ガールズバンドクライ考察 ルパが「喧嘩」の中で求めているもの


「喧嘩上等」なルパ

 トゲナシトゲアリのベースを担うルパは、他の誰かが「喧嘩」しているのを見たがるキャラクターだ。実際に彼女が、バンドの他の面々が争う様子をどことなく楽しげな様子で眺めている場面は、ガルクラの全編にわたって散見する。その振る舞いは、一種の愉悦を求めるキャラクターと映らなくもない。

ルパ「バンド内喧嘩、上等じゃないですか」

ガールズバンドクライ 第8話 もしも君が泣くならば

 けれども、彼女が「喧嘩上等」を標ぼうするとき、それは必ずしもただ喧嘩を見るのが楽しいから、というだけではないことは明らかだ。彼女の「喧嘩上等」のなかでは、争い以上のなにかが求められている。

 たとえば今引用したガルクラ第8話をその手掛かりとして挙げよう。第8話では、バンドを脱退すると言う桃香と、それに不服を申し立てる仁菜のあいだで「喧嘩」が起こる。サービスエリアで言い争い、果ては桃香が仁菜の胸倉をつかむという事態にまで発展する。その様子を見かねた智は先に車に戻ろうとする。そしてそれをルパは引きとめる。

 注目したいのは智を引きとめるというルパの振る舞いだ。

 ただ争いをそばで見るのが好きなだけなら、智を引きとめたりはしないだろう。むしろ智がいなくなったほうがさらに険悪なムードになるし、争いを見るのに愉悦だけ感じているのなら、なおさら智を行かせてしまったほうがいいような気がしなくもない。けれども、ここでルパは智を引きとめるのだ。なぜ彼女は智を引きとめたのか? そういえば第9話で語られたbeni-shouga時代の諍いにおいても、それに接する彼女はすこしも楽しそうではなかった。

 彼女の「喧嘩上等」とはいったいどのようなものなのだろうか。

誰かと「つながる」ことと「喧嘩」

 

「つながり」を求めるルパ

 次の引用はヒントどころか、もはやほぼ答えのそばにあると言っていい。

智「はあ? なんで歌うのかって?」
ルパ「そうですねぇ。誰かとつながっていられるからでしょうか」

ガールズバンドクライ 第11話 世界の真ん中

 
 ここで語られているバンドをやる動機が、そのまま彼女が智を引きとめた理由にも通じているように思える。つまり、ルパが重要視しているのは「誰かとつながること」だ。

 だとすれば、その「つながり」を断ってしまわないために、彼女は車に戻ろうとする智を引きとめたのだということは想像に難くない。あそこで智を行かせては、バンドメンバー同士の本音のぶつかりあいが不完全なものになってしまう。そう感じたからこそ、ルパは智をあえてひきとめたのだ。ここで「また終わりね」とこぼす智に、ルパは「はじまりですよ」と返す。それが「はじまり」であるためには、智もその場にいなければならなかっただろう。

 また、第9話でbeni-shuogaの仲間割れが回想された際、当時のルパがすこしも愉快そうではなかった理由もここにある。そのときの喧嘩は、誰かとつながるためのものではなかったからだ。

 つまり、「つながり」を求める態度がそのまま、ルパにおいては「喧嘩上等」という姿勢と表裏一体でもある。

 「喧嘩上等」と飄々とした調子で言うルパだけれども、一方で彼女がバンドをやるその動機は「誰かとつながっていられるから」。この2つがどんなふうに両立しているのかを考えると、そこに持ち上がってくるのは家族と死別していることだ。

 家族との「つながり」が唐突に断たれてしまった喪失感が、ルパの根底にはある。「誰かとつながる」というバンドの動機も、「喧嘩上等」という彼女の姿勢も、ここに根差している。

「つながり」のための「喧嘩」

 このように、家族と死別したルパは、誰かと深くつながるためには、今この瞬間において、なあなあで済ましてやり過ごすのではなく、衝突してでも他者と通じ合おうとすべきだと感じている。今思いを伝えられなかったら、次が本当にあるのかわからないかもしれないと、どうやら考えているようなのだ。

 だから第10話でルパは、仁菜に、伝えたいときになってその伝えたい相手がいなくなってしまっていることの辛さを説く。このときの態度は、「喧嘩上等」の精神と同じところに根差している。実際、ここでのルパは、仁菜に父親と喧嘩してこいと促しているに等しい。

 誰かと「つながる」ことへの希求、それこそが、実はルパの「喧嘩上等」というモットーの根底にある。言い換えると、彼女が衝突を欲しているのは、それが、「つながる」ために必要なことだと感じているためだ。

 この「つながり」に対するルパの鋭い感度は、たとえば次の台詞にもあらわれているように思う。

仁菜「なんかさ、楽しいね」
智「なに?」
仁菜「今、みんなで自分たちの曲を作ってるんだよね。それが、もうすぐ誰かのところに届くって思うと」
智「そんなに簡単じゃないわよ」
ルパ「届けたくても、誰も手にしてくれないこともありますから

ガールズバンドクライ 第12話 空がまた暗くなる

 これは一見、自分たちの曲について話しているように見える。けれど、明らかにこの発言には、自分が失った家族、彼らとの「つながり」が断たれてしまったがゆえの孤独感、喪失感が潜んでいる。これは、「つながる」ことを求めているルパだからこその言葉だ。

「喧嘩」を眺めるルパの心情やいかに

 こんなふうに「喧嘩」を求めるルパだけれども、実は自分から喧嘩をすることはほとんどない。思えば智の場合にしても、仁菜の場合にしても、桃香の場合にしても、ルパはその衝突をどちらかと言えば眺めている側だ。

 ルパの特徴は、「喧嘩」を自分ではなく他人に促すところにある。

 ひょっとすると彼女は、自分ができなかった「つながる」ことが、他の誰かによって果たされているのを見ることに、ある種の楽しみを見出しているのかもしれない。そこには、自分の後悔を、他の子たちには味わわせたくないという、もはや親心のような心情もうかがえるような気もする。もっとも、それを見ているのが楽しいというのが本音の大部分なのだろうけれど。

 とはいえ、そうやって他人が「喧嘩」しているのを眺めるルパの表情。それは喧嘩を面白がっていつつも、どこかそういったやさしさをのぞかせているような気もするのだ。


ルパとは別に、以前すばるについてもちょっと書いていました。以下にページがあります。ベースとドラムのこの2人、どちらもトゲトゲのどちらかと言えば潤滑油的な存在だと思うんですけど、それぞれにそのアプローチの仕方に違いがあって、そこが面白いなと感じます。

ガールズバンドクライの記事は以下にまとめてあります。よろしければどうぞ。


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