わたしの幸せを決めないで

「俺と付き合ったほうが、幸せになれるよ」

終電間際。東京駅から少し離れてしまえば、そこは人影もないオフィス街になってしまう。数年前のわたしは、なぜそんな場所でそんな言葉で、男性に迫られていたのだろう。

あのときの状況から察するに、彼はわたしの気を引くために本当に必死で。その言葉だって、重たい心臓から絞り出した悲痛なまでの思いだったはず。
けれどそれはわたしに届かないばかりか、わたしの心を酷く遠ざけた。

「そんなのわたしが決めることだよ」

そういって、その手を払ったのを覚えている。



わたしは、他人の物差しでわたしの幸せを図られるのがとても苦手だ。それってとんでもない勘違いだと思う。あなたとわたしの好きな食べ物が違うように、あなたとわたしの幸せも、きっと違うでしょ?

ブランドバックをプレゼントされるのは、まあそりゃあ、嬉しいけれど。ブランドのロゴが消えた瞬間、バックとわたしには何が残るのだろう。恋人でもないわたしを最上階の夜景が見えるレストランに連れて行って、それがなんだって言うんだ。

それは、あなたが考えるわたしの幸せでしょう?



「そんなのわたしが決めることだよ」

あのときの彼はとても傷ついた顔をしていたけれど、傷ついたのは、わたしも同じだったんだよ。それに気づいて欲しかった。

わたしの幸せは、わたしが決める。たとえそれが荒野でもオアシスでも、淡々とした地味な日々でも。幸せにするのも不幸にするのも、わたし自身なのだから。人が決めた幸せの上を歩いて、後悔なんてしたくない。






世界はそれを愛と呼ぶんだぜ