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子とゆりかもめに乗った。「デザインあ」展の思い出。

数年前のこと。
子が保育園児だった頃の話だ。
当時は、私も旦那もフルタイムで働いていた。

私は予定のない休日に子と遊びに出かけるのが得意ではなくて、いつも子の遊び相手を旦那に任せていた。旦那は子を、近くの公園や水族館に連れて行ってあげていた。
私はもともと体力がなく、休日にはよく体調を崩して寝ていたので、旦那にはとても感謝している。

そんな折、私が当時よく見ていたEテレの番組「デザインあ」の展示会が、東京のお台場で行われるというのを知った。旦那はそこまで興味がなさそうだったので、子と2人で行こうと決めた。
そもそも、私は外出自体が得意ではない。最後にお台場へ行ったのも、何年前だったか。私としては結構な決心だったと思う。

そしてやってきた当日。確か土曜日だった。
土曜日の朝って、つい寝坊しちゃうし洗濯物は多いしで、なんだかんだしているとすぐ時間が過ぎてしまう。結果、家を出たのは午後。
計画性も何もあったものじゃない。

会場へ着いたら整理券が配られていて、入れるのは午後7時だという。午後7時から会場入り……。これは無理だ。
とはいえ、流石にここまで来て何もせずに帰るのもどうかと思い、ゆりかもめに乗って海の見える公園などで遊んだ。
ゆりかもめは空いていて、無人運転なので運転席がなく、見晴らしがとてもいい。子は一番前の席に座って喜んでいた。

そして日が暮れ、折角だから大江戸温泉物語に行って帰ろうかな、子は温泉好きだし……とその場のノリで決めたものの、私と子の体力は既に限界。
温泉に入って夕食をとったら、子が「眠い」と言い始め、休憩所で眠りだしてしまう。気づけば午後9時。
今から子を抱えて帰るのは無理だと悟るも、宿は満室。仕方なく、夜に無料開放されるという女性専用休憩室で眠ることにした。

大部屋にずらりと敷かれた薄い布団の上、子が夜中じゅう足を痛がっていたので、私はほぼ寝ぼけながら、周りの人に申し訳なく思いつつ、ずっと子の足を揉んでいた。
そりゃ電車に乗り、ゆりかもめに至っては何度も乗り、公園で遊び、温泉に入り、はしゃぎまくったんだもの。幼児の足も痛くなるわ。
大部屋の外では、深夜までウェーイしている若者たちの声が響いていた。

翌朝、寝不足と疲労でフラフラになりながら大江戸温泉物語を出て、人もまばらなファミレスに入る。
朝のやわらかな光の中、静かな店内で、私たちはなんとなく無言でモーニングセットを食べた。

そしてようやく、開場前の「デザインあ」展に並ぶことができた。
それでも中に入るまで1時間くらいは待ったし、人が多すぎて展示も満足に見られなかったけど、「あ」の文字を好きなように塗ったり、色々観たり触ったり動かしたりして子と楽しんだ。

笑顔で「あ」と書かれた紙を持つ子を写真におさめながら、私は、子どもと出かけるのもそう悪くないな、と思った。
もちろん、子が親の指示を素直にきくのは一瞬のこと。いつだって目は離せないし、他の人に迷惑をかけやしないか、突然体調不良にならないか、道路に飛び出していかないか、心配性の私はヒヤヒヤし通しである。

だけど、子の目線を通して見たものはすべてが新鮮だ。
潮風を感じたり、砂浜に文字を書いたり、広い道路から空を見上げたり。生活圏とは違う場所を、子の歩幅に合わせてゆっくりと歩くのは、日々の喧騒を束の間忘れさせてくれる。

今でもたまに、子がゆりかもめの話をする。
「運転手さんがいなくて、一番前は景色がいいんだよね。また乗りたいね!」と言う。
お台場の大江戸温泉物語は、閉館してしまったけれど。
「そうだね、また乗りたいね」と私は返事をする。

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