【再掲】苦しくない、その先を見ていこう。

※この文章は、2019年12月に自分のはてなブログに投稿したものを再掲しています。

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グワィニャオン2020年特別公演「刹那的な暮らしと丸腰の新選組」

11月26日~29日にかけて行われた公演の感想を書いていきます。

私は地方に住んでいて現地には行けなかったため、27日・28日(昼)・29日に配信で観劇しました。


前半で「刹那的な暮らし~」での役者さんお一人お一人の好きなところを、後半で作品を見て個人的に考えたことを書いていきます。後半では作品の話も交えていますが、直接的な感想からは少し離れて、今年1年を通して自分が考えていたことの総まとめのような内容になっています。


前半と後半で文章のテンションが全然違うのと、通しで読むとものすごく長いです。約7,500字あります。大学時代のレポートよりも書いた気がします。


もし興味があれば、お時間のあるときに読んでもらえると嬉しいです。


役者さんお一人お一人の感想

グワィさんの作品は、すべての登場人物を好きになってしまう。

どんなに悪役でも、ただ悪いだけでは終わらせない物語がしっかり用意されている。

すべての登場人物を好きになるということは、すべての役者さんを好きになるということでもある。


短く簡単にですが、お一人お一人の役で印象に残ったところや好きなシーンを書いていきます。


西村太佑さん(松丸/松原忠治) 

グワィニャオン主宰、作、演出、殺陣指導、なんか諸々やっている方(めっちゃすごい)。まずは、有観客+配信という形で開催してくださって本当にありがとうございます…!

新選組組長の中でも目立たない松原。目立たないけど、優しくて隊士想い。剣を使わない戦い方も格好いいです。この記事のタイトルにした台詞「苦しくない、その先を見ていこう」、笑いどころでもあるけど、とても好きな台詞です。

次回作での松原の活躍が楽しみです!


渡辺利江子さん(八木さん)

八木亭の女将さん。人数が増えて騒がしくなる隊士たちにうんざりしながらも、きっと優しい方なんだろうなあと観ていて感じました。

隊士たちの印象を話すシーンからの表情がとても素敵でした。

次に京都に行けたときは八木亭に行ってみたい。


平塚純子さん(淀川晴美)

去年のバブリーお母さんからガラッと変わり、古のオタク!という感じがバンバン伝わってきて良きなのよ~。

暴走しがちな茜子さんにツッコミを入れつつしっかり森下ちゃんを洗脳していく良い先輩…!本を作ることへの意識が薄れてしまったおじさまたちと違って、長い間熱量を維持し続けているってすごい。


尾形雅宏さん(福本/福田和夫)

おじさんお兄さん平隊士。初めは土方さんに怯えていたけどいろいろあって最期までお供する立場に。仲良くなれて良かった(?)

新選組が「丸腰」でいる時間は特に福田を中心に動いていた気がする。どうしても戦と敗北のイメージがある新選組の、平和な時間を守っていたのは無名の平隊士なんだろうな、と感じました。


熊木拓矢さん(奥沢栄助/加納惣三郎)

奥沢の池田屋裏庭でのへなちょこっぷりとイケメンの加納のギャップが面白い!どの時代も前髪は本当に大事です(前髪にうるさいオタク)

押し掛ける町娘にも神対応の爽やかイケメン。当時からアイドル的存在がいたんだなあと思うとほっこりするし親近感が湧きます。


桜咲千依さん(萩原小梅/星野栞子)

可愛さと強さの両方を持つ役が多い気がする桜咲さん。去年のジャムパンを頬張るのに続き体当たりのお芝居を…!

小梅先生の関西弁がとても可愛い。カウンセリング受けてみたいです。栞子先生のボイトレも。そういえば、栞子先生と菜ノ香さん演じる茜子さんってもしかして姉妹…?


山口勝平さん(徳永/永倉新八)

2018年の「六月の斬る」からグワィさんにハマった身としては、勝平さんの永倉を再び見ることができてとても嬉しかったです…!私の中では永倉新八=勝平さんです。

ニコニコしてて世話好きな先輩っぷりも、刀を握ったときの凄味も本当に引き込まれます。「変わるものがある。変わらないものがある。それで良いと思いますよ」という台詞がすごく心に残りました。


遠藤純一さん(土屋/土方歳三)

限りなく大黒様に近い鬼の副長。大黒様から鬼に変わる瞬間が怖すぎる。局中法度の「ひとぉーーーつ!!!」とかもう鬼。現地で観ていたらきっと怖すぎて泣いてた。

そんな鬼の副長でも、八木亭を後にするときには大黒様のときとはまた違った優しい表情をしていて。そのシーンの土方さんが特に好きです。

あと、愛染終と東京ニューセレクトのKinki Kids、いつかフルで観たいです。


魚建さん(右近/近藤勇)

「六月の斬る」の劇中で「俺近藤勇やりたい」って言っていた魚建さんが近藤勇を…!それだけでちょっと感動。

笑わせるお芝居が多い魚建さんだからこそ、真面目なシーンのお芝居もとても好きです。葵屋の主人の穏やかな表情と語り口がとっても素敵で。

でもその主人がケンちゃんの師匠だったことは公演期間中に気付けなかった…Twitterで呟いてくださった方、ありがとうございます…!


