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悪役パトリック・ビバリー

実は彼を知った当初、はっきりと嫌いなタイプの選手として認識したのを覚えている。必要以上にラフなプレー、相手を挑発するトラッシュトーク(trashはゴミ、クズの意)は観ていて良い気分にはなれなかった。

それはGSウォリアーズのドレイモンド・グリーンにも通ずるものだった。ドレイモンドの事も当初、好きになれない選手だったのだが、GSウォリアーズの試合を多く観ていると、彼のダーティーな部分以外のプレーの素晴らしさに気付かされ、また彼の試合後の立ち振る舞いが格好良かったのが僕の胸に響いたのである。

あれはレブロンがクリーブランドに戻って2年目のプレイオフファイナルだった。その前のシーズンでも同じ対戦カードだった、レブロン率いるキャバリアーズと、連覇を狙うウォリアーズの対決だった。
周知のように結果はキャバリアーズが優勝し、レブロンが自身の故郷クリーブランドにチャンピオンリングをもたらし、あのレブロンが優勝の決まった瞬間にコート上に泣き崩れるという感動的な場面だったのだが、敗れたウォリアーズの面々はその瞬間を呆然と立ち尽くして迎えていたのである。そしてコート上が歓喜の渦となる中、ウォリアーズの選手達は静かにコートを去っていったのだ。あの場面、僕の記憶が確かならばレブロン以下、キャブズの選手と健闘を称えあったウォリアーズの選手は居なかった。ただ1人ドレイモンドを除いて。
ひとしきり泣いた後、レブロンはインタビューを受けたりチームメイト達と喜びを分かち合うのだが、その渦の中で1人ウォリアーズのユニフォームを着たドレイモンドがレブロンに近付き、その健闘を称えハグをするのである。

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僕はこの瞬間、彼のファンになった。それまでに見てきた彼のダーティーなプレーは全て吹き飛んだ。
もちろんダーティーなプレー自体は嫌いだが、その一面だけを見て、彼の全てを否定するわけにはいかない。
試合中も試合後も、彼の情熱はいつでも激し過ぎるのだ。

↓ドレイモンドの熱さが分かるシーン。

さて、パトリック・ビバリーのこういう美談めいたものはまだ目にした事はない。そういうものがありそうでもあるし、無さそうでもある。

かつて、試合中にビバリーとの接触によって怪我をしたラッセル・ウェストブルック(愛称:ラス)は、その復帰後もビバリーと睨み合いを繰り返したそうだが、その悪びれない態度も、いかにもビバリーらしいと思った。

NBAの中においては恵まれた体格とは言えないビバリーだが、体格差をものともしない気持ちの強さは常に溢れている。その姿は時に滑稽に見えるほどだが、ビバリーはいつだって真剣である。

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笑われようが、嫌われようが、罵られようが、彼は勝つ為に必要な事ならなんでもやる。結果、ラスのように怪我してしまう選手が出た事は不幸なことであり、ラスが怒るのも理解できる。しかし、ビバリーのディフェンスに注目して見ていると、どうしても彼を嫌いになれないものがある。かつてカワイ・レナードと接触してカワイが怪我をするきっかけとなったザザ・パチュリアとは違う何かが感じられる。もっとも、ザザも、ちゃんとよく見れば好きになれる要素が見つかるのかも知れないが。

身長185㎝のビバリーには他に劣るフィジカルを補うものが必要だった。トラッシュトークは相手の調子を乱す為、ラフプレーはボールへの執念、勝利への執念の表れだ。だからと言って何をしても許されるという訳ではないが、彼の意志の突き進む先はチームの勝利に繋がると固く信じられているからギリギリの所まで攻められる。体格差のあるスター選手に自ら進んでマッチアップするのも彼ならではであり、そのプレイスタイルも相まって悪役にされがちの彼であるが、彼がヒール(悪役)でいる事を辞さないのもその激し過ぎる情熱ゆえだ。時に度が過ぎて余計な事を言いチームメイトにも怒られる事もあるが、彼のその貪欲なまでの執念は誰もがリスペクト出来るものだ。クリッパーズのヘッドコーチである名将ドック・リバースの信任も篤いのは、彼のその激情がバスケにのみ向いているからだ。断じて相手の怪我を狙うものではない。だからこそラスの怒号に対しても怯むこと無く言い返すのである。この彼の絶対的な自信はどこから来るのか、そのルーツは彼の生い立ちに大きく関係しているのだが、それはこの動画に詳しい

ビバリーを見て、その第一印象から嫌いになる人も多かろうと思うが、どうか彼の事をよく観て欲しい。そのプレイスタイルを支えているのははち切れんばかりのバスケへの情熱であり彼の生き様そのものなのである。


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