夜十時の女

 夜十時ちょうどにドアベルが鳴った。こんな遅くに何事だろうと思いながらドアを開けた。するとドアの後ろに背の低い女が立っていた。知らない女だ。もしかして最近アパートに引っ越してきたのか。しかし女は何も言わずにただそこに立っている。僕はなんだか怖くなって女に呼びかけた。だが女はまるで無反応だ。おかしい。全然動いていない。もしかして死んでるんじゃないか。僕は女の目の前で何度か手を振った。しかしそれでも女は目を見開いたまま全く動かない。死んでいる。やっぱり死んでいる。僕は胸を押さえて屈んだ。猛烈な吐き気が僕を襲う。何故か押されたドアベル、目の前に立っている死体。全く不条理だ。とにかく警察に通報しなくちゃいけない。今すぐ、今すぐ疑われないうちに!だが腰が抜けて立てない!誰か、誰か、僕を立たせてくれ!

 その時近くで男の声がした。男はどうやら僕に向かって謝っているようだった。

「あっ、ドアベル押しちゃってどうもすみません。僕今日引っ越してきたんです。このフィギュア中のものが片付くまでドアにおかしてもらってたんですが、なんか勝手に倒れてベル押しちゃったみたいで……。あのほんとにびっくりさせてごめんなさいね。このフィギュア僕の自作なんですけど人間そっくりってびっくりされるんですよ」

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