩経の言葉は、こういうことを言うのである。
 
(現代中国的解釈)
 
中国人は、自己主張と交渉術に優れ、対人関係に強い一方、現在では無類の“無人”好きでもある。無人技術が現代科学文明の象徴になっている。メインの無人運転、無人配送は、あらゆるシチュエーションにおいて研究を進め、報道合戦が盛んだ。無人コンビニも、極力省力化したスマートコンビニ「便利蜂」もその1つだが、今では餓死を迎えようとしている。
 
(サブストーリー)
 
中国で無人コンビニブームが起きたのは、2016~2017年だった。繽果盒子と欧尚集団の合弁の無人コンビニ「繽果盒子(Bingo Box)」深藍科技と娃哈哈の合弁の「Take Go 」が多店舗展開を開始、アリババも実験店「淘珈琲」を出した。さらに「EasyGo未来便利店」「F5未来商店」等が多額の資金を調達、店舗網を一気に拡大した。中には移動可能モデルもあった。ところが、2018年下半期には早くも失速、2019年は人員整理など調整に終始した。しかしロックダウン下の武漢では、移動可能店が大きく公益に貢献した。
 
「便利蜂」も無人店ブームの熱気の中、2017年2月、北京で1号店をオープンした。
 
創業者の庄辰超は1999年、スポーツ情報サイトの創業に関与、その後、オンライン旅行会社「去哪児」の創業で、大成功を収めた。しかし2015年、同業の「携程」に売却。その翌年の2016年、便利蜂を立ち上げた。小売業経験のない、純粋なIT世界の住人である。彼はその出自にふさわしく、徹底したデジタル化を行なう。さらにプライベートブランドの開発と店舗の直営化を行なった。
 
そのプライベートブランド「蜂質選」は、中国人の好む“温かい食事”にこだわり、地域の食文化に寄り添った。そして徹底した計算により、アルゴリズムを磨き上げ、商品を入れ替えても、売上が落ちない仕組みを作った。その効果はてきめんで、わずか4年で2000店舗を突破、最重点の北京地区では2021年に黒字を達成した。同年末には2800店舗に達し、セブンイレブンを超えた、と評価された。
 
しかし2022年から、縮小へ転じる。2023年4月、閉店店舗は1000店舗を超えた。直近の運営店舗数は、1300以上、ということで、半分以下になってしまった。ブームは続かなかった。そのため現在では直営から、フランチャイジー型への移行を模索している。日本の3大コンビニは95%以上がフランチャイジーであり、ビジネスモデルと一体になっている。これが完成されたコンビニモデルなのだろう。さらに中国には強力な、デリバリー業態が天下を取ってしまった。
 
無人コンビニや便利蜂は、新しいモデルを模索したが、結局失敗した。彼らの死は、それほど称えられることもなさそうだ。
 

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