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真正面に変態。
十年ほど前。
私は爆裂に猛暑だった名古屋にいました。
仕事が少し早く終わった、夕方。
ぎゅうぎゅうに人を詰めた電車に乗り込み、
帰路についていました。
運良く座ることができた私。
その日の気温はうだるような40℃。
満員電車の嫌な湿度に、
息苦しさを感じます。
~
ふと私は顔を上げると、
目の前には120kgありそうな初老の男性が、
大粒の汗を流しながら立っていました。
シャツにネクタイ、スラックスのいで立ち。
いかにも会社帰りの様子。
彼は小声でぶつぶつと、
「はぁっついなぁ~」
「はぁっついなぁ~」
そう繰り返していました。
![](https://assets.st-note.com/img/1700622505628-YTFphUiCIL.png?width=800)
私は彼のはち切れそうなお腹を
ぼんやりと見つめながら、
その暑さと圧迫感を辛抱していました。
何となく、
その男性をちらりと上目で見上げてみます。
そりゃ暑いですよね。
ネクタイを外している途中でした。
そして、
外したものを鞄に入れると見せかけて、
何故かそのまま地面へ。
(?)
これが最初の違和感でした。
(拾いましょうか?…)
そう言おうとした束の間。
「ぶるるん。」
男性はおもむろにシャツを脱いだかと思うと、
豊満な上半身(裸)を露わにしました。
シャツはそのまま地面へ。
(!?)
周囲の視線は釘付け。
一気に緊張感の高まる車内。
ざわざわ…
私は暑さで朦朧としながら、
(タンクトップならセーフだと思うけど…)
(裸はアウトだよなぁ…)
(海やキャンプ場なら良いと思うけど…)
(いや、この暑さだから全てをアウトドアとして、認識したんじゃないのかな?)
(いや、ダメよね…)
![](https://assets.st-note.com/img/1700793555740-kkOfCe47F0.jpg?width=800)
巨漢半裸のプレッシャーが、
周囲の人々を円状に押しやります。
私は真正面の座席。
圧と背もたれに挟まれ完全に逃げ遅れました。
おじさんの不審な挙動は止まりません。
スチャリ…
時すでにお寿司。
全力で目線を下げていた私の目に移りこんだのは、
地面に着地する、
緩んだベルトとたわんだズボン。
次の瞬間にはもう、
すっぽんぽん
ブリーフおじさんが完成していました。
おじさんは未だに繰り返しています。
「はぁっついなぁ~」
「はぁっついなぁ~」
全てが嫌になったのでしょうか。
私も段々嫌になってきました。
ライオンの檻に入れられた気分です。
地面に横たわる
脱ぎ捨てられた、衣類達…
もう残るはブリーフだけ。
これはアルマゲドンも時間の問題。
ファサリ…
とうとう最後の要塞も簡単に崩れ落ちました。
今までありがとう、
地球滅亡です。
![](https://assets.st-note.com/img/1700963804306-Z91tiZNiV3.jpg?width=800)
~
吊革に掴まる、
ふる珍のおっさん。
その光景はシュールなのか恐怖なのか。
私は目の前の現実が信じられませんでした。
「はぁっついなぁ~」
「はぁっついなぁ~」
おじさんと私の距離は50cm。
遠くから見ればニコイチです。
私の汗は冷え、
身体はガチガチに固まっていました。
周囲の人はどう見ているのだろうか。
次は私の番なのだろうか…。
次は私も脱いだほうがまとまりが良いのだろうか…。
張り詰めた空気の中、
私の頭も段々おかしくなっていた頃。
ようやく駅員さんが二人駆けつけてくれました。
両肩を抑えられながら、連れていかれる裸のおっさん。
事情聴取が聞こえてきます。
「あの…はぁつかったもんで…」
そうか。
ため息が混じって
「"あ"」つかったが
「"はぁ"」つかったに聞こえたのか。
色々な汗が滲んだ
そんな夏の日。
完。
あとがき
特に何もされたわけではないですが、
何かされたことには違いありません。
駅員さんに、
「えっと…君は?」
と聞かれたのはどういう意味だったのでしょうか。
そのあと何故か私の周りにも円状に
人が寄ってきませんでした。泣
季節限らず、不審者にはくれぐれも
お気を付けくださいね。
![](https://assets.st-note.com/img/1700795181830-NTlqfay9cd.jpg?width=800)
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