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『竜胆の乙女』を読んでの酷評 ※ネタバレ有り


 単巻でのレビューは初めてである。では初めてなのに酷評とは如何がか、となる。私自身、書いてる中でそう感じている。
 これを書こうと考えたのは次の一点に尽きる。それは今まで読んできたライトノベルの中で最も最悪の気分にさせられたからである。
 「最悪の気分」というのは終始鬱屈としていて虚無しか残らなかっただとか、物語の構成が意味不明で徹底して合わなかったという内容自体の話ではない。一応そういった感情は往々にして抱くもので、個人的に取っている読了ライトノベルの統計を見ると、全体の2割ぐらいは面白くなかったと選別していた。


 では何故この『竜胆の乙女』が最悪だったのか。
 それは「明らかに先行した類似作品がある上で、それが有していた良さを殆ど掻き消してしまっている」と感じた点である。無論パクリがどうこうとは言わない。それを言い出すと、世の中の作品は大半がパクリである。そういった点を指摘されがちなweb小説でも、テンプレ設定の中でどこまで物語を楽しめるかというのが醍醐味であると考えている。
 話を戻す。類似作品のタイトルを挙げると、『この闇と光』である。20年以上前に出版され、私自身かなり気に入っている作品でもある。
 ではこの作品が持つ良さとは何か、『竜胆の乙女』は何を改悪してしまったのかと書きたいが、此処からはネタバレを多分に含む内容となる。
 一応最近の出版物である『竜胆の乙女』には極力配慮し、『この闇と光』については時効と判断して、こちらの作品構造を中心に見ていくこととする。だが余りにもこの二作品は似通っているために『この闇と光』の解説がそのまま『竜胆の乙女』の解説になってしまう恐れが多分に含まれている。

 よって此処から先、両作品のネタバレを見たくない場合はブラウザバックを推奨する。




 




 『この闇と光』は前半と後半で大きく物語構造が変化する仕組みとなっている。前半は盲目のレイア姫と父、「ダフネ」の三者を中心に据えた、幻想小説のような構成である。だが後半、実はそれが全て現代日本の話であったと種明かしされる。この辺りは『竜胆の乙女』の既読者ならば、本作を類似作品と表現したことに頷いてもらえるはずである。
 だが明らかに異なるのは前半の幻想小説的要素を、どう扱っていたのかという点である。
 本作では、以下の三点が前半から後半に繋がるポイントであった。一応整理の意味も含めて書いておく。
 ・ファンタジー世界であるのにカセットテープやテレビが存在し、夏目漱石にドストエフスキーといった固有名詞が存在する点。
 ・レイア姫自身は何者なのか?
 ・上記を踏まえて現実世界の出来事であると仮定した上で、ファンタジー世界の様相を騙る父や「ダフネ」とは何者なのか?

 まず初めの現実世界であったという点。これは『竜胆の乙女』とは異なり、固有名詞を早くから用いることで、どんでん返しの作品であると明確に分かりやすく描写されている。だが、その上でこの状況は一体何なのか?と読者に推理させる構造となっているのだ。
 この辺りはライト層にも満足感を与える仕組みであり、且つ読書好きをも唸らせるという意味で巧みである。
 
 続く後半、実はレイア姫とは長く誘拐されていた男児であったと判明する。そして収容された病院でレイア姫の盲目は治療されたが、そこで彼は父の読み聞かせで味わっていた作中小説内で表現されていた美しさと対比して、目の当たりにした現実の汚さに打ちひしがれるのである。
 これは明らかに『竜胆の乙女』には無かった要素である。即ち、耽美たる幻想小説から現実への急転直下に落胆した読者の感情をそのままレイア姫に自然な形で代弁させることで、前半と後半の連続性を訴えているのである。
 またレイア姫自身の性別が男であった…というのも、多少の驚きとして受け止められることであろう。
 
 そして肝心の父と「ダフネ」とは何者だったのか。これは作中では詳らかには明らかにされない。この人物だろう、恐らくこういった動機だろう、こういった状況だったのだろうというのは何となく示されるのだが、最後になって実は前半部分はレイア姫が事件後に書き上げた小説であったと明かされる。
 
 此処まで読んで読者は様々な感情に囚われる。果たして救出された後のレイア姫は幸福だったのか?前半が小説であったことを踏まえると、誘拐犯とは最後まで一貫してレイア姫の希望であり、尊敬すべき人だったのではないか?そもそも何処から何処までを事実として書き上げていたのか?「この闇と光」とは…?

 少なくとも爽快たる読了とは言えない。何ともいえない気持ち悪さを残している。しかしそれは強烈なもので、読書体験としては十分に満足できるものであった。
 …『竜胆の乙女』はどうだっただろうか?

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