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守護靈(先祖)を試す孫

わたしには元々、
視覚的な靈感というのはほとんど無い。

大人になってから一度、夜中に
イカレた知人とダムの駐車場にいたところ、
車のフロントガラスを突き抜けてこちらに入ってくる人型の影を見たことがあるぐらいだ。
「性別が男」というのがわかっただけで年齢はわからない。最初は人だと思ったけれど、
「その人」はこちらに近づいてきても顔は真っ黒なまま、とうとうフロントガラスをすり抜けて向かってきたので
「あっ!?人じゃない!」と車を急発進させた。
ライトをつけていたのに顔は黒くて見えなかったし、「影」と呼ぶのが適当なように思う。


ほかにも不思議体験はいくつかあるものの
靈的ななにかの話題よりは、
「人怖(ヒトコワ)」と呼ばれる体験のほうが圧倒的に多い。



「あんた昔から変なひとによう遭うよなぁ」


とは、30歳を過ぎて再会した同級生の言葉である。


「最近何か始めたこととかないの」と訊ねられ、
「あ〜……ちょっと前にウォーキング始めたんやけど…」
と、話し始めた。



「散歩ええやん。家の周り?」

「そう、住宅街。うちの周りって店もなんも無くてな。自販機すらないし、駅に行くなら一直線。
『歩く』をしに行く人はたいてい、田んぼのほう行くねんけど、そこまではな〜と思って家の周りで済まそうと思って。
夕方よりちょっと前に歩き始めてん。
通る道は決めてなくて、適当にぐるぐる。
で、氣づいたら足音聞こえてて、
チラッと振り返ったら黒い服の男がついてきてた。
何かポスティングしてるでもない、
犬も連れてない、駅に向かってるでもない。
宗教勧誘とか、何かの営業さんでもなさそう。
まあ散歩かな、と最初は氣にせんかったけど、
わたしがランダムに曲がるたび、ついてくる。
いやいや、たまたまこっちのほうが家なんやろ、って自分に言い聞かせながら歩いててん。
けど、ずっと同じテンポでひたひたついて来られるのってなんか落ち着かへんし、
もう先行ってもらおうと思って歩みを緩めたら、向こうも緩めたんか追い抜いて来えへん。
それでいてこっちが歩みを早めたら、同じように早めてくるんよ。で、さっき通った道にわざと曲がってみても、まだついてくる。
あれ?これ、もしかしてわたしの家までつけられるやつ…?と思ったらこわくなって、進むんやめて急にUターンしてそいつと目あわさんとすれ違ったら、向こうはギュンッて立ち止まってた。
ほらみろやっぱあかんやつやん!と思って走って逃げた。それ以来、散歩してない」

「げー!こわっ!!!散歩初日に?萎えるわ…
てかさあんたそういう系の変なひとによう遭うよなあ。
高校のときも塾の帰りにパーカーのフードかぶって下半身出した男に声かけられたとかあったやん。あと、◯◯ちゃんと歩いてたら歩道橋の下の影でおっさんが何もせんと突っ立ってたとかさー、バスの停留所のベンチに座ってたら自転車のじいさんがぐるぐるベンチの周り回ってきたとかさー、大阪の公園で朝飯食べてたら知らん奴寄ってきてオナ◯ー見せられたとかさー」


「いやよう覚えてんなぁ。
『不審者注意』の貼紙の真横に現れた不審者に
『いやコイツやん……!!』てなった」


「だって聞いたとき衝撃やったもん。
あたしそんな変なひと、
未だに遭ったことないし」

「えっ、嘘やん……!」
とわたしも衝撃を受けた。

世の中の女性たちはこのぐらいの頻度(わたしと同じぐらい)で変なひとに遭遇していて、
それでもなにごともないように生きておられるのではないのか……?
えっ、もしかしてわたし、相当過酷な体験を
「よくあること(当社比)」と処理してきたのか……!?
付き合う男に合わせて服装の変わるその同級生がセクハラ級のミニスカを穿いていたあの時期にも何もなかったという。
ミニスカを穿きたかったわけではないが、
変なひとに遭遇していない同級生をうらやましく思った。

本当にこわいとき、
喉がヒュッと締まって声が出なくなる。
そんな経験をしてきたわたしからすると、
「靈的なもの」よりも生きてる人間のほうが圧倒的に恐ろしい。


そんな
「どちらかというと人怖体験が多いわたし」だが、祖母が亡くなったとき、不思議体験をした。


通夜の前日。
祖母が生前から「おばあちゃんが死んだら棺桶に入れてほしい」と繰り返し言っていたあるブツが見当たらない。親族たちがバタバタといろんな引き出しを開けてゆくがどうしても見当たらない。母と叔母は捜索を打ち切り、
「もうええやろ、しゃーない」とすっかり諦めてしまった。
そのタイミングで、祖母はわたしに話しかけてきた。
いや話しかけてきたというより、もっと直接的だった。
言葉とイメージが合わさって伝えられ、
「ここにある」と「わかった」。
詳細な場所を聞いたわたしはそのまま、
祖母が寝ていた部屋の、
いま祖母から伝えられた通りの場所から
お願いされていた一式を見つけだした。

