見出し画像

酒によるたった一度の過ちで1700万円近い退職金がぶっ飛ぶ。かくも儚き公務員の安定

様々な事件に対する裁判所の判断を取り上げた、日経新聞の「揺れた天秤~法廷から~」という連載があります。公務員をメインテーマにした連載ではない(他の回は民間企業の経済事件が題材)ということを申し添えた上で、公立教員に関わる事件が題材となった今日の記事について紹介します。

30年間誠実に働いてきた公立校教員が、飲酒運転の物損事故を起こし、一発懲戒免職+1700万円程度の退職金を全額不支給となりました。免職はともかく退職金ゼロは厳しすぎるとして教員が訴えを起こし、一・二審は一部支給を勝ち取ったのですが、最高裁は今年6月に全額不支給とする教育委員会の判断を支持しました。その結果、老後の生活のあてにしていた退職金が一回の過ちでぶっ飛び、生活設計が狂ったという視点で半ば同情的に書かれています。

判決自体は、下のニュースですね。

このニュースで考えられる最大の論点は

長年の功労を、一発の過ちで帳消しにしていいのか

これに尽きるでしょう。

それでもあえて県教委が退職手当を「剥奪」したのは、公務員に対する社会の目の厳しさ、飲酒運転に関しては再三注意警告されていた、という状況があるのでしょう。
本件は、裁判沙汰になった故の報道ですが、仮に処分時点で報道発表をしている場合、退職手当を一部でも出す判断を最初にしていれば、県庁にけっこうなクレームが来るでしょうし、そういう読みが全額不支給という判断につながった可能性は十分に考えられますね。
とはいえ、上記の産経の記事で気になる記述が一つ。

公務員の退職手当支給を制限する行政処分に関し、最高裁が判断を示したのは初めて。

上記産経新聞より

とあるんですが、一方で、隣の岩手県の高校教員の酒気帯び運転について、10年近く前ですが、すでに最高裁判断が出ているような気がするんです。詳細は追えないのですが、もしかして産経が誤報道かもしれませんね。

こっちの事案は、酒気帯びで検挙(事故は起こしていない?)され、やはり県教委から懲戒免職と退職手当不支給の処分を受け、最高裁で不支給の取消が確定し、あらためて3割だけは支給されることになったようです。しかし、元教員はその判断がなお不満で提訴した、という話のように読めます。続報の記事がネットで引っ掛からないので、訴えの取り下げか和解か何かで折り合って終結したのでしょうか。

いずれにせよ、岩手県のケースを見ていると、物損事故を起こしていないという違いはあっても、退職手当ゼロはダメ(多少は退職手当を出せ)よと一度は最高裁が示したようですので、今回の宮城県のケースはたしかにバランス的にどうかという気もします。

実際、宮城の事件では、逆転判決(全額不支給)に異議を唱え、原審判決維持(一部支給でよい)と反対意見を述べた判事が一人いました。その理由は、教員以上に自制すべき警察官が酒気帯び運転したのに停職3か月で済ませたケースとの均衡がとれないということがあったからだそうです。

公務員という地位、責任が、重いです。

今回、本人にとっては厳しい判断となったのは、(世論との関係もあって)タイミングなどの巡り合わせの悪さもあるのでしょう。

公務員と言えば、安定感はたしかに抜群。しかし、それは何かのきっかけで、ガラガラと音を立てて簡単に崩れてしまうようなものなのです。悪いことをしなければよいではないか、と言えばそれまでなのですが。

もちろん、やりがいはある仕事です。けれど、その立場ゆえに、報われない、割に合わない面も本当に多いなと、教員を含めた公務員一般について、考えさせられる記事でした。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?