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【食レポ】酒研究所 酒道庵 庵


酒研究所 酒道庵 庵


 東京23区の西のはずれ板橋区蓮根の住宅街。普通のアパートの2階にこんな場所がありました。その名も「酒研究所 酒道庵 庵」
 この建物の1階で酒販店を営む「酒道庵 阿部」が経営する研究所(居酒屋)です。会員からの紹介、同伴がないと入店することすらかなわない。だけど決して敷居が高いわけではなく、ひとたび宴会が始まればワイワイと楽しい食事とお酒と店主とのおしゃべりが繰り広げられる。そんな楽しい場所でした。

※酒道庵についてはクリーミー大久保さんのnote記事をご覧ください
異端の酒屋『酒道庵』へ。日本酒の選び方を学ぶ熱血講座「酒を冷やすなバカ野郎!」

 ひとたび玄関のドアを開けると、板橋区蓮根とは思えない上質な空間につながっていた。隠れ家的な?いや想像のもっと上を行ってた。

落ち着いた割烹のようになっている。ここなら財界政界の有名人も訪れてるというのもうなずける
カウンターの向こうにはお燗をつける銅壺(どうこ)が鎮座。これだけで何十万もするのだとか
なにやら高そうな壺も置いてある
テーブルには今日のお品書きが手書きで。趣がある

コースはおまかせの1コースのみ。料理はお品書きにある通り。お酒はといえば、酒道庵にあるお酒の中からこの日の料理に合わせて選ばれた日本酒が飲み放題。言えばいくらでも出してくれる。だけどお酌をしあうのは禁止。完全手酌で自分のペースでいただきます。

自立しない平盃。これを下の台座においてお酒をいただきます
これが台座
こんな感じで平盃をセット

この酒器(台座と平盃)で日本酒をいただきます。平盃だけだと自立しない。この台座に立てられない位酔ってしまったら打止め。
基本はお燗時々冷や(常温)。冷酒はあり得ない!というのは酒道庵のお約束!

食前酒:野ゆず

食前酒の野ゆずをいただき、高鳴る胸とお腹を落ち着けて料理を待ちます

料理

■先付け天然もずく

口に入れてみたら1本1本が思ってたよりずっと太く、柔らかくふんわりしてた。

 千切りの生姜とおろし生姜の食感も風味変わっていろんな味で楽しめる。肉厚のもずくにおしとやかな酢。これだけで完結している。
 そこに合わせる酒は「すみだ川」。すっきりした甘みとしっとりした酸味がもずくの酸味と出会う。酒の酸味がもずくにまた違った味を足してくれる。

■庵盛

■半熟ゆでたまご
すみだ川と合わせると、酒の柔らかい酸味がいつのまにか半熟黄身の隣りにいる。お互いが主張するわけではなく、一歩引いて良さを引き出そうとしているよう。
■からすみ大根
酒粕に3年間漬けたからすみ。香りも味も酒粕の風味をまとい上品で濃厚な風味を獲得している。3年熟成酒粕のしっかりしたコクでからすみの塩気が良い具合に和らいでいる。そのことがぬる燗すみだ川の穏やかな甘酸っぱさに見事にマッチしている。
■くちこ(ばちこ)
磯の風味がいやらしくなく上品に感じられる。口に含むとヨード感もしっかり。味はあるけどしょっぱいわけではない。
すみだ川と合わせれば磯の香りはそのままに低アルコールの少し甘い酒と磯の塩味が合う。磯のさわやかな香りが酒と合わさり酒のバランスがもっと良くなる。
ぬる燗の酒に浸して出汁が出るとさらにうまい。磯っぽくてワイルドな風味なのに日本酒とと合わさりとケンカしない。

■馬刺し盛合せ

馬レバ赤身コウネの盛り合わせ

■馬レバ刺し
熟成された醤油漬けガーリックがレバーの臭みを消してくれる。風味がとても心地よい。
これにもすみだ川の穏やかだけど持続する酸がよく合う。なんと言うか口の中が全体として柔らかい、ほんわりする。レバー、ニンニク、日本酒といった刺激の強いものと合わせているのに、三者がうまくまとまって尖ったところがないのが面白い。
■赤身とコウネ
すみだ川の酸味がコウネの脂を柔らかくしてくれる。脂身がすみだ川の酸味と合わさり甘さが際立つ。ぬる燗や人肌燗がちょうど脂をゆるーく溶かしてまろやか滑らかに。

■エゾアワビの蒸し焼き

磯の香りがありつつも上品な風味の鮑、蒸して焼いているからか

合わせたお酒は「たまゆらの」。甘さと苦さのバランスが鮑の苦さと同調して合う。きれいな酒であるが、米のうま味やふくらみも感じられる。酒が磯の香もしっかり受け止める。
「くくみ酒」も合う。身にも肝にもバランスが良い。