「あった」と差出すと、
母と叔母からは「なんで!?」と
驚かれたけれど、
「いや祖母が……」とは言えず、黙っていた。


その後も「ばーさん亡くなったって伝えるのにずーっと電話かけてんのにこの親戚だけ連絡がつかない」と母がぶつぶつ言うと、
やはり祖母から伝言のようなものが降りてくる。「携帯からかけても出やへんで。この人は祖母宅の固定電話からかけたら出る」とわたしが母に伝えて母がその通りにすると、一発で電話が繋がったりもした。

さて、そんなわたしにあれこれ伝えてくれる
母方の祖母と、随分前に亡くなった父方の祖父がわたしを守護してくれている、
と視える人たちからはしばしば言われる。
とはいえ、わたしに視覚的靈感はないので
「姿」はわからない。
たまに感覚的に「あっ」と思うぐらいだ。

少し前、
「いてくれてるなら、わたしにわかりやすい形で虹を見せて」とお願いしたところ、5分以内に
「虹色の傘」を差したひとを見せてくれた。


たまに存在を感じることはあるけれど、
常時、感じているわけではない。


「あれっ?いまいてる?……おらん?あれっ?どっか行った???💦」とふいにオロオロし、
「ほんまにいてるなら」と、
ご先祖さまたちを試したくなるのだった。


♨️


子孫(わたし)はきょう、日帰り温泉にいた。
31.2度のぬるい源泉風呂と
それを加熱したあたたかい風呂の交互浴をして
自律神経を整えようという算段である。


今まで認めて来なかったけど、うつである。
そう、うつである。(躁鬱ではない)
だが、これもちょっとずつ回復傾向にある。

先日のカウンセリングで受けた心理テストによると、2月よりもうつ傾向の数値が下がっていた。
カウンセラーさんからも
「すばらしいですね!」と言ってもらえた。


これまでの人生、どうも自分は自分に対して鬼軍曹のように厳しすぎたらしい。
「たまの日帰り温泉」なんてかわいいものである。料金には薄手の白いタオルも含まれていて、
浴場ではそのタオルを使用している人が多い。
わたしもその一人だ。


さて、露天風呂。
先客のおばあちゃんが内湯に戻り、
露天風呂は貸切状態となった。
首のうしろに打たせ湯を浴びながら、
わたしはふと、思いついた。


「いまもご先祖ズ、いてくれてるんかな?」


ふいに「虹色の傘」を見せてもらった日のことを思い出し、心のなかで問うた。



「祖母がいてくれてるんなら、
青いタオルを見せておくれ。
Adobe illustratorのスウォッチのデフォルトのような青。
祖父がいてくれてるなら、
ショッキングピンクの……タオルは難しいかな?
なんか、小物を見せておくれ」


脳天に「ほぼ水」の打たせ湯を浴び、
露天風呂をあとにした。


大浴場に戻って、あたたかい方の湯舟に静々と入る。

「無茶振りだったかしら、ホホホ……」


肩までざぶぶと湯に浸かり
ふと右前方を見ると、


なんと、
青いタオルを頭に巻いた人がいる……!!


しかも、わたしの伝えた
Adobe illustrator、
スウォッチ(デフォ)の青……!!!


コレ。


「わあああああ!祖母ーーーーッッッ!!」


子孫(わたし)は静かに歓喜した。
祖母はいるのだ!!間違いない!!!
先ほどまで「白いタオルのひと」ばかりだったのに!!!


興奮冷めやらぬまま
「三度整わん」と源泉に移動する。


すると、なんと!なんとッッッ!
源泉に浸かっているおばあちゃん、
ショッキングピンクのボディタオル
を 持っている!!!
(最後は頭に巻いてた。かわいい)


さくら色でも、サーモンピンクでもなく
もうそれ紫やん!っていうピンクでもなくて、
ショッキングピンク!!!
それも、ボディタオル!!!
しゃかしゃかした素材のやつ!!!


「タオル……は難しいかなー!小物で!」っていう細部まで拾ってくれてるやん!!!
かーーっ!
憎い演出してくれるぜー父方祖父!!!
祖父もいてくれてるーーー!!!
嬉しいよーーーー!!!


基本ぼっちの子孫(わたし)は
そのようなことをしながら、
「うん、わたしひとりじゃない!」
と確かめているのでありました。
ちなみに最近、変なひと遭遇率は極めて低いです。ご先祖ズの守護靈が守ってくれてるのかもしれません。


いやーそうかー。
守護してくれているご先祖ズからは
ずーーーーっと見られてるんやなあ。


さっきの露天風呂でひとり滝行ごっこしてたのも、
昨日の夜中に何を思ったかコーヒーを飲んじまってバッキバキに目が冴えて眠れなかったことも、
睡眠不足から若干ハイになって、
狂ったように
「ホンモノの恋がやれそーーかーーーい!!!」
「からだをッ夏にしてッッカゲキにッさ行こォッッ!!」
「ハーレムをーつくりたいとかー!そういや昔ーおもおーてたっけなー!」
などと歌っていたことも全部、バレているのだなあ。




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