宮崎重信さん(坂東藤次郎) 

宮崎さんのお芝居に毎年泣かされてる気がする。今年も体の水分がなくなりました。

新選組に入ったばかりなのに幹部たちにまくしたてるときのアクリル板ガードが面白すぎました。でも笑いどころはすぐに終わり、侍の時代が終わっていく怒りや悲しみや絶望に飲み込まれる表現、それでも新しい時代を生きていく姿。坂東は日本最後の、武士よりも武士らしい侍でした。

配信特別ver.で、休憩時間にもずっと殺陣の確認をしているところも素敵でした。


石川健一さん(沖田総司)

病に侵されても、最期まで丸腰ではいられなかった侍。死に際に半狂乱で刀を振り回す様が恐ろしく美しかったです。

戦いのシーン以外では、町娘に対して塩対応でも貰った人形はちゃんと持ったままだったり、八木さんに「また遊びに来たい」とまっすぐに言えたり、そういう優しさがなんかいいなあと思いました。モテるよね。


侑奈里咲さん(しず)

去年の元気いっぱいの可愛い少年役からガラッと変わり大人の女性に。どんな役も合ってしまうのが本当にすごい…!

色っぽい関西弁やケンちゃんを嘲るような笑い方から本心が少しずつ出てきてしまう声色、自分の名がついた刀を握る瞬間の表情、とても引き込まれました。

沖田の世話をしているときの話し方も、遊女のときとはまた違って可愛らしかったです。


菜ノ香マカさん(星野茜子)

菜ノ香さんが強火のオタクを演じるともう最強。たまに暴走しつつ、ご新規さん(森下ちゃん)をもてなして沼の底に引きずり込む。劇中の歴女界隈はきっと温かい沼なんだろうなと感じました。

お芝居をしながらの配信用カメラでの撮影もお疲れさまでした!新選組愛、松原愛が伝わってくる臨場感たっぷりのカメラワークでした!


わたなべかずひろさん(新田革左衛門/柳楽つぶて/写真屋)

3役とも雰囲気が違いすぎてお一人で演じられているのがすごい…!

去年のニベアの方の印象が強すぎるせいだと思うのですが笑、シリアスな役柄が新鮮で素敵でした。柳楽の台詞や話し方から出てくる、ただならぬ雰囲気にゾッとしました。でも写真屋さんの明るくて優しそうな人柄も良きなのよ~!


天野ユウさん(藤堂平助/和田庄助)

藤堂と永倉の息の合った掛け合いや広島行きバトルの盛り上がりにたくさん笑わせてもらいました!笑

同じ新選組で時期的には被るところもあるくらい近い役だった藤堂と和田だけど、入れ替わりがあまりにも自然で演じ分けがすごかったです。あと明治になってからの和田の衣装がとっても似合ってました…!


平安山彩さん(チェリー原田/さくら)

去年の「Dear...私様」で、仮面を外したあとの優しい笑顔がとても印象的だった平安山さん。今年はどの役もキャラが濃い。好きです。

謎のエナジーお姉さん、小梅先生のおっかない助手、新選組箱推し町娘の狂気じみた感じも中毒性があります。好きです。


伊藤慧さん(安藤早太郎/伊東甲子太郎)

生真面目っぽい弓使いの安藤と高飛車な伊東の演じ分けが好きです。

序盤でまだ新選組に興味がない森下ちゃんにすら「ばか!」って言われてしまう安藤が面白かったです。弓刺さってよかった。

伊東さんの話し方が絶妙にムカつく感じでとても良かったです!笑


高橋みのるさん(人斬りケンちゃん)

お調子者だけど憎めないケンちゃん。近藤を斬れなかった後の悲しそうな笑顔にグッときました。

「自分で切れ味を確かめたい」と打った刀は結局自分で斬ることはなく、他人に握られることで二度も命を救われたというところが、切なくもあり救いでもあるように思えます。「しず」には、作り手と刀を握った者の想いがきっと宿っているはず。


丸山有香さん・種﨑敦美さん・桃井絵理香さん(森下あすみ)

私自身、(銀魂はそうでもなくて)刀剣乱舞くらいでしか新選組の知識がなくて、紙媒体でモノを作る仕事をしている社会人2年目なので、森下ちゃんが一番身近に思える役どころでした。

