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文化系の謎キャリア・インタビュー③ ホステル奈(からなし) 村上研さんに聞いた、人と出会い、つながるということ

(記事担当:佐々朋絵)

大阪市東成区と生野区にまたがる下町情緒あふれる街、今里。ここに緑あふれるゲストハウスがあるのはご存知だろうか。
近鉄今里駅を降りると「近鉄今里駅前通商店街」が出迎えてくれる。来たことがないのに何だか懐かしい、そんな印象を受ける商店街だ。近くには韓国やベトナムの料理屋が多くあった。そんな街、今里で「ホステル奈(からなし)[1]」を経営する村上研さん。
今回は、人の出会う場所を作る村上さんに、この今里という土地でゲストハウスを始めるまでにどんなことをしていたのか、これまでのキャリアについて聞いてみた。

ホステル奈がある近鉄今里駅前商店街の入り口

初めまして

まず、私が村上さんと初めて出会ったのは大阪市浪速区のJR芦原橋駅付近で開催されている「はみだし市」だった。私は、縁があって学生インターンとしてここで出店のお手伝いをしていた。芦原橋は革製品を多く生産している土地で、革加工の工場も多い。はみだし市ではそこで生まれた廃材を販売しているわけだ。その日、村上さんは廃材の革を買いに来ていたところだった。

村上さんと私のインターン先の関係者が知り合いだったこともあり、「今里でゲストハウスをしている方だ」という紹介を受け、宿にある家具はほとんど自分で作っていることを聞いて驚いた。また、少し前に働いていた会社を今も手伝いに行っていると言う話も聞いた。

その時に私は「世の中にはすごく器用な人がいるな〜」などと思っていた。そんな中、このインタビュー企画である「文化系の謎キャリア先輩を追え!」で取材をすることが決まり、そこで私は、その対象者として村上さんのことが思い浮かんだ。

ついに取材の日。私は初めて近鉄今里駅に降り立つことになった。「ホステル奈」に到着すると、まずはエントランスでたくさんの植物が迎えてくれた。そして、ゲストハウス初心者の私は、緊張しつつも宿の案内をしてもらった。元は韓国割烹料理屋だった築約90年の建物を改装した内装は、さまざまな文化が入り混じっていた。最初に案内してもらった1F共有部には早速、村上さんが自身で作った家具が多くあった。キッチンや浴場なども1Fにあり、今里で作られたクラフトビールなども販売されていた。2Fには和室の部屋が5部屋あり、元あった割烹料理屋の部屋名と同じ名前が今も部屋の名前として使用されていた。村上さんもこの建物の1Fに住んでいる。何かと便利がいいらしい。案内が終わって共有部で取材が始まった。

植物に囲まれたエントランスの様子
今里で作れたクラフトビールも売っている1階共用部
和室にベッドが並ぶ2階の寝室

学生時代の就職活動について

今絶賛就活中の私がまず気になったのは、村上さんの大学生時代の就活について。大学進学当初の村上さんは、ソファが好きだったこともあり、一人暮らしをするにあたってどのように家具を配置するのか、どのような家具を選ぶのかに興味を持った。その興味は段々と強まっていき、自分自身で家具を作るほどになった。

就職活動が始まり、自分の興味のある家具を扱う職業につきたいと自然と考えた。そこで初めに「家具といえば!」と思い浮かんだ業界大手ニトリの選考に進む。最終選考まで残ったが、「ここは自分のやりたいことと違うかもしれない」と感じて辞退を選んだ。

次に考えたのは建築材料を取り扱う会社だった。建材会社とは家づくりの材料を工務店に卸す仕事だ。最終的にはその会社に就職することになり、そこで建材の知識をつけていった。そこで村上さんの興味は家具から広がり、「自分ならこういう家を建てたい!こんな建材を使いたい!」という風に裾野を広げることになった。就職も決まり、新たな興味も発見し順調そうに思えるが、良いことばかりではなく実際はかなり厳しい労働を強いられていたようだ。いわゆるブラック企業だった。帰宅時間は深夜になりまた次の日も朝早くから出勤する。そんな生活を続けて3年半が経った時、先の見えない仕事と減っていく同期の姿を見て、あまりにも厳しい環境だったその職場から離れることを決意した。そこで村上さんは旅に出て新しい夢を見つける。私はてっきり最初からホテル業界に興味があったのかな、などと思っていたので、その意外なキャリア変遷に驚いた。

実際にゲストハウスをやってみて

医薬関係の会社を辞めてから1年ほどかけて、村上さんが仲間達と少しずつ作り上げていったゲストハウス。元あった建物へのリスペクトを残しつつ、これから滞在するだろうさまざまな国籍の人への気遣いも感じられた。たとえば、浴室の前にある洗面スペースにはカーテンを取り付け、イスラム教徒の女性がヒジャブ[2]をとっても他の滞在者を気にせず過ごすことのできるスペースを設けた。また、滞在者の希望に応えて、各部屋に鏡やハンガーラックなども順に設置した。

ゲストハウス生活もやっと始まったかと思うと、次に待ち受けるのは新型コロナウイルス感染拡大による緊急事態宣言だった。読者にとっても記憶に新しいとは思うが、緊急事態宣言下、娯楽や余暇を自宅の外で過ごすなんていう事は考えにくかったのではないだろうか。実際に私が通う近畿大学でも、対面での授業の実施はおろか大学に入ることすら難しかった。また、海外からの入国も規制されており、旅行・宿泊業界は大きな打撃を受けた。

