見出し画像

クリーニング沼<後編の上>

この「システム」を知った時、私はその狡猾さに驚き、イソップ寓話の「北風と太陽」を思い出した。

私の仕事内容の「生産管理」とは殆ど「クレーム処理係」だった。

(詳しくはクリーニング沼<中編>を参照)

その為「生産管理」という職種は、定着率が低く殆どの社員が「1年」を持たず辞めてしまっているようだ。

確かにこの「生産管理」という職種は、お客との「トラブル」が多く、とても「ヘヴィー」だ。

人に「怒られ慣れていない人」は直ぐ辞めるだろう。

しかし、これよりも更に「黒いシステム」が存在した。

では一体その「黒いシステム」とは何か?

厳重に「施錠」していた心の扉を、今開いてみよう。


工場の成績表


「コスト」

この言葉を聞いて皆さんは何を想像するだろうか?

・加工費
・材料費
・光熱費
・水道費
・家賃
・そして人件費(労務費)

これらが1つの工場で1日どのくらい「効率」を上げたのか。

もしくは下げたのか。

これらの「成績表」を算出させる「謎の計算式」がこの会社にはあった。

・1日の処理枚数
・人員数
・掛かった時間(配送時間も込み)

これらに「謎の計算式」を加えると「ある数字」が出てくる。

この「ある数字」でこの工場が「効率」を上げたのか、下げたのかを判断する。

例えば「100」というボーダーラインがあったとする。

今回仮に「110」という数字だった場合、「効率」を上げたとして会社から「100~500円」の報酬が出る仕組みだ。

なんだ、明確な「目標」が合ってそれを目指して頑張っているんだから良いシステムじゃないか。

そう思う方もいると思います。

しかし仮に「100」を下回り「効率」を下げた場合、どうなるのか。

1日~3日ぐらいなら特に何もない。

ただ長らく続くようならば「本社」から視察指導が来ることになる。

そこで数ある「作業のダメ出し」を数週間「泊りがけ」で続くそうだ。

これに古くからいる「職人肌」のパート作業者は「恐怖」しているのだ。

因みにこの「100」という数字のデーター的根拠(エビデンス)の一部は、本社の息のかかった「工場」の処理データーを基に作られているそうだ。

私は直ぐにこの「システム」の疑問点に気づいた。

だが、古くからいる周りの作業者達は、この「100」を下回ることをただただ「恐怖」するだけだった。


実際「100」は上回っていたのか?


私の管轄のこの工場は、この「100」という数字にかなり敏感だった。

過去に「視察」に入られた経緯があったそうだ。

その「視察後」に、この工場の「作業者」が行っている行動は・・・

「100」を下回る前に「タイムカード」を退勤にするという行為だ。

俗にいう「サービス労働」(残業)だ。

時給の世界で生きている「パート社員」が、本社からの「視察」を恐れて自らの意思で「サービス労働」をする。

暑い現場でアイロン片手に必死に労働している人達が、上層部の視察を恐れ「サービス労働」する。

工場の「成績」を良くする為に「サービス労働」をする。

それを「現場マネージャー」は黙認している。

勿論、新参者でもある私も、足並みを揃えて「サービス残業」をするしかない。

これが仮に何者かの「告発」によって公になった場合、上層部としては「社員達が勝手にやったこと」で済まされるだろう。

これは悪い意味での「北風と太陽」ではないだろうか?

足並みを揃えなければ、周りから中世ヨーロッパのような「魔女」扱いを受ける。

皆「100」という数字に支配されて「冷静さ」を失っていた。

因みに、普通に作業をして「100」を超えることは殆どなかった。

人間心理を突いた「黒いシステム」と私は呼んでいた。


次回こそラストです。

クリーニング沼<後編の下>へつづく

■次回予告:「100」という数字に支配された者、されていない者。
現場では「サービス労働」しない者が「悪人」扱いだった。
本当にこれでいいのか? 次回ラストです。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?