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陽の照りながら雨の降る

春分。
雨が打ちつけているかと思えば、
ときどき日が差す。風は強風。

ラジオで高校野球の実況を聴きながら
車を走らせる。
お墓参りへ。
妙な天氣なのでてっきり試合はしていないと踏んでいたが、先の試合も滞りなく行われていたようだった。


「虹が出そう」
と 空を見上げるけれど
強い風によって灰色の雲に太陽が隠れてゆく。
雨は降り続けている。
お寺に到着、車を降りる。
自分の吐く息が白いことに氣づいて、
おもしろくなって
何度か「はーっ」と息を吐いた。
この時期にこの寒さ、めずらしい。


「また日差しが隠れる甲子園球場。風もあります」

風が強いので
車の中でお線香に火をつけてから外に出た。
ご先祖ズに手を合わせると
また日が差してきて、
空を見やると
細かい雨が線となって見えた。


先日夢に登場してくれた祖父に話しかけ、
亡くなってからその氣配が濃くなった祖母には
「来ちゃった♡」
と、さながら恋人のように笑いかけた。


祖父母の墓石には鳥のフンがついていて
それを素手で取ろうと手を伸ばすと、
「手でいらわんときさ」と
祖母に言われた。
「でも、うんこついてるで」
「バケツと杓と持って来たらええやろ」
「はいはい」


目上の「人間」相手に
「はいはい」なんて言えば
「ふたつ返事するな」と怒られそうなものだ。
生きてるあいだは口やかましかった祖母だけど
「相手」は死んでからも好き好んでわたし(孫)のことを守ってくれている存在なので、
「はいはい」などと返しても
怒ってこなくなった。超寛容。
強い風がまた吹いた。



お墓で「見えない存在」と会話している。
はたからみればひとりごとを言っているようにしか見えない。
わたしは祖母が亡くなるまで氣づかなかったけど、祖母のことは祖母が肉体を離れてから、
その存在をよりはっきり感じられるようになった。
おかげでわたしはそれまで抱いていた
「死」への観念が変わった。
「状態の変化」にすぎないのだと。
肉体の「死」を迎えても
「魂」は永遠。消えることはない。
だって、《こんなにも》はっきりと祖母はわたしに話しかけてくる。
「お墓に来なくても祖母とは通じる」ので、
お墓参りという行為に意味があるのかないのかは、今のところ、わからないでいる。


ひとしきり手を合わせてから、車に乗りこむ。
つけっぱなしのラジオから熱い実況の声が聴こえる。2アウト満塁でフォアボール、
押し出しになった場面だった。


「学校は江戸時代末期創設の伝統校!!!
野球部創部119年!!!
甲子園初出場!初得点ッッ!!!
歴史に刻みます!!!!!
超満員のアルプスからは大歓声!!!
なおも2アウト満塁ッッッ!!!!」


ぶわわ、と涙が滲んだ。
超満員のアルプススタンドには
70代、80代のOBたちもかけつけているという。
甲子園で若い選手たちが全力で楽しむ姿は、
「光」だと思う。


カウンセラーさんからの助言を胸に、
実家での滞在を「わたし史上初・わずか数分」にとどめて、ラジオを聴きながら帰路につく。

ときおり強い風が吹いて
また大粒の雨がバラバラとフロントガラスを打った。



春分、ということもあって
ふいに何か試したくなり、


「わたしを守護してくれる存在がほんまにいるんなら、虹を見せてほしい。
わたしにわかるように、
めちゃくちゃわかりやすく」


と呟いてみた。


「祖母の存在」
を感じているのは氣のせいではない、とは思うけれど、誰にも証明できないし
わたしが「勝手にそう感じるだけ」じゃないか、と思うことも少なからずある。


太陽はすっかり隠れてしまい、
虹の出る氣配はなくなってしまった。
「まぁね〜そうよね〜」
と 諦めの笑いが出た。
雨は相変わらず降ったりやんだりを繰り返し、そのたびにワイパーを止めたり動かしたりの操作をこまかく変えた。



「きょうここまでの2試合、
勝ったチームはいずれも7得点の試合です」



いま勝っている、「創部119年ではないほうのチーム」が「7得点目」をあげた。


ゆるいカーブの続く山道。
下り坂。


そのとき、驚くべきものが視界に入ってきた。
この雨風の中、歩行者がいる。
まわりは森林。木々に囲われたその道を歩いているのは、たった一人だけ。


その人が差していた傘が、
なんと「虹色」だった⛱🌈


風を受けるためだろう、斜めに傘を差して歩いている。外側も内側も虹色なのが確認できた。
春の嵐。曇天で薄暗く、
ほとんど無彩色の道にあらわれた
目の覚めるような虹色だった。
あれに「氣づくな」というほうが無理がある。


「まさかのそっちーーー!!!?」
と笑いがこみ上げた。
「わかりやすいけど🤣傘かよ!!!」



わたしを守ってくれている存在が、
「虹🌈を、わかりやすいかたちでわたしに見せてくれた」瞬間だった。




「試合終了!!!7-1!!!」

実況の快活な声が車内に響いた。


777🌈



目に見えるものだけがすべてではない。
人間の目に見えるものは、ほんの僅かな範囲にすぎない。


メッセージはそこかしこから届く。
目には見えなくても。わからなくても。
遥か遠くの「アルプス」から
地球を卒業したOBたち(守護存在)が三次元に生きるわたしたちを、見守ってくれている。
雲間を割って、声援が降り注ぐ。
燦々と。光のように。



陽が照りながら、雨が降っていた。




⁝⁞⁝⁞ ☂⁝⁞⁝⁝🌈🌞

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