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緊張

本屋で働いた経験がないので自己流のやり方で、正道か邪道でいえばおそらくは邪道なスタンスで店を営んでいるのだとは思う。
ちゃんとした店舗ではなく、自宅の納屋という時点で世の中から少しズレている気もしている。

それでも2021年2月下旬ごろの開業から2年余りが過ぎた。

この2年間で知ったことや積んだ経験は、このさき本屋として店を開けられなくなっても何かに活きるに違いない。きっと。たぶん。そうであって欲しい。

少しばかりの年月が経過したとはいえ、週二日、週末しか開けていない店舗のお客様の数などたかが知れている。
ましてや一般書店に比べると極々限られた本しか置いておらず、選書やジャンルにも偏りがある。
しかも、表通りどころか裏通りにも面していない(納屋文庫はなんと公道どころか、道に面していない!)手作り店舗に何人のひとが来ようか。

それでも、毎週オープンしているとありがたいことにポツポツとお客様に来ていただけるようになった。

こんな店にわざわざ足を運んでいただけることに無常の喜びを感じながらも、もともと書店で働いたことがなく接客業も学生時代のバイト程度の経験しかないため、お店にお客様が来られるといまだにゆるっと緊張してしまう。

決して入りやすい店ではないだろうから、お客様もそこそこに勇気を振り絞ってドアをくぐってくださっているだろうに、自分の店にいる店員のほうがそわそわしている。

店ではレコードでジャズをかけていることが多いが、レコードは30分で針が上がりぷっつりと切れる。
切れた途端に店内は静寂に包まれるが、慌てて裏面に返して再生し直しにいく。
静かすぎると落ち着かないからだ。
もしかしたら静かに本を選びたいお客様もいらっしゃるだろうが、そんな理由なのだからごめんなさい。

まぁ情けない話ではあるが、それでもお客様とお話しさせていただくことも多いし、それは素直に楽しい。

つい先日来られたお客様から店で珈琲でも出したらどうかとご助言をいただいた。
ソファや椅子などを置いているし、ゆっくりと本を読みたいお客さんもいるだろうから喫茶でもどうかという意味だったとは思うが私は何を思ったか「あ…車で5分くらいのところにコメダ珈琲がありますよ?」と答えてしまった。ごめんなさい。

いま思うと素っ頓狂な回答ばかりしている店員かもしれませんが、それでも気さくにお話しかけくださるお客様には本当にありがたく緊張も和らぐし心から感謝しています。

思えば、納屋文庫をはじめる前は本屋としてお客様と会話をする日が来ようとは夢にも思わなかったのだから人生は不思議だ。

それも自宅の納屋で、なのだから。

納屋文庫・店内

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