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冬支度のお昼ごはん

アッというまに秋が深まっていく。もう半袖でいられなくなってきて、夏場は蹴っ飛ばして寝ていたタオルケットを今は大事にかかえていたりする。今年も衣替えという備えが間に合わなかった。ちかごろは季節が駆け足すぎる。

あったまる汁物、とくれば豚汁だ。
豚汁とくればとにかくゴボウ。ゴボウの無い豚汁はどこか間が抜けている。大根。こんにゃく。ネギ、豆腐、油揚げ。いろどりに人参。料理名にもなっている豚肉を適当に。
あとはその辺にあるイモ類をなにか。ジャガイモか、サツマイモか、サトイモか、カボチャでもいい。汁にとろみがつくし、ホクホクの食感がほしいから。
今日のところは頑張ってサトイモでいってみよう。

ずら~っと食材を並べ確認し、鍋の容積を確認する。
豚汁でたった一つだけ注意すべきは具材の量。具だくさんだからつい多めに作りがちで、何日も何日も豚汁が続く羽目になりかねない。7~8種類の野菜が一度に摂れる汁物って、考えてみればすごい料理だなぁ。

総量を見ていくつか食材の分量を減らし、さて、調理に取り掛かろう。

ゴボウ、サトイモはシンクを汚すので真っ先に。ゴボウはたわしでゴシゴシ泥を落とせば皮も一緒に剥けていくから案外らくちん。白っぽい肌が見えたら繊維を断ち切るようにじゃぎんじゃぎんと薄めの斜め切り、水を張ったボウルにさらしておく。
買ってすぐ使うならそんなに固いのはまず出会わないけど、たまにトウがたったり野菜室の隅で乾いてしまったようなのがあって、そういう筋っぽいゴボウはしゅっしゅっとささがきにする。奥歯でギュギュっと噛み締めると木の根っこを食べている気分になる。飲み込みにくいけど嫌いじゃない。

続いてサトイモ、これはかなり厄介だ。油断するとケガをする。特長のぬめりで手が滑るし、きれいに剥いた面にもしゃもしゃと毛がつくし、長持ちしそうな見た目に反してカビやすい。体調次第で肌がかぶれるときさえある。しかしおいしい。悩ましい。
ざりざりと産毛を断つように皮をむき、切れない強さで手で受ける。手を皿に豆腐を切るようなこの技は刃の角度と力加減が難しい。つるっとつかみどころがないから落とさないよう。

サトイモも水にさらしたらホッと一息つける。もう半分できたようなものだから。
こんにゃくをざるにあけて水にさらしつつ、大根人参をいちょう切り。さくさくトントンと小気味よく切れていくのが嬉しく楽しい。ごりごりしたゴボウやつるつるするサトイモを切ったばかりだから扱いやすさに感動する。
鼻歌を歌いながら切り終えまな板の上にこんもり山にしたままでもう鍋に火を入れる。残りのネギや豆腐は後で入れるから、全部切っておくより火の通りが遅いものを炒めていくほうが効率的だ。

最初はこんにゃく。ざるからわしっ!と手づかみで持ち、一口大にちぎってポイポイ鍋へ投下する。
豚肉を先に炒めるレシピをよく見るけれど、私は一番にこんにゃくを炒る。乾煎りすると味が染み込みやすくなるような気がするから。どうせ最後は煮込むのだけど、味染みこんにゃくを最初から食べたいゆえのひと手間だ。

こんにゃくの色付けに入っていたひじきでザラザラする手を洗って鍋に戻り、しゅうしゅう・・・と表面が白っぽくなり水分が飛んだら一度別さらに取り出して、油をしいて豚肉を投入。
豚肉は豚の細切れをよく使う。安いし、煮込むからロースでは固くなりすぎるし、豚バラでは少し脂が多いし、と何回か試した末の私の答え。薄切りの豚バラのレシピが多いのは煮込んでも固すぎず脂がほかの食材に回るからだろう。もちろん好みでロースでもいい。豚肉と好みの根菜類を味噌で煮れば豚汁と威張れるおおらかな料理だ。

ぱちぱちぱち・・・!と景気よく油が跳ね始めピンク色の豚肉が白っぽくなったタイミングで切った野菜をドサドサ入れる。ゴボウ、サトイモ、人参、大根。ぐるりぐるりと木べらで炒め、こころなしか食材がしんなりしたらかぶるくらいの水を入れ沸くまでしばしふたをする。

ッ、ッ、ッ、ッ。鍋の中で食材が震えている音がする。この気配はなんて表現すればいいんだろう?蒸気がゆらぎ、ひっそりとエネルギーが練られているような感覚。エネルギーは少しずつ蓄えられ大きくなり、くつくつ、ぐつぐつ、やがてごぽごぽと吹き上がる。
おお、煮えてきた、煮えてきた。

ふわぁん、真っ白な湯気が立ち昇る。ふたを伝う水蒸気がぽたぽた熱い。
中火に落とした鍋はぱんぱんで、しばしためらったけど木綿豆腐もちぎって入れる。
・・・毎度分量に気を付けているはずなのに、出来上がりはやっぱり鍋いっぱい。

みそをといてまたふたをして、仕上げにネギをちらして出来上がり。
さあ、お昼ごはんが住んだら衣替えだ。