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サイコパスバー「社会の扉」<モスコミュール>

■女性はただ黙って「愚痴」を聞いてくれればそれでいいのかも知れない。「解決」をけして望んではいないのだろう。 筆者談


暑かった夏から落ち葉舞い散る秋へと「四季」が人々の心に変化を与えている。

毎年9月~11月が最も「甘い食べ物」がよく売れる時期とされているらしい。

その理由としては暑かった「夏」が終わり、涼しい「秋」になることにより、人間は無意識に「寂しさや切なさ」を感じる生き物だそうだ。

(そしてこの時期は「自殺者」も多く出ると聞く)

その為「幸せ中枢」を高める「甘い食べ物」が必然的に売れるそうだ。


そして「この男」ジョウもけして例外ではない。

店の利益面において潤った「夏」が終わり、涼しく冷たい「秋」が訪れている。

これからすぐ「クリスマス」「忘年会シーズン」「新年会」がやってくるが、本当に利益面でその「恩恵」を受けることができるだろうか?

Barの経営が乏しいジョウはそこを懸念していた。


今日は冷たい雨が降っていた。

店は先程2組のお客が帰り、店内はジョウひとりだった。

今日はあと何人来るだろうか・・・?


客足が心配になりジョウは無意識に「はぁ」とため息をついた。


その時、ひとりの「若い女性」が雨の中来店してきた。


ジョウ
「いらっしゃいませ、こちらへどうぞ。」

ジョウはカウンター奥に案内した。

身に着けている物などから、来店した「若い女性」はおそらく20代前半であろうかに見えた。

ジョウ
「何を注文なさいま・・」

若い女性
「ジーマください!」

若い女性は「食い気味」に注文した。

ジョウはそのことに対し特に何も感じなかったが、この店で初めて「ジーマ」が売れたことに驚きを感じた。

余りにも動きが無いので「メニュー」から「リストラ」しようと考えていたからだ。


ジョウ
「かしこまりました、すぐお持ちします。」

瓶の栓を抜くだけなので「15秒」で持ってこれる。

ジョウはジーマの瓶を片手で持ち、栓を抜いた。

ジョウ
「おまたせしました、ジーマです。」

若い女性の前のコースターにそっとジーマを置いた。

若い女性
「あと・・フレンチフライもください。」

ジョウ
「かしこまりました。」

やはり若いから「フード」がないとお酒が飲めないんだな・・・。

ジョウは勝手にそう思い込みながら「冷凍のフレンチフライ」を油で揚げる準備をし始めた。

基本的に「油」を使う時は、その現場から離れないようにジョウはしている。(当たり前?)

ジョウは「油」が適度に温まったのを確認し「冷凍のフレンチフライ」を油の中へ投入した。

パチパチパチパチッ~(揚げている音)
今は本当に便利なもんだ・・・。
冷凍でも普通に美味いし・・・。

ジョウは「パチパチ」と良い音を奏でている「フレンチフライ」を眺めていた。

その時、カウンターの方で何か口論しているかのような「声」が聞こえた。

振り向くと先程の「若い女性」が携帯電話で誰かと話をしていた。

そしてその話の内容をまとめると下記の通りなる。


■若い女性の会話
・「何故嘘ついて合コンいったの?」
・「浮気したんでしょ!?」
・「いつも言い訳ばっかり」
・「私のこと好きじゃないの?」
・「もう別れるから!」

