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ねえ、わたしはまだあなたの友だちですか?

セブ留学に行くことになった。SNSのキャンペーンがたまたま当たって、一ヶ月だけ。
先日、地元の友だちの結婚式があって、会った友だち何人かにもその報告をした。みんな、応援してくれた。

でもたった一人の友だちにだけ、留学の話をスルーされてしまった。



***



彼女とは保育園などの幼少期を一緒に過ごし、一度お互いの引越しなどで離ればなれになった。たまたま高校で再会し、意気投合。高校時代のほとんどの時間を彼女と過ごした。

高校卒業後、わたしは東京の大学へ進学した。彼女も本当は進学をしたかったのだろう、けれど家庭の事情で諦めざるを得なかった。

今思えばたぶんそのときから、彼女とわたしは違う道の上を歩きはじめていたのかもしれない。



わたしが大学生活を謳歌している間、彼女はブラック企業で文字通り身を削りながら働いていた。休みも休憩もほとんどない、お腹が空いてこっそりおにぎりを食べていたら、上司に叱られたそうだ。他にもとてもここには書けないような話をたくさんたくさん、彼女から聞いた。

その後彼女は会社を辞め、地元で様々な職についていたが、どれも労働環境は悪く、長くは続かなかった。

長年付き合っていた彼と結婚した後も、彼女の苦悩は続いた。お姑さんに嫌われていたのだ。たぶんお姑さんは息子を取られた、という思いから彼女に辛く当たっていたのだろう。そのときは旦那さんが味方についてくれるから大丈夫、と言っていたけれど、いつも「結婚は地獄」と愚痴っていた。

子どもが生まれ、お姑さんとの関係は良くなったそうだ。でも今度は旦那さんが家事育児に全く協力的でなく「旦那なんていないほうが良い」とも言っていた。

その間わたしは、何をしていたか。
国内・海外への旅行。友だちと遊んだり、サークル活動に励んだり、恋愛して傷ついたり。就職をして、パワハラセクハラの嵐ではあったけれど、それでも彼女よりはマシだった。



彼女の目に写っていたわたしの姿がどんなものだったかは、彼女にしかわからない。たとえ想像だとしても、それをわたしに語る権利はない。

それでも。

彼女が結婚してからときおり感じるようになった、言い様のない違和感。
くだらない話はできるけれど、真剣な悩みを相談することができなくなった。
わたしの「まだ結婚はしない」「やりたいことがある」という言葉に「都会の人の考え方だね」と突き放されてしまったこと。
「女は環境や立場が変わると話が合わなくなって、友だちも減っていく」という、SNSでの彼女の呟き。

ねえ、わたしはまだあなたの友だちですか?



***



全部ぜんぶ、覚えているよ。

一緒に授業をサボったこと。
彼女の鼻唄にかぶせて歌って怒らせたこと。
はじめての彼氏に浮かれていたときのこと。
部活で辛いことがあったとき、真っ先に電話したのは彼女だった。
ミスチルばかりカラオケで歌う彼女の、好きな曲も好みもだいたい知っている。
幼いころのコロポックルみたいな彼女の姿も。
成人してはじめて一緒にお酒を飲んで、べろべろに酔っ払ったときのことも。

全部ぜんぶ、大切な思い出だよ。

思い出は、消えないどころか日に日に眩しくなって、同じ光を日常の中に探してしまうことさえあるよ。
きっとその光はあなたとわたしの間にしか生まれないのに、どうしてこんなに不安定なものになってしまったの?
趣味の話や、下らない下ネタならいつまでも永遠に笑っていられるのに、生活や将来の話になると途端に影が差すのは、一体どうして。


道が違うのは、当たり前。
住む場所や仕事、家庭の有無で、生活は変わる。
受け入れられないのは、わたしとあなた。


悪いけれど、あなたとわたしの歩く道はこのまま平行線を辿るような気もする。
でも下手に交わって離れるより横並びで歩いていけるほうが、ずっと近くにいられるような気がしていいかなって思うんだけど、あなたはどうかな。

嫌な思いをさせるかもしれないけれど、わたしはあなたのこと、かけがえのない友だちだと思っているので、意味のないLINEや、SNSでの馬鹿みたいな絡みをやめることはできないよ。

だってね、恋人に対してはずっと一緒にいたいと思ったことがないけれど、あなたに対しては、そう思うから。

またいつか、くだらない話から、心が動かなくなるほど苦しかったことまで、なんでも話せるようになれたらいいな。
そしてそのときに「あの頃はやばかったね」と、心の底から笑えますように。





世界はそれを愛と呼ぶんだぜ