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吃音の治し方

物心ついた頃から吃音で悩んでいました。今は完治はしていないものの、働いているカナダの店で英語で店内アナウンスができるくらいには克服できています。私の方法がすべての人に当てはまるとは思いませんが、誰かのためになる事を願って、私の吃音克服方法をご紹介します。



吃音=イップス

私は吃音は発声のイップスだと思っています。

この方は明るく振る舞っていらっしゃいますが、本心はとても辛いと思います。吃音がある方なら、この方の感覚は手に取るようにわかるのではないでしょうか。やりたい事が、自分の意志とは別のところでストップがかかる感じです。

何故イップスにかかってしまうのか、についてはこちらの解説がとてもわかりやすいので是非見てください。

要約すると、今まで才能のみで無意識に行っていた投げるという動作を、何かがきっかけで意識してやらなければならなくなった時にイップスになりやすい、という事です。きっかけは、感情を強く揺さぶられる事。デッドボールしてしまって怒られたり、大事な場面で暴投して失点したりした後、次はちゃんと投げなくてはいけない、という意識が強く働いた時に、ちゃんと投げるにはどのように体を使うか、という基礎がそもそもないから投げられなくなる、という事です。

これは吃音にも当てはまると思います。発声を、メカニズムから学んでいく人はいません。感覚しかありません。緊張すると私達は、ちゃんと話さなくては、と普段より強く意識しています。でも感覚のみで身につけた発声は意識できないのです。パソコンの中に存在しないファイルを一生懸命検索しているようなものです。だから言葉が出なくなります。

イップスの人はたくさんいます。プロ野球選手にもいます。そして克服した人もたくさんいます。だから吃音も治せると私は思っています。私は治しました。

吃音の治し方 技術面


吃音は、無意識に行っている発声のメカニズムを意識する事で改善します。パソコンの中にファイルが無いなら、新しく作れば良いのです。発声は、肺から出した空気で声帯のどの部分を震わせるか、口をどのように開けるか、舌をどう動かすか、等様々な要因があります。そういった複雑な動作を普段は無意識に行っていますが、一つ一つの動作を一度分解して見直してみるのが大事です。

あ行

まずは基本のあ行から。あいうえお、発声しながらそれぞれ口の開き方と舌の位置が違う事を確認してください。それから喉のどの部分を震わせているか、感覚をつかんでください。ぼんやり発声するのではなく、まず肺から空気をだして、喉のどこら辺を震わせる、そして口の形をこれくらいに開けると「あ」が言える、というように、一つ一つの動きを分解してみるのが大事です。あいうえおの口の形は他の行すべてに応用できます。

ま行

次に、わかりやすいま行にいってみます。まみむめも、と発声してみてください。発声する前に必ず口を閉じるという事がわかると思います。口を閉じないでま行が言える人はいません。他に、ば行やぱ行も一度口を閉じないと発声できません。でもは行は口を閉じません。面白いですね。言葉一つ一つは全部発声の仕方が違います。違うから聞き分けられるのです。

な行 た行 さ行

次にな行です。な行は必ず舌を上の歯の裏に当てて離す、という動作が入ります。やってみてください。今度は、た行をやってみましょう。た行はな行と同じく舌を上の歯の裏に当てて、そこにできた隙間に空気をためます。ためた空気の圧力をぱっと解放するときに叩くような音がでます。なかなか複雑な動きですね。さ行は、舌と歯の間の小さな隙間から空気を通すことによって高い音を出します。

あ行 は行 は何故難しいのか

吃音について調べると、あ行やは行が苦手、という人が結構います。わたしもそうでした。初めてバイトした酒屋では、「ありがとうございました」が上手く言えず、店長からも注意されて嫌になって辞めました。「いらっしゃいませ」は最初の「い」を発音せず「らっしゃいませ」と言っても違和感がないので誤魔化せたんですが、「ありがとうございました」は当時の私には難しかったんですね。それから20年以上経って、今では英語で店内アナウンスもするし、お客さんとの電話応対もします。酒屋を辞めた時は、接客業はもう絶対にできないと思っていたのですが、人間変わるものですね。

