伊藤野枝の死になにを思う
伊藤野枝をご存知だろうか。
僭越ながらわたしの言葉で紹介すると、「おかしいと思ったことは自分に嘘をついて納得させずにおかしいと発信する女性」である。
というか、ここが私が野枝嬢を素敵であると思う点である。
伊藤野枝は憲兵に殺害された
1923年の関東大震災の折には朝鮮人にまつわるよからぬ噂による虐殺や、社会主義者がこのどさくさに紛れて国家を転覆させるという噂や、歴史に残る未曾有の大災害に世の混乱は極めていた。
そこで狙われたのが伊藤野枝、また大杉栄だった。2人は憲兵甘粕正彦に虐殺される。(甘粕事件)
それも2人の甥であった6歳の罪なき子どもも含めての虐殺だった。
さらに隠蔽のため、署内の古井戸に落とし、3人の安否を確認に来るものには信じ難くもシラを切っていたとか。
ようやく内務大臣後藤新平から総理大臣山本権兵衛の知るところとなり、徹底的に調べ上げられ、発覚した。
二人は生き方こそ派手で世間を大いに騒がせる目立った人間だったものほ、人情深く愛情深い二人だった。
伊藤野枝の生涯
肩書き的にはアナキスト、作家、婦人解放運動家など色々ある。
そもそもアナキストとは無政府主義者と訳されるが、「政府による政治や、世の通説・社会道徳・常識」に立ち向かう者を言う。
野枝は幼少期からの実体験を伴ったことから無政府主義者へ突き進む。
野枝は福岡の今宿出身、働かず好き放題生きる父とそんな家計を子育てをしながら献身的に支える母の元に生まれる。
そんな家族なので、もちろん家は貧乏。
勉強よりも家のことを手伝いなさい、進学なんてもってのほか、家の手伝いをしながら成長し、どこかに嫁いで子を生み育て……
と、誰もが疑いもせず送ってきた生活のルーティンであっただろう。
ただ、野枝はそう一筋縄ではいかない。
我慢よりも納得の行かなさが圧倒的に野枝を野枝にしている。
なぜ女子は学ぶことが出来ないのか?
なげ貧乏というだけ学ぶことが叶わないのか?
そんな現代的な思想を周りの環境に潰されず、押し通し、進学を叶えていく。
とすると、次に降りかかるのは結婚。
女は卒業したら結婚するものだ
に、当然異議を唱えるも、周囲の人間ばかりが望む結婚に大人の圧力によって負けた。
無理に結婚させられた野枝は脱出を謀り、結婚生活は1週間も満たなかったとか。
そこで一役買ったのが進学先の教員である。流暢な英語と知識の豊富さに野枝は恋に落ち、一度入れた(入れされられた)籍から懸命に逃げ、当時は姦通罪で訴える!とまで騒ぎになりながら、元教員と同棲生活を送った。(そしてその教員は、元教え子との関係に批判を強まり、退職をすると啖呵を切り、以降生涯に渡り定職につかなかったようだ。)
その度胸、おったまげ。普通なら半年頑張ってみる、とか思いそうなものを。その普通に異議を唱えるのが伊藤野枝なのだ。
野枝は、自身の窮状を平塚らいてうに訴え、その訴え状が文章が力強く素晴らしいと評され、平塚らいてう編集をつとめる「青鞜」の編集メンバーとまでなるのだが、これを廃刊にしてしまうのもまた野枝なのであった。
大杉栄と出会う
そうして子どもまで産まれ、元教員と再婚した野枝だが、そこにかの有名かアナキスト「大杉栄」と出会う。
大杉栄は、恋愛において自由恋愛という「友人が何人いてもいいのだから、恋人も同様でいいではないか。」という主張をしながら、
籍を入れていない内縁の妻に、加え、神近市子と伊藤野枝と四角関係の末、神近市子に喉を刺されるという事件(日陰茶屋事件)をまで起こしながら、伊藤野枝をその後の生涯を共にする。
大杉にとっても野家にとっても恋人であり妻であり、なにより同志だった。
おかしいことを一緒におかしい!と叫んでくれる人だった。
論じることより何より重要な「行動」を起こす人だった。
そんな2人が関東大震災のどさくさに紛れ虐殺される。
許し難い憤りを今更感じるが、
彼女の「自分に嘘をつかないこと」、「生きたいように生きる社会の現実のために奔走したこと」、そして何より「行動」を重んじた生き方が何よりも素敵である。
1ヶ月も満たないうちに、野枝と大杉の死後98年が経つ。
98年がたっても、生き方には目が覚める思いである。
2人の先進的な思考と熱く滾る生命力とエネルギーに、同い年28歳の令和を生きるわたしから僭越ながら敬意を表したい。
伊藤野枝を知るきっかけとなった2冊
村に火をつけ,白痴になれ――伊藤野枝伝 栗原康著
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風よ あらしよ 村山由佳著
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