映画で読み解くアメリカ文化：護身術の常識

１８歳で渡米を決めた時、周りのアメリカ人（特に女性）は皆、口をそろえてこう言った。

「お酒をもらう時に、必ず見ていなさい。薬を入れられることがあるから」

彼女たちが言うには、アメリカの大学に留学したら、必ずパーティやバーで酒を飲む機会があるだろうから、そういう時に酔ったり気持ちが上がっていたりすると、油断してしまう。油断してしまうと、少なからず犯罪に巻き込まれる危険があるというのだ。

特に日本で生まれ育った平和ボケしている女の子たちは、世界がどんな場所であるか知らないだろうから、と聞かされた。

まだ日本でも合法にお酒を飲めなかった私は、アメリカという国はそういうものなのかと感心したものだった。性犯罪や誘拐事件などとの距離が自分の知らない間にぐっと縮まった気がした。

こんな昔のことをなぜ思いだしたかというと、この間子供たちが寝静まった時に、きゅんきゅんしながらこの映画を見たからだ。

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「私とあなたのオープンな関係」（原題「newness」２０１７、ニコラスホルト主演）

ニコラスホルト演じるマーティン（アメリカ人）と、ライアコスト演じるガビ（スペイン人）の国際恋愛の話。個人的に邦題で損していると思う。いわゆるオープンリレーションシップを題材にした上に、そのむずかしさを描いた、スタイリッシュで雰囲気がとてもいい映画。

ニコラスホルトは演技がとてもうまい。その上、とびぬけたハンサムではないけれど、存在そのものがなんか好き。そんな彼と、英語に訛りのある彼女のやりとりが、好きだ。

とにかく、この映画の中で、二人が知りあったばかりの時にお酒を飲むシーンがある。マーティンがお酒を二つ持ってくる。自分の分と、ガビの分だ。その内の一つをガビに渡す。二人が飲み始める寸前でガビはマーティンが持っていた方の酒と自分のを取り換える。そして、飲み始める。マーティンは「そっか」というような顔をして、二人は何もなかったように飲み始める。

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これは、初対面であるマーティンに対するガビの警戒心であり一般的なアメリカに住む女性の護身術である。

このシーンを見て、そういえばアメリカという国は、そういう国で、こういう風に女性たちは男性と出会う国だったと思いだした。

いざ２０歳で渡米した後は、彼女たちが言ったとおり、確かにお酒を飲む機会がたくさんあった。結論からいえば、渡米前に警告してくれた彼女たちの「気を付けなさい」は、この映画さながら、アメリカに住む女性たちの「常識」であった。

２１歳を迎えて、バーに入ると、若くてぷりぷりして日本から来たばっかりの初々しい存在だった私（多分）に、ドリンクを買ってくれる男の人は必ずいた。慣れないうちは怖かったものである。危険、危険と口を酸っぱくして言われていたために、いつも警戒心があったように思う。

財布とパスポートは必ず自分の体に近いところで持っていたし、ひと時でも絶対に椅子に置きっぱなしにしたりはしない。日本と同じ感覚でいたら、必ず盗まれる。財布を落としたら最後、絶対に帰っては来ない国だ。

アメリカ人女性の友達は、皆こういう風にして最低限の警戒心を持っていたように思う。それは日本で感じていたものとは全くレベルが違うものだ。実際にその場にいたら、誰でもあのピリっとした空気を感じるだろう。

相手がちょっとした知り合いであっても、ドリンクをもらう時は気を付けていた。彼らがバーテンダーの所に行ってオーダーしてこちらへ持ってくるときも、よく見ていた。パーティなどでも同じだ。栓のしてあるビール瓶（アメリカではビール缶はあまりない）なら目の前で開けてもらうのがベスト。栓が開いた状態で持ってこられたら、飲まない。それが一番安全だ。

大学でも、やはり私たち女性は、同じことを警告された。アメリカ人でも外国人でも同じ。女性は自分の身を守ることをよく意識していたと思う。そうしていても、やはりオンキャンパスで犯罪の匂いがあったこともあったし、噂がたったこともあった。やはりどんな事をしでかすのか分からない人がいる、というのが前提だ。

日本でもそれに近い話を聞くようになった。私が若かった頃とは事情が違ってきているのかもしれない。女の子はどこでいても、みんな気を付けるべきなのだと思う。

私はガビの様に、相手のドリンクを奪って飲んだ経験は直接はないけれど、そこまですることも、時には必要だと思う。日本人特有の考え方だと「相手に信用してないと思われるかも」「いくらなんでも失礼かも」と思ってしまうかもしれないが、現実は本当にシビアなのである。後悔しない判断をしたい。

アメリカをはじめとした海外の事情を知るためにも、実際にその地を踏む前に映画で文化を読み解くといいと思う。単に楽しいし、実際に自分の身にそんな事が起きた時のプラクティスになるからだ。