あ行は母音で、他の行にくらべると主だった特徴が無いので意識するのが難しく、それ故に苦手な人が多いのかもしれません。あ行は特徴がないのが特徴です。口は必ず開けておく、そして舌は浮かせて発声の間は動かさない、事を意識してください。は行はあ行とかなり似ています。は行は、発声の初めに空気が鼻の方に抜けていく感覚を覚えます。

発声を分解して考える

こんな感じで全ての音を、口や舌の動きを意識しながら発声してみてください。自分の苦手な行や言葉がある方は、そこを重点的にやってみると良いと思います。たとえばま行が言えないのなら、まずは口を閉じることから始めればよいのです。な行が言えないなら、舌を上の歯の裏に当てる事から始めれば良いのです。

発声学の本を読めばもっと詳しく発声のメカニズムが書かれていますが、本を読まずに自分自身でメカニズムを発見して感覚を掴んでいく事のほうが吃音の克服に繋がると思います。何故なら人それぞれ発声のクセがあるからです。正しい発声方法を学ぶよりも、調子の良いときの自分はこんな感じで発声している、という感覚を発見する方が大事です。

これは結構面白いですよ。意識してみると、こんな複雑な事を感覚だけでやっていたのか、と思うハズです。とにかく、無意識にいっぺんにやっているいくつかの動作を、分解して一つずつ確認していくことが大事です。そうやって発声のメカニズムのファイルを頭の中に構築していってください。



吃音の治し方 精神面

発声のメカニズムを学んだだけでは吃音は治りません。あなたが独り言を言うとき吃音はでますか? 多くの人の場合、独り言や赤ちゃんや動物に話しかける時は吃音が出ません。これはつまり、話す相手に惑わされているという事です。吃音克服の鍵は、独り言を言うように平常心で誰とでも話せるようになる事です。しかし、平常心で、と言われて平常心でいられる人はいませんね。

接客業で時には1日に100人以上を相手に仕事をしています。そういう環境にいると、いろいろ見えてくるものがあります。仕事中、吃音が出そうになる事は今でも頻繁にあります。それでも大体はつっかえずに問題なく話せます。自分の体験を元に、吃音者が惑わされやすい世の中のアレコレと、その対策を考えてみます。


相手のペースに惑わされない

人それぞれ思考のスピードが違いますし、会話のペースも違います。会話術みたいな本には、相手のペースに合わせて話しましょうみたいな事が書かれていたりしますが、吃音症の人は、むしろ自分のペースを絶対に崩さない事を心がけてください。自分の準備が出来ていないのに話そうとすると焦ります。吃音は、上手く声が出ない事からくる「間」を恐れるあまり、余計に焦って声が出ないという事がよくあります。でも、アナウンサーや芸人のように、テンポよく話す義務なんて私達には無いのです。

私は会話の中で「間」を敢えて作る事を意識しています。その「間」で、自分が何を話したいのか、その言葉は何の音で始まるのか、その音を発生するには口の型はどんなだったっけ? 等と考えています。おそらくその間は一秒から二秒くらいだと思いますが、そうやって自分の準備ができてから話し始める事がとても大事です。パソコンで例えると、添付ファイルがちゃんと揃ってるか一度確認してから送信する、みたいな感じです。

吃音の種類は三種類と言われています。

  • 音のくりかえし(連発)、例:「か、か、からす」

  • 引き伸ばし(伸発)、例:「かーーらす」

  • ことばを出せずに間があいてしまう(難発、ブロック)、例:「・・・・からす」

連発と伸発は、「間」を恐れるあまり、とにかく何か言わなきゃ、という意識によるものではないか、と私は考えています。難発は、言葉が出てくるまで黙って待つだけ。つまり、3つのタイプとも同じ事が原因で、それに対処する癖が人それぞれ違うだけなのではないかと考えています。その原因とは、自分の準備が出来ていないのにもかかわらず話そうとしてしまっている、という事です。

「間」を恐れないでください。相手のペースに合わせるのではなく、相手が自分のペースに合わせて話すように誘導してください。その為にはどうすればいいかわかりますか? 話す相手としっかり目を合わせる事です。

