絵は言葉よりも雄弁だ。 その造形や色彩は、全人類の共通認識を超越して個人に届く。あやふやな分、届く人には凄まじい威力になる。 『お姉さんは、絵を描いているのですね』 それは、彼女においても同じことのようだった。 常に宙を見つめて揺蕩うその瞳は、わずかな光を感じる程度なのだという。 『はい……もしかして、匂いますか?』 数週間アトリエに籠っていた私には、画材道具のシンナー臭がこびりついているようだった。 私たちは、とある県民会館で出会った。 私はそこで開催された美術
化粧なんて、馬鹿がするものだ。 「窪谷! またお前は……!」 朝八時の教室に、怒号が響き渡る。 紅色のリップクリームをつけて登校した窪谷さんが、また怒られた。 少し前にもみんなの前でつけまつげを剥ぎ取られたばかりなのに、懲りない人だ。その前は茶髪に染めてきて、黒いスプレーを掛けられていた。あれは人権的に問題がありそうだったけれど、校則を守らない生徒は人間ではないのかもしれなかった。他でもない先生の態度が、そう言っていたのだ。 窪谷さんの唇が雑に拭われた後、授業中。
朝テレビのスイッチを入れると、ニュースキャスターが「おはようございます。世界の終わりまであと七日になりました」と言う。 歯を磨き終えて、手帳を開く。凄まじい情報量に目が眩んだ。 「ぎりぎり、終わるかな……」 若干の不安を、長めの瞬きで振り払う。 私たちが住む星がそろそろ寿命らしいと知ったのは、五年も前のことだった。星の記憶領域の圧迫やパーツの劣化が原因とのことで、既に近隣の星に引っ越した人も多い。 実際、私が住んでいる地域にはほとんど人の気配が無かったし、五年前は参拝
まるで棺桶のようだ。この長方形の箱に積まれて僕たちは、息を潜めて流れに耐えている。 つり革に吊られるように項垂れる人。椅子にくっついたように固くなっている人。眠気、昨日のストレスと新鮮な憂鬱。朝七時の電車は、そんなもので満たされていた。 息苦しくて、マスクの顎を少し浮かせて吸い込む。 ……憂鬱だ。 深呼吸では解決できないこともある。 根性論も責任感も無視して、精神は肉体に作用する。足が重たいのは、死んでしまいたいのは病気のせいなんかじゃなくて、自分の価値観の問題な
生きていると時には、死にたいと思う日もあると思います。 その出来事が状況を作って、環境に定着して、 気付けば死にたい、が死にそう、になって、 知らない間に電車を待つ足が黄色い点字ブロックを越えようとして、 吸い込まれるみたいな感覚を、夢見心地で追い返す。 それを続けていれば、次は体が動かなくなります。 ここでようやく社会に作用して、 だからもっと悪くなる。 大人でもいじめはする。 社会に出て一番の衝撃がそれでした。 あらゆる方法でミスが無いことを確認したエ