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オレンジ味のチョコレートを教えてくれた彼女

オレンジ味のチョコレートが大好きです。
ロンドン短期留学中に、ルームメイトに勧められてスーパーで購入したキットカットもどきのようなお菓子。
あれが最初の出会いでした。

たった一か月の滞在で、何本あれを食べたんだろう。
あまりにハマり過ぎて、いつでも食べられるようにベッドサイドの引き出しに隠していたら、勧めた張本人のアンナに"What are you eating?"と笑われて、
いや、君が勧めたやつじゃん、食べる?と勧め返したのですが、夜中に食べるもんじゃないと断られたりしました。

ハマるとそればっかり、なタイプです。

オレンジ味のチョコレート。
たった、1か月の間だけ過ごした、ロンドンの記憶と密接に結びついている、思い出の味。

「短期留学っていうより長期旅行ですよね?笑」と後輩に突っ込まれるほど、ほぼ語学力を学べないまま帰国したけれど、
今でもアンナとはメッセージをやりとりするし、沢山の価値観を発見できた、大切な1か月でした。

アンナはイタリア人のお姉さんで、ロンドンでメイクを学ぶために語学学校へ通っていた年上のお姉さんです。

日本の食文化が大好きなお母さんがいるそうで、抹茶味のキットカットに大喜びしてくれたり、「豆腐が好き、マッシュルームソースで食べるのが美味しいよね」と言ってくれたり(亜流過ぎ!と笑ったらめちゃくちゃ驚いていたので、彼女の家では本当にポピュラーだったみたいです)、優しくて、ピュアな人でした。

元々イタリアで弁護士をしていて、フィアンセもいたそうですが、
「私はメイクがやっぱり好きだし、まだ結婚する気もないの」と、笑いながら話す彼女の姿が、学生の私には力強く輝いて見えました。
人生を自分で切り拓いていく恰好良さを教えてくれたアンナ。

オレンジ味のキットカットを食べると、やっぱり彼女のことを思い出します。

通学路を丁寧に手書きメモで教えてくれたり、安い定期券の買い方を教えてくれたり、週末のおでかけに毎週誘ってくれたり。彼女がいなければ、留学生活はだいぶ粗末なものになっただろうと思います。

当時お付き合いしていた彼と、TOEICの点数争いをしていることを伝えると、
"You will defeat him.I trust you."と、まっすぐな瞳とシンプルな英語で応援してくれた。ついでに "You should educate him."と割と強めの恋愛指南を受けたりもした。

「他のルームメイトが帰国して一部屋空いたから、そっちに移る?」と訊ねられたとき。
アンナがどう思っているかばかり考えて即決できずにいると、"It depends on you."とにっこり笑ってくれて、そこで初めて、自分がいかに「気にしい」な人間か気づくことができた。

もちろん、最終日までアンナと同じ部屋で過ごす方を選びました。

帰国してからも定期的にメッセージをやりとりし、絶対にまた会おうね、と言い続けながら、もう何年も経ち、その頻度もだいぶ少なくなりました。
彼女はメイクアップアーティストとして働き、ロンドンに住み続けています。

昨年の夏、アンナからメッセージが届きました。
彼女の母国であるイタリアでは流行り病が猛威を振るい、また、ロンドンでも同様にロックダウンが継続し、数か月した頃。

誰にも会えず、家族のいるイタリアにも帰れず、どれだけ寂しい思いをしているだろうと、胸が痛みます。
けれどやっぱりアンナは、「世界が落ち着いて、いつか日常が戻ったら、旅に出て、なつみに会いたいって思ってるよ」と言ってくれました。メッセージにはハートマークとたっぷりの茶目っ気を添えて。

ロンドンに滞在したころ、四六時中食べていたオレンジ味のキットカットは、日本では滅多にみかけることがありません。

それでも時々、期間限定商品で出会えることがある。
たまたま入ったカフェに「オレンジココア」があったりして、ひとときだけ、あのキットカットを思い出すことができる。

あれは、ロンドンと私をつないでくれる特別な味なのです。

もう、「いつか」は言いたくないな、旅に出て、アンナに会いたいな。
会いたい人、やりたいこと。言い訳しながら置いてけぼりにしてきたピュアな気持ち。それらが浮き彫りになって、語り掛けてくるような気がします。

時間はいのちそのものだから。
またいつか、なんて言っていないで、「~したい」という心の声をちゃんと聞いてあげよう。

だから、日常を早く取り戻したいな。

オレンジ味のチョコレートを食べると、そればかり考えてしまう、この頃です。

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