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第168回芥川賞候補作 私的感想「##NEME##」

美砂乃ちゃんのグイグイくる馴れ馴れしさに私は読みながら初めは戸惑った。

美砂乃ちゃんは事務所の中でも売れっ子の方。なのにあまり売れてない部類の主人公に近づく理由って何だろうと?と考えた。

読者目線からも特に雪那に特別な魅力があるとは感じられず、引き続き疑問に思っていたところに
前略プロフィールの件があったところで「あ!」と思った。そして何となく分かった気がした。

美砂乃ちゃんは学校ではイジメられ、親には甘えられず、売れてるからとジャイアンに手揉みしながら近づいてくるスネ夫のようなタイプではない雪那となら、同志として仕事を頑張っていけると考えたのかもしれない、と。
だからこそ仕事に対して、自分とは違う甘く軽い姿勢だと思えた雪那とはもう同士では無くなったと思ったのではないだろうか。

美砂乃ちゃんにとって、前略プロフィールの件がある前の雪那は友達であり同士だったかもしれないが、雪那にとっては改名を考えた辺りからこそが、美砂乃ちゃんを同士に感じたのかもしれない。


そしてこの小説で無視できない問題は「児童ポルノ」についてだろう。
この作品では被写体として10代初め頃に水着で写真を撮られる事についてだけではなく

『そういう写真を撮られていた女の子』であったことの方こそ、主人公を苦しめた。
それによってイジメられ、家庭教師の仕事も失う。

その他にも、母親の問題も読んでいて気になってくるところだ。
idobata会議という5チャンネルか発言小町のようなサイトをいつも見ている母親。
手荒れがするからと、洗い物をしないで惣菜パンを買ってきて置いている。

それが主婦として悪いわけではないが、ジュニアアイドルとしてグラビアも娘にやらせているし、娘より仕事に前向きなはずの母親なのに、その娘のケアは無視なのだろうかと矛盾を感じる。

いくら体質で娘は手荒れをしないとはいえ、グラビアをやらせる子に洗い物をさせ、成長期であり水着撮影のある娘に惣菜パンを食べさせる事は何も思わないのだろうか。

バイトが出来ないのだから、大人になる前に稼がなきゃと焦る美砂乃ちゃんも、大人の犠牲者なのだと思う。

そういう見方をする私なので、アレックスの作者に対する嫌悪感や悪人という目線は薄い。

それ以上に、母親や狭山さんの方が悪に思えてくる。

肌が弱く、赤くなったり痒くなったりする雪那に掻くことはもちろん、気にする事も止めさせようとする狭山さん。
水着を着たくないのに「自分がやりたいと言ったんでしょ」という感じに言う母親。

この母親は雪那に対して「母親」ではなく雪那を人形としての所有物として見ている。なので水着を嫌がる娘に、友達にでも言うように「お腹出てないじゃん」などと言う。

「『ちがう』って言わないで。お父さんみたい。本当にみんなすぐそう言う」
と言う母親はやはり、娘のことなんかより自分なのだろう。

この小説は単に児童ポルノ関連というだけではなく、色々と引きつけられるものだった。
特に私は毒親育ちなので母親の事は目についてしまった。


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