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わたしと彼の平行線思考論。 【#ウミネコ文庫童話応募用】

こちらは、前垢で投稿させて頂いた作品を移行しました。
良かったら、暇つぶしにどうぞ。



 この町には、六つ子ちゃんが住んでいるという事で有名です。今日は、その六つ子ちゃんの物語のひとつをお話しましょう。
 いつも子供達が通っている小学校の一本道の途中に、神社があります。そんな夕暮れ時の出来事です。

《 キュー……ン》
 神社の方から小さな鳴き声が一つ。その声に気がついた風羅ふうらという少女。六つ子の四番目の子です。
 弱々しい途切れた声に急いで、鳴き声がする方向へ足早に向かった。鳥居をくぐって周りを見渡すと鳴き声の主を見つける。その姿を発見した風羅は、直ぐにけ寄りしゃがんだ。
「……子犬だ!」
 横たわっている生後間もない小さな命は呼吸が浅く、赤い舌を出しながら苦しそうな様子。
 目がうつろ状態の子犬は彼女に気づいたのか視線だけ此方へ向けて《キュー…ン》と命の灯火が消えそうな一鳴きをし、静かに目を閉じる。

(え!?……左の後ろ足から血が出ているッ!?)

 元々、白に近い銀毛は全体的に汚れており、左足だけ真っ赤に染まっていた。その傷口をよく見ると、深い為か血が流れ続けている。
 ピクリとも動かない幼き命。
 風羅が直ぐに抱きかかえると手足に力が無く、ぐったりとしていた。徐々に心拍音が小さくなっていく中。
(……どうしようッ!?このままじゃ、この子が死んじゃう!!)
 この非常時に、頭の中が混乱し手足が震える。
「でも……ここにいても、この子は助からないし……。あッ!境内を出て大人に言えば、この子が助かるかもしれない!!」
 この状況の中、少し冷静さを取り戻してきた彼女は急いで鳥居を出た。

「あれ!?……風羅?」

 鳥居を出て左側から、聞き慣れたアルト調の少年の声が耳に入りとっさに振り向く。
「……海里かいり!!どうしたの?こんなところで……。」
「それは、こっちのセリフだよ!
あと、学校から家に帰るのに、この一本道しかないじゃないか……。で、風羅は、何で神社から出てきたの?
夕方の時間帯に、神社に行くなって父さんに言われただろッッ!?」
「……ご、ごめんなさい」
 海里は六つ子の長男であって風羅の兄である。正直な話し、風羅は海里が大の苦手だ。

 彼女にとって……彼は【怖い】の一言である。

 厳しい言葉を吐き、相手を射抜くような鋭い目つきの冷たい印象の彼。自分の事を語らないのでいくら兄弟でも、見えない壁を感じるというのが風羅の本音である。
 彼女の兄は、海里の他に二人いる。彼らは自己表現をしてくれる。例えば、三番目の兄は
「今日のおやつは新商品のチーカマが食べたい」
など言葉にしてくれる。ここで相手の考えを知る事ができる。長年、一つ屋根の下で一緒に過ごしているとしても性格は違うし、考え方も違う。
《君達六つ子だから、相手が何を考えているのか分かるでしょ!》

と周りは身勝手な事を言ってくるから、迷惑な話だ。

 そう……、いくら六つ子でも【個人】なんだ。

 幼い頃は集団行動をしていた。でも時が経つに連れて、一人の時間が生まれ人生の分かれ道ができる。
 そして、それぞれの人生の土台である〈自分の考え方〉ができあがる。だから、言葉を交わさないとお互いの気持ちが分からないままだ。これが風羅の考え方である。
 だけど、海里は違う。たぶん……相手の事を理解しようという考えは無い。先程のような心ない言葉が良い例だ。そんな相手の一部を見た彼女の中で一つの結論が生まれた。

(海里は、私を……拒絶している)

