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【インタビュー】「コンピレーションは作り手の想いを映す」 ……山野楽器担当者に聞く、アルバム『GINZA Baroque Favorites~山野楽器 バロック名曲セレクション』誕生秘話

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山野楽器のオリジナル企画によるコンピレーション企画にバロック音楽編が加わった。「GINZA Baroque Favorites~山野楽器 バロック名曲セレクション」。2020年11月発売以来、お客様からも好評というこのアルバムについて、クリスマス・イヴを1週間後に控えた12月17日、その企画制作を担当した株式会社山野楽器 小売事業部 商品部 AVソフト商品課 課長の峯岡隆様にオンラインでお話をうかがった。    (聞き手 ナクソス・ジャパン)

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──── 今日はお忙しいところをありがとうございます。まずは峯岡さんのクラシック音楽との付き合いや山野楽器での経歴について教えて下さい。

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株式会社山野楽器 小売事業部 商品部 AVソフト商品課 課長 峯岡隆様

峯岡隆氏(以下、敬称略):クラシック音楽を好きになったのは父親の影響です。私の父親は小さい頃に5球スーパー(真空管式のラジオ)で進駐軍向けの放送を聴いているうちにクラシック音楽好きになっていったそうです。私も子供のころから父親と一緒にテレビの音楽番組を見たり聴いたりしているうちに美しいメロディーの多いクラシック音楽に興味をもつようになりました。それでも学生の頃までは、趣味で聴く範囲に留めるつもりでいましたが、就職の際に「どうせなら好きな音楽に関わる仕事を」という思いで山野楽器に入りました。平成元年のことです。最初の1年間は本店1FのJPOP売場などで販売の仕方、お客様への接し方などを学びましたが、当時は社内にクラシック音楽の担当者が少なかったこともあり、2年目からクラシック売場の担当になりました。1991年に銀座本店を新築した際には、新しいクラシック売場の担当者として携わらせていただきました。そうこうしながら、長くやらせていただいています。

イメージは「銀座の街に流れているBGM」

──── 山野楽器さんでは、その銀座本店にちなんで「GINZA」と銘打ったオリジナル企画のコンピレーションCDを2016年から発売していますね。洋楽・ジャズ・映画音楽などがありますが、第1作が「銀座クラシック」こと「GINZA Classics~山野楽器 クラシック名曲セレクション~」でした。この「GINZA Baroque Favorites~山野楽器 バロック名曲セレクション~」がクラシックの6作目です。このシリーズはどのようなきっかけで生まれたのでしょうか。

峯岡:私の前任者がレコード会社から原盤をOEM供給してもらって復刻する形で独自企画のCDを以前に出していたのですが、それが好評をいただいていました。そのうち誰からともなく「いっそオリジナル企画でクラシックのコンピレーションをやったらどうだろうか」という声が出て来て、会社から「だったら、まず一つやってみたら?」との提案がありました。以前から銀座の店頭では「パッヘルベルのカノン」をかけると、みなさん足を止めて聴いて下さり、CDがとても良く売れていました。曲に関する知識がなくても、一節聴いただけで気に入って買って下さる方が多かったのです。そこで、「銀座の街に流れているBGM」をイメージしたCDを作ろうということになり、第一作が生まれました。発売は2016年4月で、おかげさまで今でもよく売れています。当初はシリーズ化するつもりもなく、これほど受け入れられるとは思っていなかったので、予想外の売れ行きに自分でも連日驚いていたのをよく覚えています。

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第1作「GINZA Classics」。ジャケットには銀座の街並みをイラストにした。すべての建物を回って掲載の許可をお願いしたという。

3年間、大切に温めつづけてきた「古楽のオリジナル企画」

──── なるほど。それで「銀座クラシック」の1曲目がパッヘルベルのカノンなのですね。ところで今回のCDのテーマ、「バロック」は、どのような経緯で決まったのでしょうか。

峯岡:銀座本店に古楽に造詣の深いスタッフがいまして、彼と私とで「古楽の企画を一つ作ろう」という話を以前からしていました。ただ「古楽」といっても時代が広いので、やるならバロックに絞ることにしました。「GINZA Classics」シリーズの2作目にとりかかった時からそれが念頭にあったので、シリーズ第2作以降の企画ではバロックの曲をなるべく外し、温存して来たのです。
バロック音楽のいいところは、BGMとして抵抗なく受け入れられることと、BGMに留まらない人間の感情の豊かさも持っており、様々な楽しみ方ができることです。また、このCDによってバロック音楽はバッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディだけではなく、彼ら以外にも素晴らしい作曲家や作品がたくさん存在することも伝えたかったのです。