目を合わせて頷きながら相手の言う事を聞いていれば、相手は(この人はちゃんと自分の話を聞いているな)と認識してくれます。相手が話し終わったら、口を開いてください。すぐに話さなくていいんです。口を開くだけ。そうすると、大概の人は(この人は何か言いそうだぞ)と思うので、黙って待っていてくれます。そうやって時間をゆっくり稼ぎながら、話す準備をしてください。

相手が自分の話を聞く気になるように誘導してあげるのです。さらに追い打ちをかけて話してくる、自分勝手な人もたまにはいますが、そういう相手にはとにかく目を見て黙って、相手が自分の話を聞く準備ができるまで待ってあげてください。逆に目を合わせないと、(こいつ聞いてんのかな?)という不安が相手を刺激してあまり良いことはありません。

マウンティングに惑わされない

人は、常に相手より有利な立場に立ちたいと考えています。そのほうが得をする事が多いからです。例えばコンビニ等で、はっきり喋らず、つぶやくようにたばこを注文して、店員さんが聞き返すと不機嫌になるおじさんがいますね。これは、若くて弱そうな店員を自分より下と考えているからこういう行動に出ます。タトゥーだらけの怖そうな店員にはそんな事はしない筈です。

他にも、必要以上に大きい声で話したり、こちらが話している時に嘲笑のような表情をしたり眉をひそめたり首を横に振ったり、こちらが話し終わる前に被せるように話してきたり、そういう動作は全て、相手を不安にさせて自分が上に立とうとする意識の現れです。これをマウンティングと言います。マウントというと会話の内容を想像しがちですが、態度からすでにマウントは始まっています。

相手の目を見るのも、実はマウンティングの一種です。

ここまで露骨なメンチを切ってくる人は日常には流石にいませんが、相手の目を見ると圧力を与えることができます。逆に、好きな人に自分をアピールしたい場合にも相手の目を見ます。なので、人間にとって、目を見るのは敵対と友好という、相反する2つの意味があります。

商談においては、目で相手に圧力を与えて自分に有利な契約を勝ち取るというテクニックがとても有効です。なので、そういう場面を多く経験してきた年配の男性は、よく目のマウンティングをしかけてきます。それに対抗するには、こちらも相手の目を見てしっかり応対することです。メンチを切る必要はありません。笑顔で堂々と相手の目を見てやればいいんです。この人には自分の威嚇は通用しないぞ、と相手に思わせる事で、相手が急に友好的になる事は、日々の接客で数え切れないくらい経験しています。相手が友好的になれば、会話のペースをこちらに引き込めます。

逆に目を見ないでそっぽを向いて話すタイプのマウンティングもあります。お前なんかに興味はないぜ、っていう態度ですね。実際に興味がない場合もあるし、敢えて興味がない素振りをして相手を不安にさせる場合もあります。そういう時も相手の顔をずっと見つめて話す事が大事です。目を合わせていなくても、見られているという意識を相手に与えられます。そうすると相手は居心地が悪く感じます。そうやって会話のペースをこちらに引き込みます。この場合は、自分が相手にマウントを仕掛けていると言っても良いかもしれません。

例えば、家族でも母親には吃音は出ないが父親には出る、とか、吃音が特に出やすい友達がいるとかいった場合、相手のマウントに惑わされている可能性があります。内気な人、若い人、小さい人、女性はマウントのターゲットになりやすいです。

逆にマウントする人はどんな人でしょうか。答えは全員です。マウンティングは動物の生存本能からくるもので、自分より弱い相手、ライバル認定している相手には誰でもマウントしようとするものです。だからマウントをとられないようにする術はありません。とられたら対抗する以外に方法はありません。


吃音の人は対人不安を抱えている人が当然多いです。私も昔はそうでした。そういう人にとって相手の目をしっかり見るのは難しいというのも理解しています。それでも目を見てください。そういう自分の苦手意識に向き合えない限り、平常心で人と接する事は絶対にできません。

マウンティングされているぞ、と気づくことがとても大事なんです。そういう時は、上のレッサーパンダの動画を思い出してください。こいつはレッサーパンダと同じだな、と思えたらもうこっちのもんです。そうやって精神的に余裕を持つことが、うまく喋れるようになる絶対条件です。私が吃音症でありながら、接客業が問題なく出来ているのは、こういう意識で人と対峙しているからです。


