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#96 総合型選抜の「総合」とは何か?

 総合型選抜という言葉が世間に膾炙してきましたが、その際に語られる「総合」とは具体的に何を意味しているのでしょうか。その問いに答えるためには、総合型選抜の前身であるAO入試に関する話をしておく必要があります。

 AO入試は、センター入試が始まった1990年に慶應義塾が取り入れた入試方法です。このセンター入試とAO入試の対比は「基礎学力審査」と「多様な人材確保」といった図式と言えます。いわば、AO入試とは既存の学力に代わる別の指針を導入した入試と言えます。

 では、その「別の指針」とは一体何なのか。それは一言で言うと、独自の〈ストーリー〉です。正確に言うと、大学入学に値する〈ストーリー〉と、研究上の〈マッチング〉と、将来の〈ビジョン〉です。これがAO入試で計られる代表的な3つの要素です。そしてこれが総合型選抜における「総合」が意味する内実です。

 しかし、これはとてもわかりにくいものです。ですので、以下に詳しく解説していきたいと思います。

 総合型選抜の話をする前にまずは一般入試の話をしておきたいと思います。なぜなら、総合型選抜とは一般入試と対比される形で生み出されてきた入試方法だからです。すなわち一般入試の仕組みを理解することで、逆に総合型選抜の仕組みも見えてくるのです。そのためにまずは一般入試に必要とされる科目について考えていきたいと思います。そうすると、それは以下のようになろうかと思います。

 一般入試に必要な要素は誰にとってもわかりやすいです。なぜなら、一般入試は原則として学校で学習している内容が出題されるからです。しかし、これが総合型選抜となると、わかりにくくなります。なぜなら、総合型選抜は「頭が良い」という要素を越えた、別の〈何か〉を有していることが原則となっているからです。「一般的な学力(スタディ)」以外の要素、もしくはそれを越えた〈特性〉や〈優位性〉があってはじめて推薦が成立します。だとすると、総合型選抜で問われる要素とは、基本的に通常授業の中には存在しないことになります。だから、総合型選抜に必要な要素はわかりにくいのです。しかし、簡単にまとめると、総合型選抜には以下の3点の要素が必要です。最低限以下の3点の要素を揃えることができないと総合型選抜で勝つことは難しいでしょう。ですので、総合型選抜で勝つためにはまずは以下の3点の要素を構築・デザインすることを意識しましょう。

 大切なのは一般入試では計れない「ストーリー」「マッチング」「ビジョン」です。頭の良い人は一般で採るので、学力に代わる人間性・学術性・将来性が大事となります。

「過去のストーリー」「大学とのマッチング」「未来へのビジョン」、この3点が総合型選抜に必要な要素です。これは言い換えると、学力に代わる人間性・学術性・将来性が大事ということです。ですので、総合型選抜に適している学生というのは、学力以上に上記3点を総合した〈ストーリー〉や〈マッチング〉を有している人物と言えます。

 逆に言うと、たとえ現時点での偏差値や評定の数字が高くとも、上記3点の過去と未来の〈ストーリー〉を有していなければ向いていない、ということになります。自身の適性をよく考えて受験の形態を考えましょう。

 総合型選抜では「過去のストーリー」「大学とのマッチング」「未来へのビジョン」の3点が必要です。次は上記3点の具体的な中身と仕組みについて説明します。大切なのは、これらが統一されていて、過去から未来へ向けて一貫した流れがあることです。以下にその具体的な展開やイメージについて説明をします。

[過去のストーリー①]
 過去の出来事や体験から考えるきっかけが生まれる展開。自分の興味や関心に〈気づく〉展開。深く学びたい(研究したい)ことを〈発見〉する展開。「過去にこういうことがあったから志望しました!」と言える内容。

[過去のストーリー②](現在のストーリー)
 自身の興味や関心、もしくは深く学びたい内容についてすでに自分なりに勉強している展開。〈気づき〉を〈学び〉へ変えている展開。発見したあとにすでにある程度の勉強をしている展開。

[大学とのマッチング](入学後のストーリー)
 研究テーマや研究計画を論じる展開。もしくは研究上の仮説を立てている展開。自身のオリジナルの研究テーマと大学にいる教授の研究内容との相性が良い展開。「こういう研究がしたいから志望しました!」と言える内容。

[未来へのビジョン](卒業後のストーリー)
 大学での研究が未来と社会を良くする展開。理想的な自己実現を果たせている展開。大学での研究が自身にとっても社会にとっても、双方に意義があるように見える展開。「将来、社会をこうしたいから志望しました!」と言える内容。

 以上が総合型選抜における「総合」の意味するところです。過去・現在・未来を含めたストーリー(人間性)・マッチング(学術性)・ビジョン(将来性)の全方位からの審査というのが「総合」の意味するところです。

 これには良し悪しの両面があります。例えば、デメリットで言うなら「審査や評価に客観性・公平性が保てない」「基礎学力を地道に積み上げてきた生徒の価値が相対的に下がってしまう」「裕福や家庭のほうが子どもに留学など様々な体験を提供することができ(総合型選抜に有利なストーリーをお金で買うことができ)格差社会を助長してしまう」などが挙げられます。一方、メリットを言うなら「学力以外の評価軸で審査するため人材の多様性が高まる」「偏差値などの数字で計れない、定性的な評価が新たな可能性を生む」「マッチングを計る入試であるため入学後の研究方針に迷うことがない」などが挙げられます。以上の点から、やはり総合型選抜には良し悪しと賛否があります。

 けれども、大切なのは、是非を問うことではなく、まずは〈認識〉を持つことです。価値は「スタディ」だけなく「ストーリー」や「マッチング」にも宿る、という認識を持つことが必要です。なぜなら、それが現代という時代の特徴だからです。AO入試は30年の時を経て、2021年に「総合型選抜」と名称を代え、国が認める入試方法となりました。また同年の2021年には推薦入試と一般入試の割合が逆転しました。現代は、一般入試よりも推薦入試で大学進学する学生のほうが多いのです(2021年の割合は一般:49.7%、推薦:50.3%です)。この事実は〈価値観の変化〉を示唆しています。

 良し悪しの判断をする前に事実を的確に受け止めることが大切です。なぜなら、すでに説明した通り、総合型選抜における「総合」は意外とわかりにくいものだからです。わかりにくいままに時代に流されていては、的確に成長することはできませんし、また社会への適性も育まれません。それゆえにまずは多くの人が「総合」の意味を深く受け止めることが必要です。それが受験生の幸福と社会の成熟を実現する道筋だと思います。

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