 それから風羅は、彼にだけ気づかれないように今日まで避けている。
 (たぶん……、海里は私の事が嫌いだ。そうでなければ、こんな冷たい言い方はしないもの)
 そう思うほど、彼女の気持ちは仄暗い底なし沼に沈んでいくように落ちていく。
(でも、なんでこんな言い方されなきゃいけないの!?)
 疑問の沼に囚われ抜け出せなくなった、その時。
《キューー……ン》
 今意識を取り戻した小さな命の声。風羅は出口の見えない悩みから解放され、ふと我に返る。今の危機的な状況を思い出した彼女は慌てて海里に、境内での出来事と助けたい事を説明をした。
 すると彼は目を見開き、顔つきが強張る。急に風羅の左手を掴み、無言で走り出した。
 その力強い引力についていけず、とっさに前のめりになる風羅。腕の中にいる子犬を落としそうになり、すぐ右手でしっかりと抱き直す。今でも呼吸が不規則な命。先程より、身体に温かさが無い。
 それでも、生きようと必死に呼吸をしているのが伝わってくる。
「ねぇ!海里ッッ!!どこに行くの!?
待ってッ!私、この子を助けたいの‼︎早く大人の人に助けを求めに行かないと、この子が……死んじゃうよぉッッ!!」
 大声で真剣に伝えても、今だに彼女の手を強く掴み引っ張って走り続ける海里。こちらを振り向く様子が全く無い。

 此方の言葉を一切聞かない相手。
 風羅の今日まで溜まりに溜まった黒い気持ちが、割れた風船のように激しく弾けた。掴まれていた手を勢いよく振り解くと《パァッン!》と乾いた音が広がる。
 振り解けられた海里は、自分が掴んでいた手の感触が急に無くなった事に違和感を感じ、立ち止まる。
 直ぐに慌てて後ろへ振り向いた。

 神社からずっとここまで走ってきた為、汗が全身から吹き出て止まらない二人。心臓の鼓動も激しいまま。今は呼吸をするのに精一杯だ。
 この予想外の状況を把握できていない彼。妹の突然の行動から疑問の風船が大きくなる一方だ。相手の顔を見ると、怒りで射抜くように此方を睨んでいた。
ー 何で、怒っている?という一言が彼の心を縛りつける。
 暫くすると沈黙をしていた風羅がゆっくりと口を開く。
「……もう!やだッッ!!
なんで……話しを聞いてくれないの!?」
張り裂けた心からの声に、この場の空気が震える。
「なんでッ…!いつも私にだけ意地悪な言い方ばかりするの!?海里なんて大ッ嫌いッ!私の事が嫌いなら嫌いって言えば良いでしょッッ!!」

「こんな思いをするなら、アンタと兄弟になんか……なりたくなかったッッ!!」

 張り詰めていた気持ちが爆発した彼女は、大粒の涙がボロボロと滝のように流れる。今まで我慢していた気持ちが、蛇口から勢いよく出た水のように言葉が出て止まらない。
 そんな妹の様子に海里は、無表情ながら困ってしまったのだ。特に、

アンタと兄弟になんか、なりたくなかったッッ!!》
 この一言は、彼の胸の奥深く突き刺さった。突然の家族からの拒絶の言葉に頭の中が真っ白になる。そして目頭が熱くなるのを感じた。
 今でも大粒の涙を流している目の前の妹に、彼自身は涙をこぼさぬように唇を強く噛みグッと堪える。
 やっと呼吸が整い汗も引いた海里。誤解されていると分かった今、ゆっくりと口を開く。
「……俺は風羅の事が……嫌いじゃない!」
 その言葉に風羅の時が止まる。
 思わず「…え?」と、間の抜けた言葉が出てしまう。彼女にとって予想外の言葉だったからだ。

「そんな事より!早く、そいつを診てもらわないとッ!!でも……間に合って良かった。
ほら、大塚のおじさんの家に着いたよ!!」

「…………【大塚動物病院】……?」

「ここ、夕方六時までしか診療していないからさ……。それに、この町で動物病院はココしかないからな」
「……海里。もしかして……!」
「ほら!あと五分で閉まる!!急ぐぞッ!!」
「……あ!うん。待って!」
 診療時間内に間に合った二人は、拾った子犬を無事に治療して貰う事ができました。今は体調が良くなった様子で、彼女の腕の中で抱っこをされて嬉しそうに尻尾を振っている。
 その帰り道、二人に沈黙が流れている。
 先程の件で、気まずいままだ。
 海里は今通っている道の左側にある田んぼを見ながら歩いている。隣にいる風羅は顔を俯いていた。その様子に気がついた子犬は彼女の頰を一舐めし、《キャンッ!》と元気良く一声を発する。
「良かったな。子犬の足の傷を治療して貰えてさ」
 先程より温かみのある声色で話しながら、子犬の頭を一撫でする。その様子を目の当たりし、ふと思う。

