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「論語」から、中国デジタルトランスフォーメーションを謎解きしてみよう。第78回

本シリーズのメインテーマは「論語」に現代的な解釈を与えること。そしてサブストーリーが、中国のDX(デジタルトランスフォーメーション)の分析です。中国の2010年代は、DXが革命的に進行しました。きっと後世、大きな研究対象となるでしょう。その先駆けを意識しています。また、この間、日本は何をしていたのか、についても考察したいと思います。
 
郷党十の十三~十五
 
郷党十の十三
 
『君賜食、必正席先嘗之。君賜腥、必熟而薦之。君賜生、必畜之。侍食於君、君祭先飯。疾君視之。東首加朝服、拖紳。君命召、不侯駕行矣。』
 
君主から食事を賜れば、居住まいただし、まず自分が食す。生肉を賜ると、必ず煮て先祖に供える。生きた動物を賜ると、必ず飼っておく。ご相伴に預かるときは、君主より先に食し毒見する。君主から見舞いを受けたときは、東まくらにして、寝具に礼服をかけ、その上に帯を置く。出頭命令を受けたときは、馬車の準備を待たず、すぐに出かける。
 
(現代中国的解釈)
 
規則を守ってきびきび動くことが大切、という教訓だろうか。現代中国人は、自由な振舞いが多く、他人の言うことを聞かない。世間体が、行動のブレーキになることはまずない。中国の治安維持が、過激になるのは、仕方ないのだ。
 
(サブストーリー)
 
「快手」とは、バイトダンス(TikTok運営)と並ぶショートビデオの雄だ。きびきびした人というほどの意味になる。快手は2011年、GIF画像の投稿・シェアから、ショート動画の投稿シェアへ移行した。TikTokは当初リップシンクの15秒動画だったが、快手はさらに短い7秒動画でスタートした。その分、一層きびきびした表現が求められた。
 
2021年の年間決算では、売上高810億8000万元、前年比37.9%増だった。しかし188億5000万元という巨額欠損を出している。こちらば240%と激増だ。この財務体質と海外知名度が、TikTokとの最大の差である。以前からの課題だが、有効な策は見いだせていない。
 
現在はライブコマースに注力し、売上を伸ばしている。さらに2021年末、生活総合サービス「美団」との提携を発表した。美団は、フードデリバリーを看板に、シェアサイクル、配車アプリ、オンライン旅行、口コミと、手広く事業を展開している。TikTokは、これらを、自社中心で構築しようとしているが、快手は、美団との提携によって、オフラインビジネスへの関与を深める。快手、美団ともテンセント系で相性はよさそうだ。グループ力でTikTokに迫れるかどうか。
 
郷党十の十四
 
『入大廟、毎事問。』
 
大廟に入ったときは、いちいち係りの者に質問した。
 
(現代中国的解釈)
 
孔子は、細かい宮廷作法の確認をしていたのだろう。現代中国でも席順は重要だが、細かい礼儀作法は、無きに等しい。教育は、知育中心だ。周知のように、中国政府は昨年9月、営利目的の個別指導を、オンラインを含め禁止した。双減政策(宿題負担と塾負担の軽減)の具現化だった。しかし高校、大学入試とも筆記試験の一発選考であるかぎり、実態は変わらない。確かに教育産業は、過熱しすぎていた。IT企業が、われもわれもと参入した。バイトダンスもその1つだ。
 
(サブストーリー)
 
バイトダンスは、教育事業をメディアの「今日頭条」、ショートビデオ「TikTok」に継ぐ第三の柱に育てようとした。TikTokにアップされるたくさんの教育目的コンテンツを見れば、自ら乗り出さない手はなかった。そして教育部門に1万人を招集、年俸200万元で雇った清華大学、北京大学卒の有名教師もいた。短期間のうちに、巨大教育企業をデザインするとともに、20以上もの教育製品を発表した。
 
しかし、他の教育企業同様、双減政策の荒波を避けられず、2021年11月、教育事業の見直しを発表した。教育事業はスマート学習、成人教育、ソフトウェア、学校との提携、の4分野に限るとした。K12(幼稚園から高校まで)の補習からは撤退する。これにより5000人を整理したの。さらに今年6月、2000人減らし、3000人以内に収める、と報じられた。
 
他教育企業も一斉に整理に走った。1000万人が職を失うという報道もある。中国のホワイトカラー労働市場では、ドラスティックな変化が今も継続中だ。それも日本では想像できないスケールである。
 
 
 
郷党十の十五
 
『朋友死無所帰。日於我殯。朋友之饋、雖車馬、非祭肉、不拝』
 
友人がなくなって引き取り手がない。孔子曰く、「私の家で葬式しなさい。」友人からの贈り物は、車馬のような高価な物は受け取らない。受け取るのは肉だけである。
 
(現代中国的解釈)
 
葬儀屋集団・儒家の長として、孔子は友人の死を放っておけなかった。現代の主要大都市における葬儀は、公営の「殯儀館」という場所で行われている。葬儀と火葬を一か所で行う、なかなか合理的な施設だ。
 
(サブストーリー)
 
官民挙げてデジタル・チャイナの建設に邁進する中国では、地方を中心に、葬儀までデジタル化しようと動き出している。貴州省貴陽市では、新会社を設立、インターネット+殯葬サービスプラットフォームを立ち上げる。葬儀における各行程を流れとして管理し、規範化、標準化、智能化する。ネット上の葬儀、オンライン祭祀、など新プラットフォームの効能が披露された。リアルの葬祭業と科学技術の融合を志向し、公共葬送サービスの進化、葬祭管理方式の改革、情報化、農村の好き勝手に埋葬する“乱葬”問題の改善などを目指す。
 
貴州省は、データセンターの誘致に成功し、ビッグデータ産業が勃興した。そのビッグデータを駆使し民生を改善する大きな挑戦という。

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