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Photo by
mako_makkonen
君に贈るランキング(SS)
「元気にしてるかな、5列目の子」
俺は鏡の前の相方に声をかけた。
やつは褌を巻く手も止めず「さぁね」と答えた。
小劇場の風景を思い出すと、必ず彼女の姿もそこにある。決まって舞台から5列目の席で俺達の漫才を熱心に見ていた、あの子。
思えば漫才なんて、しばらくしていない。
事務所の方針で俺達は「ヨゴレ芸人」になったのだ。
特にボケの相方は、熱湯風呂から女優の楽屋訪問まで、過激な仕事をやらされてきた。
夢見たテレビスターになれたのに、俺はあの頃に焦がれていた。
「おめでとう」
ある日、半笑いの先輩芸人に雑誌を渡された。
おどけた相方の写真と「抱かれたくない男ランキング」の大見出し。やつは放心していたかと思うと、雑誌を抱いてむせび泣いた。
翌日、相方が結婚を発表した。
相方のプロポーズに「5列目の子」は「ヨゴレの1番になるまで待ってる」と返したそうで。
約束が果たされるまで7年かかった。
「…せめて言えよ」
吐き出した紫煙はいつまでも漂っていた。
(410字)
こちらの企画に参加させていただきました!
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