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大腿義足のリハビリ 〜イールディングの習得〜【For 理学療法士】

割引あり

こんにちは😃
理学療法士 兼 イラストレーターの〇っち~です。

みなさんは大腿義足の患者さんのリハビリに携わったことはあるでしょうか?僕はこれまでに10~15症例程度経験しており、経験数は比較的多い方ではないかと思います。

ただ、これはどこの病院・施設でもできるわけではなく、ケースとしては少ないかもしれません。特に、今回取り上げる『イールディング機構』の備わった膝継手を使用するような対象者は更に数が少ないかと思います。

近年は糖尿病や血管障害による高齢者の切断が増加しており、高活動の大腿切断者が対象となるイールディングの習得は文献や教科書でも『触れる程度』でしか取り上げられることはありません。

実際、以前僕が認定理学療法士の切断に関する資料を作成した際にも、対象者が少ないだろうということでイールディングについての話は入れないことになりました。

こうなると、僕のように下肢切断者を数多く見ることができる環境にあり、偉大な先輩方からノウハウを直に教わることができる者は良いですが、
極稀にしか切断患者を担当できず、しかもたまたま事故による受傷等で高活動な若い患者さんを担当することになった場合、どのようにイールディングを教えていくかに悩む方がいるのではないかと思います。

また、大腿切断の当事者においても、youtube等で上がっている動画を見て独自に勉強されている方もいますが、なかなかどこをどうすればうまくできるのか整理し難いのではないかと思います。

そういった方々のお役に立てるのではないかと思い、今回の記事を書くことにしました。

有料記事ではありますが、イールディングの習得過程や要点、練習方法について体系立ててまとめたものはほとんど見かけないということもあるため、関係する方にとっては一見の価値があると思います。


①イールディング機構とは…?

イールディング機構とは、義足に体重をかけることで、適度な油圧抵抗を伴いながら、膝が曲がる機能のことです。この機能によって、急激な膝折れを防ぎ、階段を交互に降りたり、坂道を交互に滑らかに歩けたり、平地を歩くだけではないプラスαの動き得ることができます。

(ottobockのHPより引用)

( ↑ ottobock Geniumの機能説明動画より一部抜粋)

義足歩行で最も注意しなければならないのは転倒です。特に大腿義足では下腿義足と違って自分の膝がありません。そのため、うまく膝継手のコントロールができないと『膝折れ』を起こして転倒してしまいます。

ちなみに、膝継手の立脚期制御は図1のように分類されています。

図1. 膝継手の立脚期制御の分類
(国際標準化機構(International Organization for Standardization;ISO)による)

立脚相制御の中で最も大事なのは股関節伸展による膝継手の『随意制御』であることは間違いないと思います。これは固定膝であろうと一緒です。
『随意制御(=股関節伸展筋力)』を使用することで義足側単脚支持期の安定性は抜群に向上します。
※ただし…ベンチアライメント、スタティックアライメントがしっかりと確保されていることが大前提の話ですよ!!

そして不随意制御の中に、今回取り上げる『イールディング(yeilding)機構』が含まれます。
通常、ロック機構の無い膝継手では、随意制御をかけずに荷重すると膝折れを起こして勢いよく転倒してしまいますし、随意制御をかけたままでは膝が曲がらず足を下り坂や段下に着くことができません。
そのため、階段を降段する場合には2足1段で降りますし、急な坂道は横向きで(義足側を下にして)下ります。

しかし、『イールディング機構』があれば荷重をかけながらゆっくりと膝を曲げることができるため、1足1段での階段降段や急な下り坂を交互に足を出して下ることもできます。

イールディング機構の備わった膝継手の製品(例)は図2に挙げておきます。

図2. イールディング機構のある膝継手(例)

これらの膝継手は、
 イールディングの『掛かり方(=機構、仕組み)』は違いますが、
 イールディングの『掛け方(=動作のコツ)』は一緒です!!
②章、③章で詳しく説明しますね。




②イールディングを十分に掛けるための条件

図2に挙げているものの中でデフォルトスタンスが備わっているかどうかが記載されていたと思います。

デフォルトスタンスとは、基本状態が常に立脚相モードの適度に高い油圧抵抗がかかった状態で,遊脚相モードに移行する条件を満たした場合にのみ油圧抵抗が低くなる設定のこと。

