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缶ビールあけて

特段、星野源さんのファンというわけでは無いけれど、時折耳にした瞬間にそのフレーズが刺さって、思わず歌詞を検索してしまう事がある。
自分にとってのパンチラインなのは

  • Family Song

  • 喜劇

この2曲の一節ずつ

「喜劇」を初めて聴いた時、彼の顔が浮かんで、そのまま歌詞をメッセージで送った。これよ、こう生きたいの。この部分だ。

あの日交わした
血に勝るもの
心たちの契約を

手を繋ぎ帰ろうか
今日は何食べようか
「こんなことがあった」って
君と話したかったんだ
いつの日も
君となら喜劇よ
踊る軋むベッドで笑い転げたままで
ふざけた生活はつづくさ

星野源「喜劇」

そう。
ずっと話していたいんだ。今日その日あった出来事、それに対する感情。聞いてほしい、聞きたい。


いっとき、毎日のように会ってはその日の出来事を話しながらひたすら歩いていた時期があった。暑い日も寒い日も、坂を上り、車のヘッドライトに照らされながら歩いて、とにかくいろんな話をした。
驚くほどピタリと見解が一致することもあれば、食い違い言い合いのようになることもある。でも、議論とも言えないような些細な言い争いすらも楽しくて、ひと通りやりあった後はどちらともなく噴き出して笑い、顔を近づけてキスをした。
こんなにも話していて楽しい相手はいない。言い負かされて悔しい、でもこうして意見を交わせることが嬉しい、そんな気持ちで幸せだった。

「喜劇」をエンドレスリピートで聴きながら、目を閉じて、妄想する。

駅で一緒になる。「お疲れさま」なんて言いながら同じ部屋へ手を繋ぎ帰る。
ご飯の準備をしながら今日一日の事を話す。途中缶ビールを開けて、飲み始めながら喋る。
ご飯が終わり、ビールはそのうちハイボールに変わる。わたしを試すように煽るような事を言う彼と、挑発にいとも簡単にのって語調荒くムッとするわたし。でも、それがいつもの2人のパターンである事もわかっている。

ベッドに入る。触れ合いながら、抱きあいながらもまだ喋る。腹落ちするまでしつこいくらいに食い下がるのはわたし。絶対に自分を曲げないのが彼。「もう、もう、わかったから」と口を唇で封じられる。

そんな生活が来るとは到底思えない現状だけど、わたしが彼と一緒に手に入れたいのはそういう時間なのだった。高望みはしない、キラキラしたあれこれはもう要らない。2人で色んなことについて、思うこと考えたことを交換したいだけ。自分には無い視点を彼からもらい、自分の中に新たなひきだしが増える、それが自分の人生にとって価値のあることだと思っている。星野源さんの柔らかい声が、耳の奥に残る。

分かち合えた日々に
笑い転げた先に
ふざけた生活は続くさ

お互いの持っているものを分かち合える事が、2人にとっては何よりの刺激だと思っている。違うからこそ、それがより一層魅力的に映る。

血を乗り越えることは出来るだろうか。今すぐでなくていい。血に勝る、心と心の結びつきをわたしは信じたい。

いつか、狭いキッチンを挟んでその日あった事をその日のうちに議論できる日を思い描きながら、イヤフォンで耳を塞ぎ、今は現実を見ないようにしている。


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