なかなかお客さんもいない時間が続いていた時に、以前勤めていた製薬会社の先輩から「バイトでもいいから助けてほしい」との連絡があった。どうやら人手が足りずに困っていたそうだ。村上さん自身もお客さんが来られず、そろそろバイトでも始めようかと考えていた矢先の出来事だった。そこから、ゲストハウスをする傍らで医薬関係の会社で先輩のサポートの仕事も始めた。また、ゲストハウスの方でも部屋を滞在するための場所としてではなくレンタルスペースとして貸し出すことによって、鍼灸師さんのイメージビデオの撮影や、コスプレの撮影(一時期は、和室をレンタルできるからと鬼殺隊がたくさんいたようだ。)や、ママ会などが行われているそうだ。今ではそんな生活も4年目に突入しようとしている。医薬関係の取引先には仲の良い人もいてたまに飲みにいくこともある。「社会人になりたてだと知り合いは少ないけど、続けていくと気の合う人も含めたくさんの人に出会えるから楽しいよ」と教えてくれたことで、私も「就活頑張ろう……」と思った。

ハンガーラックなど、きめ細やかなアメニティ

訪れる人

ゲストハウスでの宿泊経験がほとんどない私が、個人的な興味で聞いてみた質問が「どんな人が訪れるのか?」ということ。実際質問してみると、面白い話を聞くことができた。村上さんの答えは、「頭の柔軟な人」「泊まり慣れている人」というものだった。これは、「宿泊といえばホテル」のような固定観念を持っていない人という意味だ。しかし、「本当はそうじゃない人にも泊まりに来てほしい」と言っていた。だから、初めてゲストハウスに泊まる人が来てくれるととっても嬉しい。そんな初めての人に知ってもらうために『Living Anywhere Commons』[3]という宿のサブスクリプションに加盟している。そもそも宿にサブスクがあること自体初めて知ったので驚いたが、これを利用して長期滞在してくれる方も多くいる。リピーターもかなり多い。リピーターが増えてくるとだんだんゲスト同士も仲が深まっていく様子も見ることができ面白いらしい。

現在、外国人を含め観光客が増えてきているので、宿泊客もかなり増えてきている。私は個人的にゲストハウスというと海外の方の利用客が多いのかなと思っていたのだが、そういうこともなく、今は日本人の利用者の方が多いそうだ。村上さんは人との時間を大事にしているのだなと感じる瞬間が多かった。この質問をした際にも、面白いエピソード付きで色々な話をしてもらった。普通にホテルに宿泊すればきっとホテルのスタッフであれは、お客さんの面白いエピソードを知るのは難しいだろう。ゲストハウスが全てそうとは限らないが、「ホステル奈」ではそんな風に人と出会える場所、人が出会う場所になっているのかなと思った。

SNSについて

私が現在気になっているSNSでのコミュニティーについてもお話させてもらった。村上さんの考えは、「SNSは過去に宿泊したお客さんの『今』を知るためにとても良いツールだ」とのこと。確かに私自身もしばらく会っていない人の「今」をSNS、特にインスタグラムを通じて知っている。SNSというと、いじめとか炎上や、怪しい投稿などが問題になっていることも多くあると思うが、それ以上に今では人との繋がりを継続できるツールになっているのだなと改めて感じた。一度泊まりに来てくれたお客さんとインスタを交換して、今でもお互いどんなことをしているのかを何となく知っている。そんな風に緩やかに人と繋がることのできるツールがSNSなのだ。もちろん使い方を間違えてはいけないが。

大事にしていること

「やりたいことを今すぐやる」これは村上さんが大切にしていることである。
村上さんは自分のことを「ヘタレだった」と語った。だが、それを逆手にとって、「自分の寿命を27歳に設定して、それまでにやりたいと思ったことを全部しよう」と考えた。だから、明日でもできると考えずに今すぐやってみることを大事にしている。自分の夢を叶え、悔いのないように生活することを常に心がけている。

まとめ

ここから、私は自分のキャリアと向き直ってみた。
私は今、就職活動にネガティブなイメージを持っている。正直したいことや夢があるかといえばないし、周りの人と比べて「自分の価値ってどんなものだろう」と悩むことも多く、なかなか自分に自信が持てない。でも、それでもみんなで同じように髪を黒くしてスーツを着て「自分を採用してください!」と売り込む必要がある。そんなの私には難しすぎるように感じる。だが、村上さんの話を聞いて自分を大切にすること、人との関係性を作ることがとっても大切なのだなと感じた。これは私が、自分のキャリアについて就職活動という短い目で見ていたからということもあるが、もっとキャリアとは長い目で見ないといけないのだ。新卒で採用された会社に生涯勤めるかどうかもわからないし、自分のやりたいことを見つける時間をつくろうと思った。


[1] https://hostel-caranashi.wixsite.com/hostelcaranashi 村上さんのお手製H P
[2]イスラム教徒の女性が着用を義務付けられている頭や体を覆う布
[3] https://livinganywherecommons.com/  Living Anywhere CommonsのHP


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