見出し画像

#70 データ型小論文 問題と解答例④「日本における原発の歴史と認識」

次の資料を読み、あとの問いに答えなさい。

[資料1]昔の理科教材

 以下の文章とグラフは『原子力ワールド』という本の1ページ目に掲載されているものです。『原子力ワールド』は、2010年に文部科学省と経済産業省(資源エネルギー庁)とによって作成され、全国の中学校に配布された理科の教材です。ただし2011年に回収され廃棄されたため、現在は存在しません。 

はじめに

●なぜ原子力発電のことが話題になるのだろう?

「原子力発電」という言葉を聞いて、みなさんはどんなイメージを持ちますか? 新聞やテレビのニュースで見たことがある人、過去の事故の話や発電所が地震で停止したことなどを聞いたことがある人もいると思います。一方で「発電する時に二酸化炭素を出さず、地球温暖化対策に重要な役割」、「増え続ける発展途上国の消費電力をまかなう原子力発電」など、原子力発電の持つメリットを取り上げるケースも増えています。原子力発電をふくめた色々な発電方法にはそれぞれメリットやデメリットがあり、原子力発電に対する人々の考え方もさまざまですが、私たちが使っている電気の約3 割は原子力発電によって作られているという現実があります。いずれにしても、原子力発電が私たちの毎日の生活や地球環境問題に深く関係していることだけは確かなようです。 

Q1. 今後、日本の原子力発電について、どのように考えますか?

Q2. 日本の原子力発電について、どのように感じていますか?

出所:内閣府「原子力に関する特別世論調査」(調査期間)2009年10月15日~25日/(調査対象)全国の20歳以上の者3,000名

[資料2]今の日本国民の原子力発電に対する姿勢

 以下のグラフは2019年度に日本原子力文化財団によって行われた「原子力に関する世論調査」の一部です。 

●原子力に対する態度(原子力発電の利用)

問8 今後日本は、原子力発電をどのように利用していけばよいと思いますか。あなたの考えに近いものをお選びください。(〇は1つだけ)

A 原子力発電を増やしていくべきだ(増加)
B 東日本大震災以前の原子力発電の状況を維持していくべきだ(維持)
C 原子力発電をしばらく利用するが、徐々に廃止していくべきだ(徐々に廃止)
D 原子力発電は即時、廃止すべきだ(即時廃止)
E その他 
F わからない
G あてはまるものはない

[資料3]日本における原子力による発電量の推移

 以下のグラフは経済産業省(資源エネルギー庁)「エネルギー白書2020」のデータをもとに作成したグラフです。

[資料4]2020年における世界の発電方法の割合

 以下の表は国際エネルギー機関のデータをもとに作成した表です。

問1 現在の中学3年生が生まれた時の日本は、今(2020年)と比べると、何倍くらい原子力発電を行なっていたか。次の選択肢の中から正しいものを1つ選び、記号で答えなさい。
ア 1.24倍
イ 3.44倍
ウ 5.17倍
エ 7.75倍
オ 15.50倍

問2 日本は、国の方針としても国民の意識においても原子力に対する考え方が大きく変わりました。そのきっかけとなったのは何でしょう。次の選択肢の中から正しいものを1つ選び、記号で答えなさい。
ア スマートフォンの普及
イ 東日本大震災
ウ 人工知能によるディープラーニングの成功
エ オリンピック招致
オ スマートシティ構想

問3 原子力発電を巡り2010年頃の日本にはどのような様子がうかがえたか。次の選択肢の中から最も適切なものを1つ選び、記号で答えなさい。
ア 国民は割と楽観的に原子力発電の危険性を考えていたが、国はそれを非常に重く受け止め、少しでも改善したい様子がうかがえた。
イ 国民感情からしたら原子力発電は絶対に稼働させてはならないものと考えられていたし、国の方針としても原子力発電は段階的に縮小する様子がうかがえた。
ウ 国民の大多数は原子力発電の安全性も危険性もわかっていなかったが、国の方針としてはとにかく利益を追求したい様子がうかがえた。
エ 国民の一部は原子力発電に対してどちらかと言えば安心であると考えていたが、国の方針としてはそのイメージをどうにか変えようとする様子がうかがえた。
オ 国民意識においては原子力発電への不安があることを認めながらも、国の方針としては原子力発電を維持・推進したい様子がうかがえる。

問4 次の文章の空欄Xに入る言葉を漢字2字で答えなさい。
現在(2020年)の日本の原子力発電の稼働状況は世界の一部の国々と比べると( X )的に低いと言える。しかし、それはあくまでも( X )的な判断であり、そのため比較対象や比較する時代が変われば、そうとも言えない場合がある。
ア 普遍
イ 暫定
ウ 相対
エ 絶対
オ 恒常

問5 資料から読み取れる内容として明確に不適切なものを次の選択肢の中から1つ選び、記号で答えなさい。
ア 現代の日本では主に石炭や石油、ガスなどの火力発電によってエネルギーを生み出している。
イ 現代の日本には原子力発電を推進する民意が国民の過半数ほどの割合で見て取れる。
ウ 今後の日本には自然エネルギーを今以上に開発し普及していく必要がある。
エ 日本には過去と現在とで原子力発電に対する利用と認識にかなり大きな違いがある。
オ 現代の日本では国民の過半数が原子力発電推進に反対である。

問6 資料1~5から読み取れる日本の原発を巡る問題について、600字以内であなたの意見を書きなさい。

解答

問1【正解】
エ 7.75倍

問2【正解】
イ 東日本大震災

問3【正解】
オ 国民意識においては原子力発電への不安があることを認めながらも、国の方針としては原子力発電を維持・推進したい様子がうかがえる。

問4【正解】
ウ 相対

問5【正解】
イ 現代の日本には原子力発電を推進する民意が国民の過半数ほどの割合で見て取れる。

問6(解答例)
 日本は震災を契機に原発廃止の世論が形成されている。しかし、それがグローバルスタンダードであるとは限らない。例えば、フランスやスウェーデンは二酸化炭素が出る化石燃料の使用が少ない。代わりに原発の利用が多い。一方、日本とイタリアは原発の利用は少ないが、化石燃料の使用が多い。要するに「自然の保全」を優先する国と「人間の安全」を優先する国とがあるのだ。
 どちらが正しいのかは簡単には言えない。しかし、日本の世論形成の過程には問題がある。日本は戦争や震災によって原子力の被害が出た、世界でも稀な国である。だから、感情的に原発廃止の世論が形成されるのは仕方のないことかもしれない。しかし、原発を巡る問題はトレードオフの構造を持つ。何かを得る代わりに何かを失う仕組みとなっている。「人間の安全」と「自然の保全」の両方は保持できない。
 だから、各国それぞれに政治的な決断が求められる。議論を通して合意形成を図る必要がある。しかし、日本の政治・メディア・国民にはトレードオフの発想に基づく議論がなされているようには見えない。少なくとも世界情勢を鑑みた上での世論ではない。日本の世論は感情論や理想論のような形になりがちだ。これは是正されるべきである。これは責任ある世論とは言えない。何を選択するにせよ、広い視野と深い思慮が必要だ。政治・メディア・国民が一体となって、もっと活発で慎重な議論がなされるべきであろう。(595字)

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?