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公園の童話

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じいさん桜と公園の仲間たちの物語です。
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2021年6月の記事一覧

ベンチ(「公園の童話」より)

 公園のじいさん桜のそばに 古いベンチがひとつ、あります。 そのベンチのところにある日少女がやって来て立ち止まり、話しかけました。 「わたし、あなたを知ってる。小さい頃お母さんとしゃぼん玉を持ってよく来たわ。しゃぼん液の蓋が上手く開けられなくって、ここで全部零しちゃったことがある。ねぇ、ベンチさん、覚えてる?」 「さあてね、大勢の子どもがここでしゃぼん玉をしたがるさ。そして子どもはよく零す。おかげでこっちはベタベタさ。迷惑な話だね」 ベンチが何と返事したか気にす

満月の夜に(「公園の童話」より)

 毎年桜の花が咲きだすと、公園の係の人たちが花見客のために、提灯の準備を始めます。 去年じいさん桜の周りには、花を下から照らし出すライトも取り付けられました。ますます見事な夜桜に、大勢の人がやって来て口々にじいさん桜を褒めて行きます。若い桜はそんなじいさん桜をいつも誇らしく思っておりました。 夜の花見の客が増えだすと、若い桜がうきうきするのに対して、じいさん桜がますます無口になっていくことは若い桜も気づいておりました。それでも前は ぼちぼち昔話なんぞを話してくれていたのに