森下ちゃんが物語にのめりこんでいく様は、初めてグワィさんの舞台を観たときの自分に重なる部分があって感慨深かったです。

(去年までグワィさん関連のツイートをしていたアカウントを消してしまったので、本当は初めてグワィさんの舞台を観た2018年の話も書きたかったのですが、長すぎて収拾がつかなくなりそうだったのでそれはまた別の機会に)


丸山さんは元々オタクの気質がある感じの森下ちゃん、種﨑さんは一番新人さんっぽくて初々しい森下ちゃん、桃井さんは一見クールだけど心の中では情熱がメラメラ燃えている感じの森下ちゃん。

お三方とも全く違った雰囲気の森下ちゃんを演じていて、見比べるのも楽しかったです。


考えたことーアナログとデジタルの話

私は社会人2年目で、紙媒体のモノを作る仕事の端くれでもあるので、劇中では森下ちゃんが一番身近な存在だった。


自分の仕事はなぜ紙媒体である必要があるのか?という疑問は、この部署に配属になったときから常に頭にあったように思う。


特にこの数ヶ月間、職業柄もあり、このご時世もあり、広い意味での「アナログとデジタル」の関係を考える機会が多くなった。

その意味でも、今年の作品は自分にとってタイムリーだった。

劇中で先輩の茜子さんは「ページをめくれば次の物語へ、戻れば前の物語へ」「残り半分の厚みにワクワクする」と言っていた。


本に限らず、アナログのものは「全体」がベースになっている。


例えば、アナログ時計とデジタル時計。

15分後、6時間後など、針を見るだけで計算できる単純さ。


例えば、紙の辞書と電子辞書。

調べていた言葉の前後で、たまたま目に入った知らない言葉が頭の片隅に知識として蓄積される。


例えば、CDとサブスクリプション。

前後の曲の繋ぎや、アルバムを通しで聴いたときにしか感じられない世界。


全体を捉えることは、時に「欲しいものだけを手に取ることができる」環境よりも優れていることがある。

でも、デジタルにも良いところがたくさんある。


今は情報が溢れすぎているから、そのすべてを手に取る時間も体力もないから、自分が知りたいことだけを得られれば良い。プロセスより結果を重視しがちになる。時短で手軽で便利。


手軽、という面では、サブスクや電子書籍、ライブや舞台の配信もそう。

サブスクがなければ存在すら知らずにいたかもしれないアーティストや曲がたくさんあるし、今回の公演も配信があったからこそこの文章を書けている。

特にコロナ禍以降のライブや舞台などの配信は、多くの人にとって新しい世界や「沼」を知るきっかけになったと思う。

私自身、これまで興味がなかったのに、配信ライブをきっかけにファンクラブに入るまでになったアーティストがいる。いつもは都合が悪くて諦めていたけど、配信があったから初めて見ることができた、というライブもある。


場所や時間を問わず、比較的安価で簡単にエンタメに触れられる文化ができたことは本当にありがたい。それに、往年の大ファンから「お試し」感覚の初見さんまで、その場の雰囲気を知っていても知らなくても、周りの目を気にせず楽しめる。

要するに、「ハードルが低い」。


それは他のアナログとデジタルの関係にも多かれ少なかれ当てはまることで、「わざわざ」アナログのものに手を出さなくても興味の幅を広げ、楽しむことができる。


例えば、劇中では絶版になってしまった「刹那的な暮らしと丸腰の新選組」に電子版があれば、古本屋やオークションを探し回らなくても作品を読むことができる。

SNSにリンクを貼って拡散すれば、「刹那的な暮らし~」の存在を知らない新米歴女たちに布教ができる。それが広まってさらに語り継がれると、作品はさらに長い間生き残る。


良いものはきっと長く残る。残るためにはそれを新たに知ってくれる人が必要で、そのためには知ってもらうチャンスをなるべく多く、なるべく簡単に、提供し続ける必要がある。

でも、その上で、「わざわざ」の手間をかけたい物好きは一定数いる。私も含めて。


それは、前述のアナログの良さを知っているから。デジタルでは決して得られない喜びを知っているから。

その喜びの一つとして言えるのは、これはエンタメの分野で顕著に表れるように思うけど、アナログのものは、「すべての感覚が記憶に残る」ということ。


本のページをめくる感触や音。出版社や単行本・文庫本によって違う紙質。カバーの装丁。

新品のCDの、ビニールを剥がすあの感覚。ケースや歌詞カードのあの匂い。デッキにCDを置いて、再生ボタンを押す瞬間の嬉しさ。


そういう意味では、生で観るライブや舞台も「アナログ」と言える。


10月に、コロナ禍になってから初めて生のライブを観た。

社会人になってから3カ月に一度くらいのペースでライブに行くようになり、今年は月1ペースになる予定だった。私にとって、ライブはとても身近で大切な時間だった。

2月中旬に行ったライブを最後に、その当時行く予定だったライブはすべて中止になった。


8カ月振りに、画面越しではない、遮るものがなにもない、生の音を浴びた。


音楽にはもちろん感動した。でも、それだけではなかった。

入場して、ステージのセットを見たときの高揚。声は出せないけど、物凄い勢いで高まっていく会場の熱気。目が痛いほどの眩しい照明。曲中や前後の無音の瞬間のピリッとした緊張感。