──── 3年越しの企画ということになりますね。収録曲を見ますと、バッハの有名曲の数々、ヴィヴァルディの『四季』やヘンデルの『水上の音楽』など、バロック名曲集の定番といえる曲もありますが、他社の同じようなCDには入っていないような曲もあります。選曲のポイントや秘話があれば教えていただけませんか。

峯岡:バロック名曲集は他社からすでにいくつも出ていますが、同じようなものを出すのではオリジナル企画でやる意味がない。既存の名曲集に入っていなくても、私たちが「これはイイ!」と信じるものを入れました。2,3挙げるとすると、ブクステフーデの前奏曲、パーセルのシャコンヌ、そしてラモーをはじめとするフランス・バロックの作品です。「バロック名曲集」にブクステフーデが入っているのは珍しいと思いますよ。
音源についても、Naxosだけで曲はかなり揃うのですが、今回は古楽の名門であるRicercarなど他のレーベルの音源も収録することが出来て、曲だけでなく演奏にもこだわった選曲が出来ました。CD2枚組の収録時間ほぼいっぱいになりましたが、候補曲はCD5枚分くらいありました。

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左から ブクステフーデ、パーセル、ジャン=フィリップ・ラモー

曲順については、まず候補曲をすべて繰り返し聴いてイメージを頭の中に入れます。その上で1曲目と2曲目と最後を決めて、その間を曲のスタイル、雰囲気、楽器の種類など、同じものが続かないようにしてつなげて行きます。今回はNaxos Music Libraryのプレイリスト機能が役に立ちました。

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──── 御担当者として、出来栄えはいかがでしょうか。

峯岡:まず音質に満足しています。コンピレーションでは全体を通して違和感がないように音質・音量を揃えるのが難しい上に、チェンバロ・ソロなど、古楽器の音は耳にきつく聞こえてしまいかねないのですが、このアルバムはオリジナルの録音の特徴を保ちつつ、楽器の音が尖った感じにならず、マイルドかつ雰囲気のある聴きやすい音質で揃いました。ジャケットも満足です。ヨーロッパの歴史ある石組みの街並みを感じさせ、暮れかかる空の下の灯りが温かみを出しています。

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第6作「GINZA Baroque Favorites」。パッケージにもこだわりがある。

──── お客様からの反響はいかがでしょうか。

峯岡:もちろん銀座本店が一番売れていますが、仙台や川越など、東京以外のお店でもよく売れているんです。お店で小さめの音量で流しておくと、通りかかったお客様が足を止めて手に取って下さるそうです。ジャケットのセンスがいいという声もあちこちで耳にします。
また、ギフトとしてもふさわしいものになるよう心がけて制作していますので、大切な人への音楽のプレゼントとしてご購入いただいているという話を聞くと、制作者冥利に尽きる思いです。

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銀座本店での展開。ギフトにもぴったりの「GINZA」シリーズ。

癒し系というだけにとどまらない、バロック音楽の感情表現の豊かさ

──── この「GINZA」シリーズには、巻頭にスタッフの方からのメッセージが掲載されていますね。

峯岡:当社の企業理念に「音楽普及を通じて社会へ貢献する(Be Happy with Music)」というものがあります。楽器、音楽教室、CDなどを通して豊かで充実した人生を過ごしていただきたいという気持ちを、コンピレーションを作る際にも込めています。この「バロック名曲セレクション」については、スタッフが解説にも書いていますが、癒し系というだけにとどまらない、バロック音楽の感情表現の豊かさを存分に楽しんでいただきたいと思います。そしてこのCDがきっかけになって、バッハ、ヘンデル、ヴィヴァルディ以外にも素晴らしいバロック音楽が多数あることに関心を持ち、もっと聴いてみたいと思っていただけたら嬉しいです。

コンピレーションには作り手の想いが反映する

峯岡:実は最初に「GINZA Classics」を作った時、コンピレーションCDをお買い求め下さるのはクラシック音楽を気軽に楽しみたいお客様が中心だと思っていたのですが、かなり熱心で専門的なファンの方も買って下さっていることがわかりました。「普通のコンピレーションは買わないが、山野楽器のものは聴いてみたくなる」というお手紙をいただいたこともあります。
コンピレーションには作り手の想いが反映するので、責任重大です。音源の選択、曲順…どれ一つとっても軽い気持ちでは出来ません。そうでなければならない理由を説明できるまで考えて、作り込んでいます。そこまでやったCDなので、ロング・セラーにしたい、CDというフォーマットがある限り売れ続けるCDにしたい、と願っています。

──── 素敵なお話ですね。本日はありがとうございました。

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■アルバム「GINZA Baroque Favorites~山野楽器 バロック名曲セレクション」
2020/11/25発売 YMCD-10019/20 ¥2,530(税込)
♪ご購入はこちらから▶ 山野楽器オンラインショップ
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■銀座本店 - 山野楽器
https://www.yamano-music.co.jp/shops/ginza/