ブラック企業を診断書無しで鬱退職した「どしたん話きこか」系上司の話
2020年に広告代理店に入社して4年、自身の無能さによる虚無感と萎縮と上司からの圧を感じながら仕事をしてきた。広告代理店というのは単に広告のシナリオを書いていればいいだけではなく、これは日本語でいいだろと思われるようなカタカナのビジネス用語をドヤ顏で駆使してミーティングに臨んだり動画編集から広告の効果測定からモデルの選定、撮影、時々発生する飲み会での負けシャン(テキでない分まだ大人である)など多岐にわたる業務内容をそつなくこなして生きていかなければいけないことをADHD由来の逆コナン状態である私は全く理解していなかった。あと私の親は一応フリーランスの広告屋であったり、弟も漫画を描いて生計を立てたりしているのだが、その辺の美術センスを丸ごと母ちゃんの腹のなかに置いてきたというのもかなり終わっている要素だったといえよう。
そんな中、夫の勤務している会社がどう考えても私以上の無能の集まりであり、それ故の離職率の高さから慢性的な人材不足であるということを知った。広告代理店みたいにマルチタスク柱と化す必要もなく、業務内容が基本ルーティンであること、私のようなひまわり学級でも萎縮せずのびのび働ける環境であるのではないかと、「発達障害のガキを無理くり普通級にブチ込む母親」の逆バージョンみたいな感じで自ら泥沼にハマりにいったのが私の転職失敗のきっかけである。
その泥沼を更に底なしの肥溜めへと変貌させたのは私が配属された課の主任者であった。
夫は該当企業で5年ほどアルバイトをしていたため、家に帰ってくると逐一サンリオオタクみたいなノリで社内キャラクター相関説明をかましてくるのだが、夫から見たかの肥溜主任の感想としては「ちいかわが好きな50過ぎの独身の腰の低いおじさん」というものであった。従って私が当社に面接する際にもさぞ縫いぐるみのような癒し系小太りおぢが登場するものかと思っていたのだがどうしてどうして、思っていたよりずっと若く見えるし既婚者の私からしても充分にイケメンの部類に入ると推測できる男性であった。前髪とかもなんかこう…大学生がよくやる感じの半分斜め、半分マッシュみたいなやつだし、マスクは黒だし、未だにウィンドウズ2000を使用しているタイプの地獄レトロ企業の社員のくせに「ジレ」とかを着て面接に臨んできたし、まぁ、今でもおモテにはなるのだろうが若い頃は更に女いけたタイプなのだろう、そのあたりの自認がまだまだお若いという感じで第一印象としてはかなり「いてぇジジイだな」と感じてしまったことも否定できない。まぁ、実際異性をおもな対象としてムードーメーカーの役割を果たしていたこともあり、スキル面ではおいておくとしても、上席としてはかなり使いやすい人だと感じていた。
また、元のツラ及び外面の良さも相俟って取引先(主に後期高齢者)に擦り寄るのが非常に得意な男性であったこと、珍しく在職歴も長かったことからそれなりに頼りにしていたのだが、なんかある日、飛んだ。
該当企業はブラック企業なので当然社員全員がリソースオーバーである。その中でも上席はかなりタスクを抱え込んでいたうえ他人に業務を振るということが基本的にできず(能力・性格の両方の部類で)、更にジジイであったため業務進捗もかなりアナログな方法で進めていたようなのだ。更に何故か残業代も発生していなかったことから、基本彼の目はアンナチュラルの高瀬文人ばりに死んでいたのだが女と会話するときはそれなりにギラついていたので誰も助けてやることはできなかった(というより彼のタスク状況を知っているのは部下しかおらず他部署の上席にケアを求めることは実質不可能な状態だった)
とはいえフライハイ自体はブラック企業にままあることだと思うが、その主任の退職方法はなかなかアクロバティックというか、逆にある意味生真面目さを感じさせる側面もなくもないというか、ある日突然部下を全員集めたかと思うと「昨日はじめて心療内科にかかりましたところ、ドクターストップと相成りましたため本日付けで休職いたします」と言うのである。
心療内科古参、ゆうきゆう先生の後方彼女ヅラでお馴染み私としては見逃せないところである。こちとら眠剤中毒限界界隈すぎてガチでダルクを検討している身だ。メンクリ初診でドクターストップがかかるような可能性が発生するとすれば即日檻のついた病院にぶち込まれてもおかしくないし、私としても傷病手当等の心配をして「診断書とかは……?」と訊いてみたのだが「そんなものを発行するまでもなく、ドクターストップです」と何かのアスリートみたいな返事が返っていたので何も言えなかった。心療内科なのに。その上席が誰に振ることもなく抱え込んでいた仕事のおよそ半数が入社2ヶ月の私に降りかかってきたことが理由となり私も退職に追い込まれざるを得なかったわけである。まじで一切終わりが見えなかった。仕事の。
心療内科とかあんまり関係ない健常者諸兄にうまく伝わるかどうか不安ではあるが、心療内科初手で診断書をもらうこともなく即日ドクターストップという言い訳はなかなか基礎知識に欠けすぎていておもしれぇなあというか、逆にそんな知識を持ち合わせていた私の方がメンヘラ異常者なんだろうかとか、思ったり、したところで、彼の前職は鳶だったということを知った。別に私も夜の仕事のなかでもかなりジジイのアナル等を舐める系のやつを数年続けていたので職業の貴賎とかを論じるつもりはないが、なんとなく、そういうメンクリ的なのと無縁の世界に身をおいているとこんな奇抜な退職方法も思いつくのだなと思うとかえってちょっとニヤけてしまうというか、それなのに失踪とか飛ぶとかしないでドクターストップなどというもっともらしい単語を使用してくるあたりとか、申し訳ないが今思うとかなり面白いことものを見たと述懐できる余裕くらいはできた。
もちろん診断書もないので傷病手当ももらっていないらしい。もったいな。
知らんことは知らんことでしょうがないので「無知は罪」という言葉に嫌悪感を抱いている私であったが、ジジイババアになったらせめて行政関係のそういうやつだけでも基礎知識として入れておいた方がいいものなのだなと勉強になった顛末であった。
ちなみにちいかわ好きは若い女にモテたいが故のフェイクだったようである。
ちいかわでいけるという発想自体が悲しいかなジジイというか、今日日ちいかわで盛り上が(るふりをしてくれ)るのはソープランドの30オーバーのチャンネーくらいだと思う。ガチの若い女いきてぇんであればニャオハくらい押さえておけよ。悲しいな。悲しい話であった。