私の好きな物語

私が一番好きな物語は星の王子様です。初めて読んだ時に衝撃を受けたと言うより、長い時間をかけてじんわりと染み込んできたイメージです。

確か初めて読んだのは、母が持っていた文庫本でした。今はもうない生家の、寝室の背の高い棚の一番上の奥に詰め込まれていたうちの一冊だったと思います。いつ買ったのかも知らない、埃をかぶった本でした。

星の王子様と言う作品があるのは知っていましたが、ちゃんと読んだことはないなと思って軽く読みました。その時の感想は覚えていませんし、どこへやったのかもわかりません。でも次に星の王子様を手に取ったのは大学だったと思います。古本屋で装丁が可愛くて書いました。100円くらいで買えたんです。パケ買いですね。

こちらになります。線が金加工で優しくて綺麗で、とても好きです。

それを読んで、とても共感できるな、と思いました。最初の感想を覚えていないとは思えないほど気に入りました。あの本には本当のことしか書いてませんでした。

私が好きだと思ったのはどれも月並みな、有名な部分ばかりです。狐の言葉、たくさんの薔薇を見て王子様が知った気持ち。五億の鈴、井戸、そしてウワバミと前書き。地球に行ってからの物語が好きなんですね。

その中からあえて一番を選ぶなら「五億の鈴」です。

王子様が「ぼく」にあげた贈り物。それは私たちも誰かから常にもらっているものではないでしょうか。

私が大学で一人暮らしをしていた頃です。夜に一人で外にいると、とても寂しく感じました。そんな時周囲の街を見渡すと、大体あの辺にあの子のバイト先があるな、家があるな、って思うんです。

周辺には同じように一人暮らしをしている子たちがたくさん住んでいましたから当然です。あのアパートにもうちの大学の誰かがいて、きっとあそこにも、と思っていると、全然寂しく感じなかったのです。

23時ごろ、まだあの子のバイト先はやってるな、とか思うと、一人ぼっちの深夜が全然寂しいものじゃない気がするのです。その子がその日にシフトに入っているかも分からないのに。シュレディンガーの猫と同じです。

そして卒業した今はみんなが散らばっていった日本中全部が「誰かのいる場所」になりました。あの地域にはあの子が、あの地域にはあの子の実家が。ニュースで見るたびに、誌面で見かけるたびに、私は誰かのことを思い出します。

同級生のほとんどは、もう会うことはないのでしょう。その子がいつか亡くなっていても、私が知ることは一生ないのでしょう。

だから私は私が死ぬまで「そういえば、あの子は今どうしているのだろう」と、ふと思い返すのかもしれません。

「五億の鈴」ってそういうことなのかなと思います。

「五億の鈴」をもらった人は、永遠に心に孤独ではないものをもらうのです。本当に贈り物ですね。

昨年初めて「星の王子様ミュージアム」に行きました。ちょうど25周年のイベントをしていてラッキーでした。

私にとってはディズニーに匹敵する夢の国。冬でしたので残念ながらバラ園は見ることができませんでしたが、いつかまた行ってみたいものです。


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