(私……もしかしたら、今まで海里の事を誤解してたかもしれない……)

(……あ!思い出した!!昔、お父さんから【夕方は、神様だけが集うつど市場の通り道ができるからね。引き込まれるから絶対に行っちゃダメだよ。】って……言われてた!)
そして、風羅は静かに今までの出来事を振り返る。
(それに、私がこの子犬を助けたいって言ったら、無言だったけど手を引っ張って【動物病院】まで連れて来てくれた……。
嫌っている人に、そこまでするのかな?)

ーーいや、普通はしない。

(どうして……今まで気づかなかったんだろう?海里は私の事を気遣ってくれたのに。
私は……相手を知ろうとしないで傷つけてしまった……)
 今自分の勘違いに気づいた彼女は、血の気が引いていくのを感じた。罪悪感から目の前が真っ暗になる。
 隣で一緒に歩いていた風羅が急に立ち止まり、不思議に思った海里も合わせて止まる。
 今でも俯いている相手。風が優しく通り抜ける。
「……ごめんッ!海里!!」
 突然の悲痛な声に驚き、何事かと思った彼。直ぐに彼女の腕をとっさに掴み、顔を覗き込む。状況が掴めないままの海里は、「何で謝るの?」と素直に質問をする。
「……私、今まで海里に嫌われているかと思って……避けてきたの……」
 泣きそうな表情をしている妹の言葉から事実を知り、再度言葉のナイフが彼の心を一突きする。
「今まで……、ずっと冷たい言い方をしてくるから私の事を、嫌っていると思ってたの。でも今まで、私の事を心配してくれてたんだね……。
ごめんね……私、海里の事を知ろうとしなくてごめんなさい」
 すると、風羅は頭の上に少し重みを感じた。その後、髪の毛をわしゃわしゃと撫でられている感触が広がる。
「うん。風羅の気持ちを聞いた時、正直傷ついた。
 でも……さっきの病院内で考えていたけど、『動物病院に連れて行く』と一言言わなかったから、お前を誤解させたんだろうな……と思った」
 彼の真剣かつ穏やかな声色は続く。
「だから、俺こそごめん……。兄弟だから考えを言わなくても分かるだろうとか勝手に思って甘えてた。
うん……家族でも、ちゃんと言葉にしないといけなかったんだよな……」

 真っ直ぐな言葉に、彼女の中で生まれた罪悪感が霧のように消えていくのを感じた。
「私こそ、さっき酷い事を言ってごめんね……。これからはお互いの気持ちを、ちゃんと言葉にしようね」

 だって……私達は【家族】なんだもの。

 暫く経った先でも、二人は自分の気持ちを伝え合って仲良く日常を送っている。
 これは、すれ違っていた兄弟が仲直りをした、風羅が小学六年生の話しである。
               【了】

                                      


こちらは、ウミネコ制作委員会様のお題作品になります。《対象年齢:小学高学年以上》
初めまして、【ウミネコ制作委員会様】。
今回、【X】で投稿された【童話応募】を偶然知り、興味を持って応募させて頂きました。

今までマイペースに自創作小説をnoteで書かせて頂いてきたので、初のチャレンジ【お題】小説になります。
思いつきで執筆したので、できる限り童話にしようと努力してみたのですが、たぶん……童話とは遠くなっております💦《←すみません🙇‍♀️》


でも、初めての挑戦に楽しかったの一言です😆
今回、ウミネコ文庫様に出会えて本当に良かったなぁと心から感謝感謝です。
この作品が童話とかけ離れている内容でしたら、申し訳ありません。除外して頂いて大丈夫です💦
少しでも参加させて頂き、誠にありがとうございます。


#ウミネコ文庫

余談ですが……、今回は文字数の関係上にて話しはここまでにさせて頂きました。実はこの話には続きがあります。
後日談は別の記事で投稿したいと思います。
出来上がり次第、投稿させて頂きますので機会ありましたら読んであげて下さい。

ありがとうございました。長文失礼しました。


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