安和すばるはどんなふうに「嘘つき」なのか? ガルクラ第4,6,11話



はじめに


 ガールズバンドクライのキャラクターたちは、それぞれに特有の鬱屈を抱えているけれども、安和すばるのそれは「嘘つき」であることだ。この「嘘つき」というキャラ付け、一見したところ他メンバーたちと比べて、特徴として弱く映るかもしれない。学校中退やら南アジア系で天涯孤独といった背景を負った他の面々と比べると、崖っぷち具合もさほど深刻ではないように見える。「安」と「和」という苗字が象徴するように、メンバーと衝突するよりはその調停者としての役回りが多いというのも、キャラの弱さという印象に拍車をかける気がしなくもない。

 けれども、よく見てみると彼女の「嘘つき」、なかなか奥が深いように思える。ここではすばるがどんな「嘘つき」なのかを考えたい。それによって、彼女の嘘の「まちがってなさ」の正体に迫れればと思う。

 すばるの最も大きな嘘は、女優である祖母が、彼女を後継者とみなしていること、その示された道にたいしすばる自身が違和感を抱いていることに端を発している。加えて、他人の感情の機微にとっさに気づけてしまう鋭い洞察力が、女優の孫としての天性とあいまって、彼女を「嘘つき」にしてしまっている面もある。これらの嘘のどこに、すばるなりの「まちがっていない」があるのだろうか?

誰かを守るための嘘?

 明らかなことだが、すばるは「嘘つき」ではあるものの、不快な印象をあまり与えない。その理由のひとつは、「嘘つき」であることに彼女自身が悩んでいるからである。周囲の期待する自分と、それにたいし答えはなくとも漠然としたズレを感じているという葛藤は、その年齢の少年少女のように等身大でありのままだ。その「嘘」はかつて(あるいは今も)私たちの嘘でもあった(ある)はずで、だからこそ見る側も共感を抱きやすい。
 
 けれども、彼女の「嘘」が責められるべきものと映らない理由は他にもあると思う。そのひとつは、彼女が嘘をつくのはたいてい、誰かのためであって自分のためではないというところにある。

 例をあげてみよう。すばるが祖母に嘘をつく(第4話)のも、あるいは、1曲音合わせという口実で桃香とbeni-shougaの2人を引きあわせた(第6話)のも、自分のためというより他人のためだ。祖母の場合は自分に期待する彼女を裏切りたくないと同時に、傷つけたくないから。beni-shougaの件は、仁菜の熱意に絆されたから。それから、第7話から第8話にかけて、彼女はコメディリリーフに徹しながらある種の「嘘つき」(というより「演技」かもしれないけれど)の役回りを演じてもいる。ここでも彼女は事を荒立てないための調整役といった役割に徹している。

 すばるの嘘にもいくつか種類があると思うけれど、彼女を特徴づけるのは、こんなふうな「誰かのための嘘」に見える(彼女の嘘が、自分を守るため、周囲を欺くための嘘だったとしたら、そのとき彼女は見る者に今のような印象を与えず、もっと別な物語と描写が要求されただろう)。だとするとそれは誰かを守るための嘘、いわゆる「白い嘘(white lie)」といったたぐいなのだろうか? 彼女は誰かを守るために「嘘つき」なのだろうか?

 「誰かを守るための嘘」だとすると、それは第6話での桃香についた嘘とはすこし食い違ってしまう。そのときの嘘はむしろ、仁菜と桃香のあいだに衝突を招いた。「誰か」を守るためだけなら、もっと違う方法だってあっただろうに、ここでのすばるはあえて「嘘」を桃香に告げることを選んでいる。

すばるのウソとホントウ

 おそらく、この「誰かのため」の嘘つきであるという特徴は、安和すばるにおいて間違いではない。問題は、その「誰かのために」がどんな意味なのかだ。彼女は「嘘つき」として振る舞うことで、いったいなにを守ろうとしているのか。

 その「ウソ」の特質は、次の引用にあらわれていると思う。彼女が、仁菜に自分とおばあちゃんの関係、自分の背景を語る場面での台詞。すばるは、仁菜に自分の「ウソ」の内実を理解してもらおうとしている。

すばる「ただね、私が[役者を]めざしてるって言うと、[おばあちゃんは]笑うんだよね。そのときだけ、本当に笑うんだよね。つくった笑顔じゃなくて」

ガールズバンドクライ 第4話 感謝(驚)([]は補いました)

 ここですばるが守りたいのは、「おばあちゃんのホントウ」だ。そのために彼女はウソをつく。祖母に反抗はしていても、祖母の微笑みを守りたかったのは本音だ。その笑みには祖母の嘘偽りない本当の感情があるから。

 桃香を智とルパに会わせたのも、それは仁菜のホントウを助けたかったからだろう。だからすばるは「嘘つき」って言わないな? と確かめつつ「作戦」と言い張りつつも、「嘘つき」を引き受ける。

 すばるのウソは、「誰かのホントウを守るためのウソ」なのだ。すくなくともそれが彼女がつく「嘘」のなかで、彼女に特徴的なものだ。

 すばるの「まちがってない」のひとつは、ここにあると思う。もちろん彼女には面白がってバンドについていっている側面もある。それが普段の彼女ではある。けれど、「嘘つき」であるときの彼女が、こんなふうに、「誰かのホントウ」を気遣っているように見えるのもたしかだ。ホントウに敏感だからこそ、彼女はウソをつく。

 第11話でも、すばるは「嘘つき」になる。彼女はライブを見てまわってくると言ってバンドメンバーたちと別れるけれども、そうやって離れているあいだに祖母と言葉を交わしていたことはまず間違いないだろう。彼女は祖母の願いと決別して、自分の道を歩もうとする。けれどもその対話があったことをメンバーには明かさない。

 ここでも彼女は仁菜たちにウソをついている。ちょっとしたウソだが、これもまた「誰かのホントウを守るためのウソ」だろう。そしていまその誰かには、すばる自身も含まれている。

 嘘と一口に言っても様々に色があるらしい。真っ赤なものから白いものまで。すばるのウソは何色なんだろう、と考えてみる。


ガールズバンドクライの記事は以下にまとめてあります。そのときの気分や書きたいこととの兼ね合いで色んな書き方がされていますが、よければ。


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