焦りに惑わされない

思い通りにならないと、人は焦ります。話したいのに話せない時に、あなたは焦っている筈です。これはもうはっきり言って、吃音を「障害」として自覚しないといけないと私は思います。出来ると思っている事が出来ないから、焦るのです。初めから出来ないと思っていれば焦りません。

私は、まず吃音を隠さないという事から始めました。 吃音は黙っていれば隠せるので、隠そうとしてしまいます。しかし、私達はずっと黙って暮らしていくことはできません。話さなければいけない時に吃音を隠そうとすると、「ちゃんと喋らなきゃ」という精神的ストレスが発声の妨げになります。

気づいたら吃音だったんです。だから自分が悪い訳では無いし、隠す必要もありません。ちゃんと話せれば良いにこしたことはないのですが、だからといって義務ではありません。「吃音ですけど何か?」くらいの気持ちで自分の障害と向き合って開き直るのが大事です。

私が吃音を隠そうとしなくなったきっかけは、歌手のビリー アイリッシュのインタビューを見たことでした。

彼女はトゥレット症という病気を患っています。こういうと不適切かもしれませんが、吃音よりきつい病気だと思います。吃音は黙っていれば隠せますが、トゥレットは隠せないからです。それでも、こうやって堂々とインタビューを受けている彼女を見ていたら、自分も吃音を隠す必要なんてないな、という事に気づけました。

学校や就職面接や会社など、吃音をカミングアウトする事を迷っている人はとても多いと思います。私は、吃音があなたの人生の大きな部分を締めているならカミングアウトするべきだと思っています。自分の事を理解してもらう事は、人とのコミュニーケーションにとってはプラスになる事のほうが多いからです。吃音があるからあなたなのです。自分はちゃんと話せない、という事が相手に伝わっていれば焦りは軽減できます。

それでも人間ですから、そうとう達観しない限り常に焦らずにいることはできません。私もよく焦ります。でも焦りを受け流す方法も知っています。焦ってしまったら、とにかく時間を置く、という意識を持ってください。アンガーマネジメントという言葉を御存じですか? 怒りやイライラは六秒すぎると通り過ぎるので、怒ったらとにかく六秒待つことで相手に怒りをぶつけない、という考え方です。私は焦りにもこの方法は通用すると考えています。焦ったら、焦りが通り過ぎるまで待ちましょう。

接客業をやっていると、かなり嫌な客にもたまには遭遇します。嫌な態度をとられたり、嫌な事を言われると、誰だって怒ったり焦ったりするものです。そういう時は、敢えて違う方を見たりして、焦りが過ぎるのを待ちます。そうすると、意外にもすぐに冷静になれるものです(こいつ嫌なやつだな、まあいいや。何か今日嫌なことがあったのかもしれないし。わかるよその気持ち)とか考えられるようになります。そうなったらもうこっちのもんです。6秒人を待たせたからってバチは当たりません。嫌な奴は思いっきり待たせてやりましょう。

今度身の周りに焦っている人がいたら、よく観察してみると良いです。焦りの原因なんて他人から見れば大したことではない場合が多いです。そういう人を見ると、自分もああなってたんだな、と気づくと思います。

自分の「吃音」に惑わされない

今でも咄嗟に話しかけられたり、極度の緊張状態になるとやはり吃音が出ることもあります。いつでも心に余裕を持っていたいのですが、私はまだそこまで強くはありません。でも最近は吃音が出てももう気にしなくなりました。だって障害だもーん、私が悪いわけじゃないしー、と開き直っているからです。昔は吃音が恥ずかしかったんですが、今はもう隠していないので恥ずかしいとすら思いません。

吃音のせいで変な空気になることもありますが、それはもう笑顔や態度でごまかしてます。焦っている感じを出してしまうと、相手もますます怪訝になるのです。こっちが堂々と笑顔ですましていれば相手もあまり気にしません。話さなくても(そうなんですよ。私は話すのが普通の人よりちょっと苦手なんです。でもそれが何か? 別にいいよね?)みたいな雰囲気を醸し出してれば、相手も(なんか変な人だけど、まあいいか)くらいにしか思わない筈です。乙武さんを見てください。あそこまで堂々としていたら、もう誰も何も言わないです。

私の克服体験が誰かの為になる事を願っています。

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