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#65 データ型小論文の注意点(解説)

【部分(ミクロ)と全体(マクロ)の把握】

 表やグラフはたった1つの数字で構成されることはありません。必ず複数の数字で構成されます。ですので、それぞれの数字を比較検討することが求められます。そうして表やグラフの全体像が見えてきます。それと同時に重要なポイント(要点)を把握する必要もあります。ですので、データの読み取りには部分から全体を把握し、全体を把握しながら部分を把握するような姿勢が必要です。

【事実(fact)と意見(opinion)の区別】

 当たり前な話ですが、「事実」(fact)と「意見」(opinion)は違います。事実とは実際に起った出来事や事柄のことです。意見とは何らかの根拠や理由に基づいて作られた個人の考えや主張のことです。意見を作る際の根拠や理由にはできるだけ客観性や社会性があったほうが良いです。なぜなら、説得力が上がるからです。感情や印象を根拠にして意見を作っても説得力はありません。ですので、意見を作る際には、客観的・社会的な事実を根拠にしたほうが良いです。それが事実と意見の関係性です。
 ですので、意見には事実が含まれる場合が多いです。ただし、データを読み解く際には、事実と意見を区別する思考を持つ必要があります。
 例えば、日本の男女の平均年収に関するデータがあったとします。「男性の平均年収は540万円/女性の平均年収は296万円」というデータがあったとします。そうすると、読み取れる事実は「男女の年収には格差がある」というものです。もしこれを「日本には男女差別が存在する」としてした場合は意見となります。「格差」と「差別」には同じ漢字が見受けられますが、これらは似て非なるものです。「格差」は上下を表す状態であるのに対し、「差別」は改善されるべき不遇な状況を指します。「改善されるべき」という感覚は事実に基づいた人々の解釈です。そのため、格差は事実を表し、差別は意見を構築する要素となります。
 このように事実と意見は重複関係にあります。しかし、データを読み取る場合は、事実の理解が第一のステップです。その事実をどう解釈するかが意見となり、これが第二のステップです。手続きを明確に意識することで、データの読み取りはより正確なものとなります。ですので、事実(fact)と意見(opinion)の区別を的確にできるようになりましょう。

 以下のA・Bはどちらも同じ数値を表しているグラフです。ともに日本の「相対的貧困率」と「子どもの貧困率」の推移を表しているデータです。ただ、A・Bの異なる点は目盛りの数値だけです。貧困率を表す数字自体はA・Bともに同じです。

 Aのほうだと貧困率はあまり変化していないように見えます。しかし、Bのほうでは貧困率が上昇していることがわかります(またBのほうだと2012年に1度「子どもの貧困率」が「相対的貧困率」を上回った瞬間を見て取ることができます)。Aのグラフではあまり深刻さが伝わってきません。しかし、Bのほうでは日本の貧困問題の深刻さが伝わってきます。
 すなわち、データの作り方が見せ方によって、データの示す内容が変化してしまう可能性(危険性)があります。同じ事実を表していても、見せ方(見方)や読ませ方(読み方)が変われば、適切に事実を把握できないこともあります。そのためにも、適切にデータを読み解く能力は重要です。

 グラフAは「アイスクリームの売上」を表しています。グラフBは「水難事故の件数」を表しています。もし、グラフCがなく、AとBとが並べられていたら、皆さんはどう思いますか? もしかしたら、こんな風に考える人もいるのではないでしょうか?

アイスクリームを食べると水難事故が増える!?

 これは事実を誤って理解しています。正しくはグラフCの「気温の上昇」が原因となって、アイスクリームの売上が上がっているだけです。また気温が上昇することでウォーターレジャーを楽しむ人が増えます。その分、水難事故も増えているに過ぎません。
 このような誤った相関関係の理解を〈疑似相関〉と言います。
 グラフA・Bは似たような形をしていて、一見すると、正の相関関係が見えます。しかし、そこで「A(アイス)が原因となってB(事故)の結果が生じている!」と考えるのは、誤った因果関係を作り出していることになります。
 正しくは以下のような理解です。

C(気温)が原因となってA(アイスの売上)と
B(事故の増加)の2つの結果を生じさせている

 グラフA・B・Cの例で読み誤る人は少ないでしょう。しかし、これがもっと複雑な社会課題であったなら、どうでしょう? 相関関係と因果関係は別物です。相関関係がありそうに見えても因果関係となっていない現象が世の中にはたくさんあります。社会は私たちが想像している以上に複雑です。その複雑さを表したデータを皆さんは適切に読み解くことができるでしょうか。読み誤らないようにするためには、読み解く練習と、日頃からデータを読み解いている習慣が大切です。


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