ハードボイルドカフェ
全く呆れたもんだ。俺がカフェに入った途端客どもは一斉に端っこに逃げやがった。女は勿論男もだ。だが、まあこの風体なら逃げられても仕方がないのだろう。汚れの染み付いたコート。その下のヨレヨレのスーツ。マスクなしの無精髭に、フケが降りかかった髪。誰だってこんな人間と近づきたくないはずだ。おまけにこの野獣のような鋭い目で睨まれたら……きっと奴らは俺を裏の世界の人間だと思ってるかもしれない。探偵なのかと勘ぐってるかもしれない。社会を全て知りつくした男。自分の知らない世界を全て知ってい