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作品紹介『トーテム・ポール』

研究所の仲間たちが、かっこいいポーズを決めている様子を描いた作品です。



『トーテム・ポール』

書斎にて。──スロリの手記

私は、日記を毎日欠かさずつけている。

その日に行った研究の記録はもちろん、印象に残った言葉や出来事など、些細なことでも書き留めておくのが習慣になっている。


私は、この神秘の島で長年研究を続ける中で、毎日のように発見の喜びを感じ、自然の素晴らしさに胸を高鳴らせてきた。

しかし、私が記憶していられる情報の量は、私が生きている間に体験したことのうちの、残念ながら極わずかに過ぎない。

ましてや、宇宙の片隅に浮かぶこの惑星の、この島に棲む、無数の生き物たちの中の、単なる1匹に過ぎないこの私が、何を見聞きし一喜一憂してきたかなど、大自然にとってみれば刹那の出来事に過ぎず、取るに足らないものなのだろう。

若い頃はよく「自分はこんなにちっぽけな存在なのに、もがき苦しみながら毎日を生きて、努力して、一体何になるんだろう」と悩んだものだった。

確かにそうだ。私ひとりの生涯など、それ自体に価値があるわけではないのかもしれない。


しかし私は、私が作ったもの、書いたものにも、価値がないとは思わない。


先人たちは、学問、芸術、生活の知恵など、あらゆる知識を積み上げてきた。

それらは大きな山のごとくそびえ、私たちはその山の頂に立っている。


そして、私も山の頂に、小さな小さな砂粒1つを、一生かけて積み上げて、山をほんの少しだけ、高くしてやろうと思い、私は記録を遺すのだ。


幸いにも、私はトロポコ君、ウォンバ君、ナヤメリ君など、頼もしい仲間たちに恵まれている。

私が彼らに伝えたことは、私がここに記したことは、彼らの中にもきっと遺り、また次の世代へ、次の世代へ、長い年月を渡っていくのだ。


調査地:ノーチラス諸島テトリア島、研究所周辺(xx° xx’ xx”N, xx° xx’ xx”E)
記述日時:xxxx年xx月xx日 午後18時15分
記録者:スロリ



トロポコ研究員のコレクションルームにて。──トロポコ

「というわけで、君が集めた宝物も、私が書き留めた研究記録も、ウォンバ君が描いた絵も、どこかの誰かの役に立つかも知れないのだ。だから我々はものを作り、描き、書き留め、それを大切に保存せねばならんのだ。」

スロリ先生がまたむずかしい話をしている。

「じゃあじゃあ、トロポコたちの冒険をみんなに知ってもらうために、本を作ったらいいんじゃないかなー?」

われながらめいあんだ!トロポコたちのことをわかりやすくまとめた本を作れば、未来のだれかさんもよろこぶにちがいない。

「本をたくさん作って、世界中で配ったら、トロポコたちはゆうめいになるかもしれないね!」

「そうだな。我々の研究が認められたら、トロポコ君は偉大な冒険家として、みんなの憧れになるかもしれん。」

「やったぁ!!それなら、ゆうめいになったときのために、アレを考えておかなきゃ!!」

「アレ?アレってなにかね?」

「決まってるでしょ先生!かっこいいポーズ!」



研究所の玄関ホールにて。──スロリ

次の日の朝、トロポコ君は、研究所のメンバーを玄関ホールに集めた。

「今日はトロポコ探検隊の決めポーズの練習をします!」

知らぬうちにトロポコ探検隊の隊員に任命されたウォンバ君とナヤメリ君は、首を傾げている。

何が始まるのかと様子を眺めていると、トロポコ君が地下倉庫から大きな鏡を持ち出してきた。

稀に見る大張り切りの様子だ。


何だか嫌な予感がする。

前にもトロポコ君がやたら張り切っていた日あったが、その時は確か、海賊が隠した宝物を掘り当てるとかなんとか言って、日が暮れるまで穴を掘らされたのだ。

「それでトロポコ君、その"決めポーズ"とやらは、どんなポーズなのかね?」
恐る恐る聞いてみる。

「えっと、ヒーローっぽいやつと、みんなでジャンプするやつと、タワーみたいなやつと……」

「ちょっと待っておくれ、そんなにたくさん考えてきたのかね?」

「うん!50種類!ぜんぶ試してみよう!」

嫌な予感は的中するものだ。

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今回のお話はこれで終わりです。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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