CoCo壱20辛挑戦_20240712.log
強敵への挑戦
CoCo壱番屋。
サラサラのカレーに豊富なトッピングを載せて食べるチェーンのカレー屋だ。
そんな大衆に受けるカレー屋なのに、
何故か辛さもトッピングと同様に幅があるのだ。
辛さの段階は1辛から20辛まである。
僕は30歳までに漠然と20辛を食いたいという気持ちがあった。理由は特にないが、どこの店、何かの行為でマックスの値にトライしたかった。
そして別に辛さが得意じゃない友人二人(いつものT君とA君)を巻き込んで、10辛にトライしたのだ。
(本当はキング牛丼を食いたいとご両人に訴えたが食が細いという理由で却下となった。仲間募集中です。)
ワイルドチャレンジャー
10辛は"今"思えば大した事なかったのだ。
とはいえ食後の口はスパイス臭がとてつもなく、口からインド・ネパール系の調理場のような匂いを漂わせながら飲み干したビールは堪らなく心地良かった。
10辛については今となってはそこまで語る事はない。
が、想定外な事としてT君のスイッチが入ったのだ。
「俺は10辛を食った。俺はスゴイ。次20辛いこう。」
T君は元々そこまで辛いものに耐性はなく、タイ旅行で辛い物が食べられず悔しい思いをしたというのだ。そんな彼が自信をつけた。
「俺は食う、20辛、早く食べたい。」
「俺も食う、20辛、早く食べたい。」
一人の人間をバーサーカーにしてしまった。
10辛を完食し、翌日体調を崩したA君を除いて僕とT君の熱量は凄まじかった。
アニメスタジオならスタジオジブリぐらいの熱量だ。この情熱をもっと他の事に注げたのなら、と思うがそれは野暮である。
規格外の絶望
そして7月12日の夜になった。
T君、A君とCoCo壱に行った。
それぞれのオーダーは、T君は20辛ポークカレーにナスを二つトッピング。A君は15辛で野菜カレーにナスを二つトッピング。
僕は、20辛ポークカレーにチキン煮込とほうれん草とパリパリチキンをトッピングした。
更に旨辛ニンニクを合わせて注文した。
僕のカレーの名前は「BUMP OF CHICKEN」だ。
BUMPのバンド名の由来は「臆病者の一撃」であり、このカレーとしても今回の挑戦としてもベストマッチな名前だから、きっと藤原基央も応援してくれると思った。
10分ほど待ってようやくカレーが来た。
「それじゃあ、頂きます。」
3人が手を合わせて口にドロドロのカレーを運ぶ。
内心これは10辛とそんな変わらないと思った刹那、頸あたりから汗がじわりじわりと染み出す。そして、喉をまち針でブスブスと刺されるように痛くなった。
あまりの辛さで喉から食道を経由し、胃にドスンと落ちる感覚が分かる。
旨味よりも痛みが先行してくる。
水を飲んだらおしまいと思いながらも、コップに手が伸びてしまった。T君もA君もあまりの辛さに悶絶している。
「あ〜これはヤバい、痛い、痛い」
川崎のどこかにあるCoCo壱番屋のテーブルの片隅で、前線の兵士のように苦しみに満ちた嘆きを漏らす。時たま、カウンター席のサラリーマンの目線を感じる。こちとら遊びじゃねえんだよ。ガキがいるのか何なのか知らねえけど俺たちは目の前の現実(リアル)と戦ってんだよ。バキバキの目で睨み返した。
僕は元々食べるのは早い方だったし、
この戦場(いくさば)に招き寄せたのは他ならぬ僕の所業だった。
「10辛がバラモスなら20辛はゾーマだろ。」
「いや、これはもうしんりゅう。裏ボス。」
毛穴という毛穴から汗が滴り、髪をかきあげるT君。食べ始める前よりも身体が震えている。
食べれば食べるほど、「面白くなってきた」と言葉を続ける。
食事でこんなに面白いのは、人生初めてだ。
僕が食べ切らないとT君もA君も到達出来ないと思い、必死でカレーを掻き込んだ。
この魔境に誘ってしまったのは僕の責任だ。
「味変します。」
僕はニンニクを投入した。