どうやら「彼氏」が嘘ついて「合コン」に行ったのが、この彼女にバレてしまったようだ。

若い女性
「もういいから、切るよ!」

半ば一方的な感じで女性は電話を切った。


ジョウは「フレンチフライ」がキツネ色なってきたのを見計らい、油を切り「大皿」に盛り付け「パセリとケチャップ」を添えてカウンターへ運んだ。

ジョウ
「お待たせしました、フレンチフライです。」「お熱いのでお気をつけて下さい。」

若い女性はスマフォをカウンターに置き、揚げたての「フレンチフライ」を口にし「ジーマ」で流し込んだ。


若い女性
「店長、今の内容聞いてましたよね?」

女性がやや恥ずかしながら聞いてきた。

ジョウ
「はい、自然と耳に入ってきてしまいました。」

ジョウは「聞きたくて聞いてる訳ではない」という思いを少し出した。

若い女性
「彼が隠れて合コンに行ったんです。」「きっと浮気してます。」「もうどうしたらいいか・・。」「ホント信じられない!」

女性の感情は「悲しみ」から「怒り」へと変化していった。


そして

若い女性
「何か同じ男性として意見を聞かせて下さい!」

いつもの「展開」へと繋がってしまった。


ジョウは思った。


「ここはお悩み相談室ではない」と。


しかしながら、自分はBarのマスターをしている以上、この「幼子」の気持ちを無下にすることはできない。

よって何か「有益な」意見を言わなければならない。

この思いは行きつくところ、彼の長所でもある「正義感」がそうさせているのであった。

だがジョウは「共感性」が乏しく空気を読めない体質だ。

そんな彼が彼女に対し「意見」を述べるとこのような結果になる。

ジョウ
「私は合コンというものに数回しか出席したことがないので、良く分からないのですが、あれは特定の恋人がいない人の集まりですよね?」「だとしたらあなたの彼氏は自分には恋人がいないと認識していることになります。」

若い女性
「そんな訳ない、私2年付き合っているんです!」

若い女性はつまんだ「フレンチフライ」を皿に投げ捨てた。

ジョウ
「でも合コンに出席したという事は、新しい出会いを求めに行ったということですよね?」「あなたという可愛らしい彼女が居ながら新しい出会いを求めに行った。」「これはつまり裏切りです。」「あなたを好きではないかも知れません。」「一回裏切った人間は何度でも裏切ります。」「即刻別れるべきだと思います。」「まぁ、それでも良いという一方通行な関係を好んでいるのなら止めませんがね。」

ジョウは何故か最後に強烈な毒をはいてしまった。

話の途中から「俺は何を力説しているんだ」という思いが込み上げてしまい、最後は「突き放した」言い方をしてしまった。


若い女性
「店長・・・、私の彼はそんな酷い人ではありません!」「言い過ぎです!」

ジョウは若い女性を怒らせてしまった。

若い女性は「とんでもないBarに来てしまった」と怒りがふつふつと沸き上がっていた。


これは少し言い過ぎたのかも知れないな・・・

ジョウは心の中でそう呟き、お詫びに何か「カクテル」でも1杯サービスしようと考えていた。


そしてジョウがお詫びの言葉を口しようとしたその時。

Barの入り口から1人の「若い男性」が入ってきた。

そしてその若い男性はカウンターにいるこの女性を見つけると唐突に

若い男性
「レイナごめん、反省しているから別れるなんて言わないでくれ!」

突然恋愛ドラマのようなセリフを吐き出した。

どうやら彼女は「レイナ」という名前らしい。


レイナ
「ナオキ、もう二度と嘘はつかない?裏切らない?」

ジョウはTVショーの「ドッキリ企画」か何かではないかと周囲を見まわした。

ナオキ
「もう2度嘘はつかないし、決して裏切らない!」

ナオキは必死そうだった。

レイナ
「でもこの店長がまた裏切るっていうの!」

レイナはジョウの顔を指差した。

ジョウは唐突に指を差されたのでびっくりしていた。

そしてナオキがそのジョウめがけて「焦り」という「感情」をぶつけてきた。

ナオキ
「あんたは俺の何を知っているんだ?」「知らない癖に彼女にいい加減なことを言わないでくれ!」

顔を赤くし、唾をまき散らしながらジョウに凄んだ。

その後ナオキはジョウに向かって一方的に汚い言葉を吐き散らした。

ジョウはこの2人と言い争う「エネルギー」が勿体ないと感じ「省エネモード」に切り替えた。

ジョウ
「わかりました、言い過ぎました。」「お代は結構ですのでお客様とお引き取りください。」

それを聞きナオキはレイナの手を握り、走るように店を出て行った。



45歳で独身未婚。

自分には「恋愛経験」があまりない。

そんな自分が「若者」に恋愛相談されても大したことは言えない。

だが「Barのマスター」である以上このままではまた同じことが起きてしまうだろう。

ジョウは「人間力」というスキルが欲しいと思った。


しかし、くっついたり離れたり若い奴はまるで「磁石」だな・・・。

ジョウは心の中でまた毒づいていた。

だがその毒づきは裏を返せば若者への「嫉妬心」がそうさせていた。

ジョウはその事に気が付いていなかった。


その後ジョウは意味も無くある「カクテル」を作った。


ウォッカとライムジュースとジンジャーエールを適量に入れる。


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「モスコミュール」を作った。

ジョウは「モスコミュール」を一口飲み、「はぁ」と深いため息をついた。

そのため息は秋の「木枯らし一号」のような切なさが交じっていた。


「喧嘩をしてもその日のうちに仲直り」

これが「モスコミュール」のカクテル言葉である。

ジョウは自身の過去を思い出し、目を細めていた。


<モスコミュール>終


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