八幡 済彦 他,オットーボック社製立脚電子制御膝継手Geniumの仕組みと使用方法,
日本義肢装具学会誌,36巻(2020)4号

このデフォルトスタンスが備わっているものは、イールディングを掛けようとしなくても、常時イールディングがONの状態にあるため、不意な膝折れを起こすことはありませんし、階段を1足1段で降りたり、急な坂道を下ることもそれなりにはできるでしょう。

しかし、『自分の脚のように義足を使いこなせているか』という観点から見ると、階段降段や下り坂での義足側支持の際のたどたどしさ歩幅の違い健側または義足側への体幹傾斜などが見られていることが多く、十分に使用できているとは言えないと感じることが多いです。

では、イールディングを十分に掛けるための条件とは何なのか!?

それは、
 1. 荷重量(★★★)
 2. 勢い(★★★)
 3. 荷重線(姿勢、アライメント)(★★)
がいい状態で実行できているかによります。
※(★)の数は重要度です。特に1,2が重要だと思います。(個人的な見解ですが…)

図3. イールディング機構のイメージ

イールディングの掛かり方は図3のように『水の入った注射器を押す時の抵抗感』をイメージすると分かりやすいと思います。

ちなみに、コンピュータ制御でデフォルトスタンス設定の膝継手では注射器の先の噴出口径を状況に応じて自動で狭くしたり広くしたりして抵抗を変えています。

図4. イールディング機構の掛かり方の違い(勢い、荷重量の点から)

図4のように水をいっぱいに入れた注射器を押す際、条件①のように勢いよく強く押すと強く抵抗が掛かります。しかし、条件②のようにゆっくりと押すと抵抗はほとんど掛かりませんよね。

イールディングを掛ける際には、怖がって恐る恐る荷重したり、しっかりと荷重がかけられていない十分な抵抗は掛かりません


図5. イールディング機構の掛かり方の違い(勢い、アライメントの点から)

次に図5のように、注射器の押し方は同じように勢いよく押すとしても、条件①のように入っている水の量が多いと抵抗が強くかかります(=強く抵抗が掛かっている時間が長い)が、条件②のように水が少ないと抵抗がほとんど掛かりません(=強く抵抗が掛かっている時間が短い)。

イールディングを掛ける際には、怖がって恐る恐る義足を接地しようとして、十分に膝継手が伸展していない状態で荷重する十分な抵抗は掛かりません




③イールディングの習得過程

イールディングを十分に掛けるための条件を確認したところで、ここからは実際にどのような過程を踏んでイールディングを習得していくのかを一緒に確認していきましょう!

この過程は私がイールディングの指導をする中で「こうすると習得が早く、且つ上手に使いこなすことができるな」と思ったものになります。
一般化されていない分野だからこそ、人によっては違う考え方をされている方もいるかもしれませんが、その点は悪しからずご了承ください。
むしろ、「私はこういう手順や考え方で指導していってるよ」というのがあればコメントで教えて頂けると嬉しいです。

それでは参りましょう!!

 ㋐ 平行棒内でイールディングが掛かる感覚を経験する

図6. 平行棒内でイールディングが掛かる感覚を経験する

方法:2~3歩助走して健側で軽く前方へ飛び、
   義足側の踵を思いっきり床に突き、座り込むようにする。

まずは図6のように、平行棒内で安全を確保した中で、イールディングが掛かる感覚を体験してもらいます。

イールディング練習をするような時期には歩行はもう既に自立しているかと思います。そうなると『随意制御』が身体にしみついて、義足を接地すると自然に随意制御をかけるようになっているものです。
『荷重する際に随意制御をかけない』のは恐怖心を伴いますし、イールディングの「ジワっと曲がる感じ」をまずは知らないことには段差や階段で使用することは難しいかと思います。

ここでは、1. 荷重量(★★★)、2. 勢い(★★★)を意識して行うようにして下さい。



 ㋑ 15㎝程度の階段・段差1段を利用し、イールディングがかかる感覚・姿勢を体験・獲得する

図7. 15㎝程度の段差を1段利用し、イールディングがかかる感覚・姿勢を体験・獲得する

次に図7のように1段だけでイールディングを掛ける練習をしていきます。
評価ポイントは以下の通りです。

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