一欠片のニンニクと共に、冷めているのに辛さのせいでクソ熱いカレーを口に頬張る。
結論から言えば、ニンニクは失敗だった。
普段はあんなに美味く感じるニンニクの辛みでさえ、自分の舌に攻撃してくるのだ。
そして割とロースト感がないのでダイレクトにニンニクが来る。
TとAもまたトッピングで悶絶していた。
「ナスはルーを吸うからダメだ、ああ……」
負傷したソルジャー2人が喚いた。
気づけば入店して30分も経っていた。
戦慄き戦慄きEveryday
僕は休憩しつつ、黙々と掻き込んだ。
冷めてくると辛さも落ち着いてきた。
そんな訳はなく辛さの塊は目の前にある。
A君は道半ばにして少し残してリタイア。
散々ゴリ押しして20辛を食べなさいと説いてきたが、彼の挑戦は決して無駄ではない。
いつか彼がまた20辛に挑戦したいと思ったら、僕はいつでも同行したいと思う。
CoCo壱はルーを元に米を食うスタイルなので、コメの量がデフォルトで多く、それもまたボディブローの様に効いてくる。
辛さと満腹中枢への刺激。
僕の胃袋は未曾有の大災害に拒否反応を示し始めた。
ゲップが出そうになると、そのままゲロを吐きそうになる。パリパリチキンは蛇足だし、何なら煮込みチキンの鶏肉の繊維にもイライラしてくる。
おそらく、これ以上の辛いものは食べられないのだろう。そんな事はどうでも良く、僕はただ目の前の「結果」を出したいと思った。
僕は、TとA君に自分語りを始めた。
僕はつい最近、資格を取った事。
久しぶりに頑張り始めた事もあり、結果が出たことをつい母親に報告してしまった。そんな僕に対し、母は「やればできる自慢の息子だ」と言ってくれた事。
そして、今目の前のカレーを食べて親孝行をすると。
意味不明なロジックだが、自分の精神的に良い方向に作用した。
辛さよりも熱い想いが辛さを和らげ、完食することができた。
母さん、父さん、妹よ。
僕はいい歳して未だに馬鹿げた事をやってます。でも、僕は20辛を食べた男になりました。周りの人は殆ど20辛を食えない雑魚です。僕は食べられます。つまり最強です。
更なる闘い
T君は食事中、常時自撮りで動画を回していた。
10辛を食べた時、信じてもらえなかったそうで証明のために撮っていた。
僕はその話を聞いた時、信じなかった者に対して怒りを感じた。
まるでワンピースのモンブラン・ノーランドみたいじゃないか。目の前の事実に対し、気軽にフェイクだと認定する愚か者めが。
T君は休憩しながら、アホほど水を飲みながら、それでもスプーンを止めなかった。そして、満面の笑みで綺麗に完食した。
久しぶりにイカした姿だった。
彼視点のnoteもいつか上がる事だろう。
速やかに会計して退店しようとした際、
T君は突如レジの店員さんに話しかけた。
「20辛、めちゃくちゃ辛かったです。」
「えー、お会計は4166円になります。5000円からでよろしいでしょうか?」
「20辛食べられますか?」
「834円のお返しです。」
「次は30辛が出来たら挑戦します!」
「ありがとうございました〜。」
終始ガン無視されていた彼を見て、思わずニヤけてしまった。
なお、小うるさい20辛も食えない弱者が多いので説明するが、決して遊びには来ていないし、お店には迷惑をかけていない事を明記しておく。
食後、視力が上がった気がした。
そして、何より価値観が変わった。
どんなにムカつく奴や殺したい奴も、
20辛が食えないと思ったら面白くなってきた。
街行く人が雑魚に見えてくる。
20辛どころか10辛も食えない弱者が!!
いや、周りを見下してはいけない。
さらに強くならねばと自己反省しつつも、確かに強くなった自分が誇らしかった。
7月の鬱陶しい雨は、癒しの雨になった。
次回はわんこそば100杯チャレンジでお会いしましょう。
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