視覚や聴覚だけじゃなくて、持っているすべての感覚を使って楽しむ没入感。

この感覚だけは生でしか味わえない。 


舞台もそう。

私は2年前からグワィさんの舞台を観に行っている。北海道に住んでいるので、まず東京に行くことからグワィさんの舞台がスタートする。


11月末の、北海道に比べるとまだまだ暖かい気温の東京。少し汗ばみながら、池袋へ向かう。賑やかな駅から少し歩いただけで閑静な道になり、シアターグリーンに着く。


開演前の、グワィさん所属の役者さんがそっと出てきて挨拶をしてくれる、あのゆるっとした時間。そのゆるさが嘘みたいな開演後の雰囲気。

尾形さんの口上にも似た出演者・スタッフ紹介と「以上、グワィニャオンでお送りいたします!」の言葉、客席を駆け上がるスポットライト。


劇中は、ステージの熱が客席に伝わってきて体温が上がったり、ツボにはまってしまって必死に笑いをこらえたり、怒号に震え上がったり、複数回観ているときには、初回では気づかなかった伏線で隣の人よりもだいぶ早く泣き始めてしまって(ネタバレになったらどうしよう)とか謎の心配したり。


終演後は、泣きすぎてヘロヘロになりながら、語彙力のない感想をアンケートに書く。観劇直後だと「良かった」「すごかった」くらいしか言えないのが歯がゆいけど、高揚した気持ちと勢いのまま役者さんにご挨拶しにいく。お話できなかった方にも、会場を出るまでに何度も「ありがとうございました」と直接言える。感動と浮かれた気持ちでふわふわしながら池袋駅に向かう。多幸感をたくさん抱えて、不在の間に雪が積もり冬本番を迎えた北海道に戻る。グワィさんから貰った幸せをエナジーに変えて、厳しい冬の生活を乗り越える。


そういうものが、全部全部大切な思い出だった。観劇中のことも、その前後のことも。


作品自体は2時間くらいだけど、その前後の何時間、何日、何カ月もずっと心が満たされる。だから、毎年観に行きたいと思った。これからも大事にしたいと思った。


配信は本当にありがたいし、新しい楽しみ方もできる。

でも、その上で私は、生でグワィニャオンの舞台を観たい。

こんなことをずっと話していると無限ループに陥ってしまうので、このあたりでやめておく。

アナログもデジタルも、どちらが良いとか悪いとかではなくて、どちらにも良いところも悪いところもある。性質上、完全に一緒にすることはできない。だから、どちらも残していきたい。


変わるものがある。変わらないものがある。


でも、ただ黙っているだけでは、変わるべきものが変わらなかったり、変わらないでいるべきものが変わってしまったりする。

だから、熱量をかけて、何が変わるべきか、何を変えずにいくべきかを考えていく。自分の信じたものを作る。自分の信じたことを続けていく。仕事でも趣味でも。

信じた通りにならなくても、いつか敗北したとしても、良い鞘を探し続ける。


その作業は苦しい。終わりがない。

けど、その先に今よりも良い世界はきっとある。

コロナ禍でいろいろと考え込む時間が増えて、ずっと頭の中でモヤモヤと溜まっていたものを吐き出すきっかけをくれたのは「刹那的な暮らしと丸腰の新選組」でした。

舞台を観て、いろいろなものを感じ取って文章にすることで、自分なりに2020年を清算できたような気がします。


2年前の「六月の斬る」でグワィさんの舞台を初めて観てから、作品を自分の信念や考え方とリンクさせて、作品を通してとことん自分と向き合うようになりました。

頭の中を整理して、文字として形に残すのはとても苦しい。けど、私にとってすごく大切なことなので、苦しみながらこれからも続けていきたいと思います。


その力をくれるのは、西村さんが生み出した脚本・演出であり、役者さんお一人お一人のお芝居であり、スタッフの皆さんの見えないご苦労であり、作品を作るすべての方の熱量のおかげです。今年は直接お礼を言えないので、ここで言わせてください。

グワィニャオンという劇団に出会えてよかったです。本当にありがとうございます。

来年は現地で観れますように!これからも大好きです!

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