最期に肝を少し残してそこに熱燗の酒を注ぐ。酒に肝を溶いて、これ以上ない贅沢な酒の飲み方。

■もち豚ロースト、バルサミコ酢(18年)生粒胡椒

ポークが淡白な味なのでバルサミコと粒胡椒がアクセントに

すみだ川が熟成バルサミコとよく合う。酒の柔らかい酸味がバルサミコに並走、追従してるよう。
人肌~ぬる燗で、ポークの脂を溶かし染み出てくる豚のうま味が酒のうま味と合わさる。

■枝豆とうふ

枝豆の若々しい風味が豆腐。添えられた塩と生わさびで味をつけてもおいしい

酒はくくみ酒がよく合った。酒があまり主張し過ぎず、豆腐をリスペクトして合わせてるようだ。
「ふわふわ」と合わせると酒が全く味の邪魔をしてないばかりかにごりの成分が豆の繊維のその隙間に入り込み滑らかにしてくれている。

■江戸前穴子煮

見た目は白焼き。醤油で煮たのではなくシンプルに水で炊いて塩で味を調整してるだけ。なのにしっかりあなごの味が

穴子はわさびと塩でいただく。この調理だと素材の味をだませない。
たまゆらの甘さがシンプルな煮アナゴにうまく味を足していて、ほのかな苦みも上手に味を足してくれているようだ。

穴子を煮た地(じ)?。

あなごのコラーゲンと脂がたっぷり染み出している。これだけでずっと飲んでいたい。

■比内地鶏手羽先焼きと夏野菜のだし煮

鶏自体がしっかり力強いうま味を持っているのでシンプルに塩焼きがベスト。
夏野菜を出汁で優しく煮られている

鶏はかぶりついていただく。しっかり噛み応えがある。野菜のだし煮と合わせたり、柚子胡椒と合わせることで味のバリエーションを楽しめる。
この料理にはふわふわがベストマッチした。鶏の脂はしつこくなくあっさりしているけど、きめ細やかなにごり酒と合わさることで、さらに上品な脂になっていく。塩味とにごり酒もよく合ってる。

■鯖塩焼きと生姜の甘酢漬け

脂がのったさばの塩焼き、添えられたさいの目の生姜酢漬けもうまい

さいの目に切られた生姜が付け合わせの域を超えていて一品料理になっている。サバと合わせていただいても美味しい。
さばの脂、塩にもやはりふわふわがよく合う。くくみ酒ももちろん合う。こういう純米酒は脂との相性がとても良い。

■白ご飯 長野のお米、お吸い物

おいしい。しっかりごはんだけでおいしくいただける。
合わせなかったけど、このご飯にはたまゆらが合いそう。

■卵かけごはんで

地養卵と焼きのり。卵かけご飯にベスト

味をつけなくてもしっかり味がある卵。味付けなしでも行けそうなくらい滋味にあふれてる。この卵は隠れた人気商品とのことだったけど食べてわかった。醤油もいいけど塩で味をつける方がシンプルでうまい。
お代わりしたら、次はトリュフバターを乗せてその上に残しておいた卵を。卵のまろやかさが合わさりトリュフの香りを穏やかにマイルドに。口に含むとトリュフの香りと少し遅れて卵のまろやかさ、うまい。海苔もしっかりうまい。

■お茶(玄米茶)

食後には抹茶かと思ったら玄米茶だった

いただいたお酒達

本日のお酒たち。どれも料理によく合った

●すみだ川

13%低アル酒。しっとりした酸と甘みが特徴。柔らかい酸味が口の中に持続して残り心地よく食欲を誘う。ぬる燗にするといつまでも飲んでいたいと思わせる酒。

●たまゆらの

甘味とほのかな苦味と山田錦の膨らみが見事に同居している。35%磨きだけど旨みがちゃんと感じられる。飛び切り燗ににつけてもらったところ、表情が全然違った!すっきりとキレがよく全くだれることなく酒の芯がシンプルに強調されている。
(常温は厚みのある猪口、燗は平杯で飲んだので酒器も影響してる)

●くくみ酒

酒道庵の定番酒。どんな料理にも合わせられる癖のない純米酒

●ふわふわ

すっきりとしたにごり酒。にごりの部分は麹のような甘酒ような風味、だけど甘くない。

まとめ

まさか蓮根の住宅街でこんな体験ができるとは!料理とお酒のペアリングを中心に書いたけれどこのお店の真価はそれだけでは伝えきれていません。料理、お酒、人、会話、お店側のもてなしの心と客側の楽しもうとする意欲、それらが構成する雰囲気、全部が整って最高の酒場を形成しているのだと思います。そのためお店側も準備も大変で大体週に1回位しか予約を入れていないとのこと。それだけに頻繁に通うことのできない場所だけど、うかがえた際には最高に楽しめる場所になっている。ご馳走様でした!至福の3時間でした!

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