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#49 要約練習課題⑰

【課題】傍線部「なぜなら、日本の若者は幸せだからです」と筆者が答える根拠を200字以内でまとめなさい。

スライド37

 あれはまだ大地震が起こる前、2010年の終わりのことだ。

「日本の若者はこんな不幸な状況に置かれているのに、なぜ立ち上がらないんですか?」

 ニューヨーク・タイムズの東京支局長マーティン・ファクラーさん(44歳、アイオワ州)から、こんな質問を受けた。その時ファクラーさんは、日本の世代間格差についての記事を書いていたのだが、日本の若者の気持ちがどうしても理解できないと言うのだ。
 若年層の多くは非正規雇用者として不安定な生活を余儀なくされている。大学卒業者の内定率も低く、就職浪人をする学生までいる。高齢化がますます進むだろう日本において、現役世代に対する負担はますます重くなる。
なぜ日本の若者は、このような不遇な状況に置かれているのに、いっこうに立ち上がろうとしないのか、というのがファクラーさんの疑問だった。僕(26歳、東京都)の答えは簡単だ。

「なぜなら、日本の若者は幸せだからです」

 確かにマクロで見た時に、世代間格差をはじめ、日本の社会構造が若年層にとって「不幸な」仕組みになっていることは事実かも知れない。だが、実際の若者の毎日の生活を考えてみた時、彼ら、というか僕らは、本当に不幸なのだろうか。
 もう日本に経済成長は期待できないかも知れない。だけど、この国には日々の生活を彩り、楽しませてくれるものがたくさん揃っている。それほどお金がなくても、工夫次第で僕たちは、それなりの日々を送ることができる。
 たとえば、ユニクロとZARAでベーシックなアイテムを揃え、H&Mで流行を押さえた服を着て、マクドナルドでランチとコーヒー、友達とくだらない話を3時間、家ではYouTubeを見ながらSkypeで友達とおしゃべり。家具はニトリとIKEA。夜は友達の家に集まって鍋。お金をあまりかけなくても、そこそこ楽しい日常を送ることができる。
 実際、現代の若者の生活満足度や幸福度は、ここ40年間の中で1番高いことが、様々な調査から明らかになっている。たとえば内閣府の「国民生活に関する世論調査」によれば、2010年の時点で20代の70.5%が現在の生活に「満足」していると答えている。そう、格差社会や世代間格差と言われながら、日本の若者の7割が今の生活に満足しているのだ。
 この満足度は、他の世代よりも高い。30代でこの数値は65.2%、40代で58.3%、50代では55.3%まで下がる。若者を心配してくれているだろう上の世代の方々のほうが、よっぽど生活満足度が低いのである。
 また、現在の若者の生活満足度は過去の20代と比べても高い。まだ高度成長期だった1960年代後半の生活満足度は60%程度。1970年代には50%くらいにまで下がった年もある。それが、1990年代後半からは70%前後を示すようになってきた。
(中略)
 2010年の大河ドラマ『龍馬伝』で岡田以蔵を演じた佐藤健(当時21歳、埼玉県)は、幕末と現代を比べて「生まれ変わるなら、絶対に、幕末より現代のほうがいいです」と言う。それは人を斬らないといけない幕末と違い、今の時代は、「1泊2日で友達と千葉にバーベキューに行く幸せ」をかみしめられるからだ。
 別に坂本龍馬みたいに維新の風を吹かせたいわけでもなく、国のために死んだ英雄と崇められたいわけでもない。そんなヒロイズムではなくて、佐藤にとって大切なのは「1泊2日で友達と千葉にバーベキューに行く」という小さな幸せなのだ。
 佐藤の言葉に象徴されるように、若者に広まっているのは、もっと身近な人々との関係や、小さな幸せを大切にする価値観である。「今日よりも明日が良くなる」なんて思わない。日本経済の再生なんてことは願わない。革命を望むわけでもない。
 成熟した現代の社会に、ふさわしい生き方と言ってもいい。
 もちろん、だからといって「若者は幸せだ」と単純に言い切ってしまえるほど事態は簡単ではない。
 確かに、インフラや生活環境といった面では、現在の若者は過去最強の「豊かさ」の中で暮らしていると言える。
 しかし、ニューヨーク・タイムズのファクラーさんが心配していたように、これからますます世代間の格差は深刻になり、若年層を中心とした現役世代の負担は増えていくだろう。
 日本の少子高齢化はまだまだ止まる気配がない。出生率が1.3から回復しないからだ。社会保障は、今までは3人の現役世代が1人の高齢者を支えていたのが、15年後にはそれが2人で1人になるという。
 そして、巨額な財政赤字が将来世代へ残されようとしている。国の借金は将来世代が払わなくてはならない。それは、年老いた祖父が、係のクレジットカードを勝手に使っている「ワシワシ許欺」のようなものだと主張する人もいる。
 さらに、放射能だだ漏れの原子力発電所という遺産まで、先行世代は残してくれた。事故のあった福島第一原子力発電所の原子炉を廃炉にするのに、周辺のサイト(土地)開放までを考えると、少なくとも数十年の年月がかかるだろう。今の若者が、ちょうど老人になるくらいの年月だ。
 いくら現代日本の若者が、「幸せ」だと思っていたとしても、その「幸せ」を支える生活の基盤自体が徐々に腐り始めている。そして、このようなある意味「いびつな」社会構造の中で、当の若者が自分たちのことを幸せだと考える「奇妙な」安定が生まれているのだ。
(古市憲寿「絶望の国の幸福な若者たち」2011年9月)

解答例

日本の若者が幸せなのは、身近な人々との関係や小さな幸せを大切にする価値観を持っているからだ。また、現在ではそれを実現できるだけのインフラや生活環境が整っている。若者はあまりお金をかけなくても、工夫次第でそこそこ楽しい日常を送ることができる。今の日本には日々の生活を彩り、楽しませてくれるものが揃っている。そのため、社会構造は若年層にとって不幸な仕組みになっていても、日本の若者は幸せなのである。(197字)

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