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貴様らの兄貴はわしが殺した

またしょうこりもなくやってきたな。

真ん中に芋虫がいます

おまえが食っておるのは、わしの子供の葉っぱだ。
わしがこの夏買ってきて植えた、みかんの幼木。
おまえはその幼木にわいてきて、その葉っぱを食っておる。

そのみかんの幼木はわしの家族だ。
わしの子供だ。
わしにはその子を守る義務がある。
親が子供を守るのは当たり前のことだ。

かわいいわが子に虫がついておるのだから、
それを追い払うのは当然のことだ。

だからわしは一ヶ月前、おまえの兄貴たちを追い払った。
葉っぱから叩き落してやったのだ。

しばらくして確認すると、
死んだ芋虫が土の上に横たわっているのを見つけた。

わしは思ったのだ。
貴様ら芋虫は、たったそれだけのことで死んでしまうのだな、と。

葉っぱから叩き落しただけで、
もう二度と葉っぱに戻れず、
そのまま死んでしまうのだな、と。

わしは間違ったことはしていない。

親が子を守るのは当然のこと。
わしがみかんの木を守るのは当然のこと。
しかし…

貴様の兄達が死んでいるのを見て、
わしの心がちくりと痛んだのも事実。

本当なら貴様らのことも、
同じように叩き落としたいのだが…


見逃してやる。


調子に乗って5匹もわしのみかんちゃんにたかりやがって。
みかんちゃんの葉っぱを食いやがって。

許せないし、みかんちゃんに申し訳ない気持ちもあるが…、
見逃してやる。

きっと貴様ら兄弟が5人で葉っぱを食ったところで、
みかんちゃんは枯れたりしないであろう。
きっと大丈夫であろう。

だがしかし、わしはみかんちゃんに申し訳ない気分になるのだ。
せっかくわしの家に来てくれたのに、わしの家族になってくれたのに、芋虫がたかっているのにそれを見過ごすなど…、

みかんちゃんは
「なんで追い払ってくれないの?」
ってわしのことを責めるかもしれないな。


しかしそれでも、貴様らを見逃してやると言っている。


恩に着るがいい。
死ぬまでわしに感謝するがいい。
死んでも化けて出てきてわしに感謝するのだ。

わしはみかんちゃんからの信用を少し失ったとしても、
貴様らを殺したくない。貴様らが死んでいるのを見たくない。

貴様らが蝶になるのか蛾になるのかは知らぬが、
みかんちゃんからたくさんの栄養をもらったのだ。

生を楽しめよ。
恋をしろよ。
子を残せよ。

そしてわしが見逃したおかげで、
貴様らが繁栄しているということを、
未来永劫語り継いでいけよ。

もう10月だな。
虫の季節は終わりだぞ。

はよ成虫になってどっかへ飛んでゆけ。


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