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風の子

 出勤時、ビル風に遭遇したときにふと思い出した。
 かって、子どもたちがワイワイと日が暮れるまで遊んでいられたころを。近所の子どもたち、下は5、6歳から上は10歳くらいまでの男女、といっても男子は男子だけ、女子は女子だけで遊んでいた。男子は、近所の広場だけではなく、裏山などの斜面や里山の細い道を探検気分で遊んでいた。
そのような時に吹いてくる風は、子どもだちの声をさえぎったり、投げたボールをそらせたり、かぶっている帽子を飛ばしたりと、一緒にうまく遊べてはいなかった。
 小さいお社の周りで遊ぶ風は、松の枝に散り散りと砕ける小さな音を粒にして心地よく響かせていた。里山の雑木林では、それぞれの木々の枝を揺さぶり、楽し気に波打たせていた。竹林では、葉擦れの乾いた鋭い音を放ち、やや物憂げな気配だった。野原では跳ねるように駆けていた。
 今となっては、別世界のことのように感じる。
 ビル風は吹き続けているが、誰も気にすることなく急ぎ足のままである。

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