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幸せでいるために嘘をついてね

「わたしのことを大切に思うなら、嘘をついてね。たとえあなたが浮気をして、わたしが気づいて問い詰めたとしても、わたしと別れたくないなら絶対に認めないで」

これはわたしが常日頃から彼に口酸っぱく言っていることだ。彼の浮気を疑ってるとか、ふたりの間に何か問題があるわけじゃない。そんなことする人じゃないのは知っている。彼の会社にはわたしより素敵な人がたくさんいることも、そんな人たちと連日飲み会に行っていることも(さすがに今は自粛してるけれど)、特に気にしたことはない。

だからわたしは、億が一、本当にもしものときのことがあったときの、保険として彼にそう言っている。

何年も付き合っているし、たぶんこれからもしばらくは一緒に時間を過ごすだろう。でも未来には、何が起こるかわからないから。

もしも何かが起こってしまったとして、彼がどんなに隠したとしても、わたしは気づいてしまう自信がある。わたしの恋人は、隠し事や嘘が本当に下手。かと言ってわたしは、それを許してあげられるほど懐の広い人間ではない。

だからもしそんな時がきてしまったら。
わたしはあなたにすべてを委ねるよ。あなたが認めたら、終わりにしたいという意思として受け止めるよ。わたしを愛しているのなら、どんなに問い詰めても絶対に認めないでね、そんなことするわけないと、嘘でも言ってね。

あ、念のため言っておくけれど、わたしに話すことで罪悪感を手放そうとするなんてもってのほかだからね。


・・・なんてつらつらとわたしの恋愛観を話してみたけれど、友だちには理解してもらえないことも多い。結局わたしには許す強さも、受け止める勇気もないだけ。でも「守るための嘘」をわたしは信じている。

当の彼は、最初こそ生返事だったものの、次第にわたしの本気度合いを察してか頷いてくれた。

わたしはずるいかな、勝手かな、めんどくさいかなあ。浮気された過去があるわけじゃない。ただ彼が、わたしを大切にする方法を履き違えないために。彼には彼の、わたしにはわたしの大切にされ方があるから、悲しい行き違いをしないですむようにしたいだけ。



世界はそれを愛と呼ぶんだぜ